EP 6
招かれざる先客たち。商人ゴルスと職人ガンドフ
ギィィィッ……。
長年油を差されていない重々しい音を立てて、アルクス領の領主の館、その巨大な木扉が開かれた。
「ここが今日から、私たちの拠点……」
ライザが油断なく周囲を警戒しながら足を踏み入れる。サリーも少し緊張した面持ちで僕の背後に隠れ、セバスは「掃除のやりがいがありそうな廃墟ですねぇ……」と絶望的なため息を吐いていた。
だが、広間に足を踏み入れた僕たちの鼻腔を突いたのは、カビや埃の匂いではなかった。
香ばしく焼けた肉の匂いと、強いエール(麦酒)のアルコール臭。
「おおっ! 遅かったじゃねぇか、男爵様!」
「待ちくたびれて、酒が全部空になっちまったぞ、坊主!」
「…………は?」
広間の中央。
埃を被っていたはずの長テーブルには、どこから持ち込んだのか大量の酒樽と肉の丸焼きが並べられ、見覚えのある二人の男が真っ赤な顔をして大宴会を開いていた。
大陸屈指の流通網を持つゴルド商会の商隊長、ゴルス。
そして、帝都の地下工房で『必殺の矢』を共に作り上げた偏屈ドワーフ、ガンドフだ。
「な、なんであんたたちが僕の領地にいるの!?」
僕が素っ頓狂な声を上げると、ゴルスはジョッキをドンッと叩きつけて豪快に笑った。
「ガッハッハ! うちの商会の情報網を舐めんなよ! 皇帝陛下が平民の小僧に男爵位と領地を与えたって噂、その日の夕方には帝都中の商人の耳に入ってたぜ!」
ゴルスは立ち上がり、ニヤリと商人特有の黒い笑みを浮かべた。
「あの『爆発矢』の製作者が、今度は手付かずの辺境を治める。……こりゃあ、絶対にバカでかい商機の匂いがすると思ってな。他の商会に目をつけられる前に、馬を飛ばして先回りさせてもらったってわけだ」
「俺はこいつに無理やり馬車に乗せられたんだがな。帝都の工房に引きこもってるのも飽きてきたし、お前のその『奇妙な知識』と『謎の素材(ジャンク品)』があれば、また面白いオモチャが作れそうだからついてきてやったぜ、坊主!」
ガンドフも、ヒヒヒッと悪党のように笑いながら髭についた泡を拭った。
「あなたたち……いくらなんでも図々しすぎるわよ」
ライザが呆れ果てて剣の柄から手を離す。サリーは「お肉美味しそう……」と少しだけヨダレを垂らしていた。
一方、僕の後ろにいたセバスは、片眼鏡を震わせながら胃の辺りを強く押さえていた。
「あぁ……強欲な大商人に、扱いの難しいドワーフの職人まで……。私の平穏な辺境(左遷)ライフが、着任初日から音を立てて崩れていく……胃薬、胃薬を……」
頭を抱えるセバスをよそに、僕は小さくガッツポーズをした。
(……完璧だ!!)
領地を『僕の考えた最強の箱庭』に改造するためのピースが、これ以上ない形で揃ったのだ。
100円ショップの無限の資材と現代知識を持つ『僕』。
面倒な行政と実務を取り仕切る有能な『セバス』。
作ったものを外部に売りさばき、足りない物資を流通させる『ゴルス』。
そして、100均の素材をこの世界に合わせて加工・建築できる凄腕の『ガンドフ』。
そこに、サリーの回復(医療)とライザの武力(治安維持)が加わる。
何もない辺境の地を、現代日本レベルのインフラが整った最強のハイテク領地に作り変えるための『ドリームチーム』が、着任初日にして結成されてしまったのだ。
「ゴルスさん、ガンドフさん! 大歓迎ですよ! これからこのアルクス領を、帝国一のヤバい領地に改造してやろうと思ってたところなんです!」
僕が嬉々として二人の手を握ると、悪友たちは「そうこなくっちゃな!」とさらに酒を煽り始めた。
「よし、まずはこの広すぎる館の探索から始めよう。セバスさん、各部屋の鍵は?」
「……はい。前領主が残していった鍵束がこちらに」
胃痛に耐えながらセバスが差し出した鍵束を受け取り、僕たちは館の奥へと進んでいく。
長い廊下を進み、一番奥にある立派な両開きの扉――おそらく領主の寝室であろう「開かずの間」の前にたどり着いた。
「ここが、僕の部屋かな」
ガチャリ、と鍵を回し、重い扉を押し開ける。
だが、そこには、さらなる『予想外の先客』が、あり得ない姿で待ち構えていたのだった。




