EP 10
アルクス領の夜明け。ここは僕たちの国だ
アルクス領に赴任してから、わずか数週間。
僕の『100円ショップ』チートとAI『賢者君』の演算能力、そして頼れる仲間たちの力によって、辺境の貧乏領地は劇的な変化を遂げていた。
カンッ! カンッ!
「おう坊主! 例の『そーらーぱねる』とやらを組み込んだ街灯、大通りに設置し終わったぜ!」
ガンドフが、100均の『ガーデン用ソーラーライト』をドワーフの技術で巨大化・改造した魔導街灯を完成させ、豪快に笑う。夜になれば、この街灯が領地を明るく照らし出し、夜間の治安は飛躍的に向上した。
「ガッハッハ! 男爵様、また帝都の貴族どもから【アルクス特産・無農薬野菜】の大量発注が来たぜ! 100均の【化学肥料】と【ビニールハウス】のコンボ、恐ろしいほどの収穫量だな!」
ゴルスが分厚い札束(金貨の袋)をドサリと机に置く。気候に左右されない全天候型農園は、早くもアルクス領の莫大な財源となっていた。
「ふははははっ! 素晴らしい! 税収がうなぎ登りですぞ! この分なら、年末には念願の温泉旅行と……帝都第1階層のエルフのキャバクラ通いが現実のものに……っ! さぁ、次の決裁書類を持ってきなさい!」
館の執務室では、セバスが完全に俗物全開のモチベーションで、常人の数倍の速度で行政書類にハンコを押しまくっている。
そして、館の縁側(僕が100均の木材と工具で増築した)では。
「あー、日差しがぽかぽかして気持ちいいわぁ。労働なんてするもんじゃないわね。太郎、ストゼロのロング缶と、あとイカ天スナック追加で」
駄女神ルチアナが、相変わらずの芋ジャージ姿で寝転がりながら、領主である僕を完全にパシリ扱いしていた。
「お前もちょっとは働けよ……」
僕は呆れつつも、要求された酒とツマミをポンッと出して縁側に置いてやった。
夕暮れ時。
僕は館のバルコニーから、オレンジ色に染まるアルクス領を見下ろしていた。
少し前までどんよりと沈んでいた領民たちの顔には、今や活気と笑顔が溢れている。サリーの『100均診療所』の前では子供たちが元気に走り回り、ライザが鍛え上げた自警団が、ピシッとした足取りで巡回を行っていた。
「タロウさん。すごく、綺麗な街になりましたね」
背後から近づいてきたサリーが、バルコニーの手すりに寄りかかりながら微笑んだ。
「ええ。あなたがもたらした知識と道具が、この死に体だった土地に命を吹き込んだのよ。……誇っていいわ、タロウ」
ライザも、静かな声で僕の隣に並び立つ。
「僕一人の力じゃないよ。サリーの優しさ、ライザの強さ、それにみんなの協力があったからだ」
僕は、ポツポツと灯り始めたソーラーライトの光を見つめながら、胸の奥から湧き上がる熱い感情を噛み締めていた。
生き残るために必死だった第一章。
理不尽な力に立ち向かい、兵器を生み出してしまった第二章。
そして今、僕は『守るべき自分の国(箱庭)』を手に入れた。ここはもう、誰にも脅かさせない。僕の知識と仲間たちの力で、絶対に守り抜いてみせる。
アルクス領の夜明け。
僕たちの異世界DIY領地経営は、完璧なスタートダッシュを切ったのだった。
* * *
しかし、光が強くなればなるほど、それに惹きつけられる闇もまた、濃く、深く静まり返るものだ。
ルナミス帝国・帝都。
王宮の奥深くにある、窓のない秘密の円卓部屋。
そこには、帝国の経済と権力を牛耳る大貴族たちが、葉巻の煙をくゆらせながら集まっていた。
「……アルクス領の急成長、看過できんぞ。万年不作のド田舎から、我が領地を超える品質の作物が大量に流出してきている」
「ゴルド商会が独占しているという『浄水魔導具』の利権も莫大だ。あれを平民上がりのぽっと出の小僧が独占しているなど、帝国の秩序を乱す」
暗闇の中で、グラスの氷がカランと冷たい音を立てた。
「サトウ男爵……魔狼を退けた武力があるとはいえ、所詮は政治を知らぬ子供。この帝都の『真の恐ろしさ』を教えてやる必要があるな」
「うむ。力で潰す必要はない。経済と法、そして『劇薬』をもって、あの小僧から全てを奪い取ってやろう」
貴族たちの口元が、三日月のようにおぞましく歪む。
僕たちの平和な箱庭に、中央のどす黒い悪意が、音もなく忍び寄ろうとしていた。




