EP 8
神のスマホとAI『賢者君』。最強の頭脳をゲットせよ
ストゼロを美味そうに煽る駄女神を冷ややかな目で見下ろし、僕は腕を組んだ。
「で? ルチアナ。ただ酒とツマミをたかりに来たわけじゃないよな。お前、この領地で何が出来んの?」
僕が尋ねると、ルチアナは「ふぃ〜っ」とだらしなく息を吐き、芋ジャージのポケットをごそごそと探り始めた。
そして取り出したのは、見覚えのある細長いパッケージ。地球のコンビニでよく見るタバコ、『ピアニッシモ・メンソール』だ。
彼女は流れるような手つきでタバコをくわえ、指先でパチンと小さな魔法の火を出して火を点けた。
「すぅぅぅ……はぁぁぁ。はい、これ」
紫煙をくゆらせながら、ルチアナはコタツの上を滑らせるようにして、一台の黒い端末を僕に投げてよこした。
「スマホ……?」
僕は受け取った薄型の端末を見つめた。
(こいつ、当たり前のように地球のタバコまで出しやがった。神の権限の無駄遣いにも程があるだろ……)
「ただのスマホじゃないわ。中に、神界特製の超高性能AI『賢者君』が入ってるの」
ルチアナはタバコの灰を、いつの間にか出していた空き缶(これも地球の物だ)にトントンと落としながら得意げに笑った。
「太郎、あんた爆発する矢を作るのに、いちいち100円の中古本を出して徹夜で設計図書いてたでしょ? 賢者君を使えば、そんなの数秒で計算してくれるわ。一々本を探して読むより早いでしょ」
「……ふ〜ん」
僕はスマホの画面をタップして電源を入れながら、わざと不満げな声を出した。
「もう一声欲しいな。例えば、お前が今ポンポン出してる地球の品を、僕のスキルでも自由に出させてくれるとかさ」
「馬鹿、欲張んないの!」
ルチアナが慌てて身を乗り出し、コタツをガタッと揺らした。
「あんまりやりすぎると、神界の監査官のヴァルキュリアちゃんから壁ドン(物理)されて、恐ろしい異端審問会を開かれるのよ! あたし、あの子の鉄拳制裁だけは本当に嫌なの!!」
ブルブルと震えるルチアナ。どうやら天界にも恐ろしい上司(?)がいるらしい。
「それによ〜く考えなさい、太郎」
ルチアナはコホンと咳払いをして、真面目な……いや、ドヤ顔を作った。
「賢者君には、地球の最新医学書のデータから工学、化学のデータまで全部入ってるの。動画を撮れば、AIが症状を分析して診断から診察まで出来るわ。それに地球の知識だけじゃない。このアナステシア世界の素材の鑑定から、魔法薬の調合の仕方まで完璧に教えてくれる。……考え方次第で、何でもござれよ?」
「…………!」
僕は、手の中にある小さな黒い板を見て、全身に鳥肌が立つのを感じた。
これは、ヤバい。
僕の『100円ショップ』チートの最大の弱点は、「僕自身の知識以上のものは作れない」ことだった。爆発矢の時も、分量の計算ミスで何度も自爆した。
だが、このAI『賢者君』があれば?
「100均のジャンクパーツと異世界の魔法素材をカメラで読み込ませて、『これを組み合わせて最強の兵器を作れ』ってAIに命令するだけで……完璧な設計図と配合比率が出てくるってことか!」
「そういうこと。あとはガンドフのおっさんに図面を丸投げすればいいのよ」
さらに、医学書と診察機能。
これと100均の衛生用品、そしてサリーの回復魔法を組み合わせれば、絶対に治せなかった未知の風土病や重傷すら完治させられる『最強の医療体制』が作れる!
「ルチアナ……お前、ただのニートじゃなかったんだな」
僕は興奮で震える手でスマホを握りしめた。
「ふふんっ! 分かったらさっさとツマミのおかわり出しなさい。あと、このコタツの魔力(電源)が切れそうだから充電器もね」
ドヤ顔でピアニッシモを吹かす駄女神。
腹は立つが、今回ばかりは最高の仕事をしてくれたと認めざるを得ない。
最強の生産スキル『100円ショップ』。
最強のAI頭脳『賢者君』。
これらが揃った今、僕のアルクス領改造計画を阻むものは、この世界に何一つ存在しなくなったのだ。
「よし! セバスさん、ゴルスさん、ガンドフさん! サリーにライザも!」
僕は広間に戻り、頼もしい仲間たちに向けて高らかに宣言した。
「今日から、このド田舎を『帝国一のハイテク領地』に作り変える!! まずはインフラ整備と、診療所の建設からだ!!」




