EP 7
駄女神ルチアナ、帰還
ギィィィッ……。
重厚な木扉を押し開け、僕はアルクス領の領主としての第一歩を、自身の寝室となるであろう最奥の部屋へと踏み出した。
当然、そこにはホコリを被った天蓋付きのベッドや、年代物のアンティーク家具が並んでいる……はずだった。
「…………え?」
部屋の中央。
そこには、中世ファンタジーの荘厳な空間を完全に破壊する、四角いテーブルに分厚い布団が掛けられた『謎の要塞』が鎮座していた。
……いや、どう見ても日本の冬の魔将軍、『コタツ』である。
そして、そのコタツからにゅっと突き出しているのは、絶望的にダサいエンジ色の『芋ジャージ』に包まれた二本の足。
上半身をコタツに突っ込み、ゴロゴロと寝転がりながら、手元の魔導端末(どう見てもスマホ)をポチポチとタップして謎の電子音を鳴らしている女がいた。
ピロリロリン♪(ガチャの確定演出の音)
「あーっ! また爆死! なんでこのSSR騎士、排出率0.01%なのよぉ!」
銀色の美しい髪をボサボサに散らかし、絶世の美女の顔をだらしなく歪めているその女を見て、僕は目を剥いた。
「あ、あの駄目女神!?」
僕をこの異世界に送り込み、ハズレスキル『100円ショップ』を適当に押し付けた張本人。
女神ルチアナだった。
僕の叫び声に気づいたルチアナは、コタツからヌルリと顔を出し、悪びれる様子もなく片手を上げた。
「やっほー、太郎。来ちゃった♡」
「来ちゃった♡、じゃないよ!! なんで神様が僕の領地の寝室にいるんだよ! しかもなんだそのコタツとジャージは!」
「いやー、天界の仕事がブラックすぎてさ。太郎が領主になって自分だけの『箱庭』を手に入れたって聞いたから、神の力でこっそり不法侵入したってワケ。……ふぁぁ」
ルチアナは大きなあくびをし、完全に腐りきったニートの顔で僕を見上げた。
「ここで食っちゃ寝ゴロゴロしたいんだわ。ほら、領主になったんだし、神様をしっかりもてなしなさいな。酒と柿ピーだして。もち、太郎のスキルから」
「出てけぇぇ!!」
僕は全力でツッコミを入れ、扉を指差した。
ただでさえセバスやゴルス、ガンドフといった濃い連中が集まってカオスになっているのに、ここにきて最高位の『ニート神』まで寄生しに来るなんて冗談じゃない。
「神聖な領主の館を、実家の自室みたいにくつろぎやがって! 今すぐ天界に帰れ!」
僕が怒鳴ると、ルチアナはコタツ布団を頭から被り、バタバタと手足を暴れさせて子供のように駄々をこね始めた。
「あんだとコラ!! ここまで来るのに神力使い果たして、もう自力じゃ帰れないもんねーだ! 酒出す迄、絶対ここから動かないもんね! 一生コタツで生活してやるぅぅ!」
「この駄女神……っ!」
「タロウ? この無礼で下品な格好の女は一体……まさか、帝都で隠していた愛人!?」
ライザが剣の柄に手をかけ、般若のような顔で僕を睨みつける。
「ええっ!? タロウさん、こんなだらしない女の人が好みだったんですか!?」
サリーも涙目でショックを受けている。違う! 誤解だ!!
その後ろでは、セバスが「あぁ……また養わなければならない居候が……領地の財政が……」と白目を剥いて壁に手をついていた。
「あーもう、うるせぇ!!」
僕はブチギレながら、スキル『100円ショップ』を起動した。
食品・飲料コーナーの中から、限界まで安く、かつ最高に酔っ払えるヤバい代物を検索する。
ポンッ!
僕の手に現れたのは、アルコール度数9%を誇る悪魔の果実酒『ストロングゼロ(ドライ・500ml缶)』(約100円)と、おつまみの定番『柿ピー(小袋)』(100円)だ。
「ほらよ! これでも食って大人しくしてろ!!」
僕は容赦なく、ストゼロと柿ピーをルチアナの顔面に向けて全力投球した。
「ふぎゃっ!?」
見事に顔面で缶をキャッチしたルチアナだったが、そのパッケージを見るや否や、神様とは思えないほどの満面の笑みを浮かべた。
「ひゃっほう!! 脳髄を直接溶かす神の酒キター!! 太郎、お前最高! 生涯お前を推すわ!!」
プシュッ! と小気味よい音を立てて缶を開け、芋ジャージ姿の駄女神が真昼間から酒を煽る。
かくして。
僕のアルクス領には、頼もしい仲間たちと共に、絶対に働かない『ストゼロをキメる駄女神』という最悪の守り神が居座ることになってしまったのだった。




