EP 30
猛烈な爆風が収まり、もうもうと立ち込めていた土煙と黒煙が風に流されて晴れていく。
「……」
誰も、声を発することができなかった。
かつてポポロ村の防護柵の前に広がっていた緑豊かな森の一部は、完全に蒸発していた。
そこに残っていたのは、ドロドロに溶け、ガラス状に結晶化した巨大なすり鉢状のクレーターだけ。
身の丈5メートルを超え、圧倒的な熱量と絶望を振り撒いていた『紅蓮の魔狼』の姿は、肉片はおろか、灰すらも残っていなかった。
ただ、クレーターの中心に、魔狼の心臓であっただろう赤黒く脈打つ極大の『魔石』だけが、ポツンと転がっている。
「……終わっ、た……?」
サリーが杖を取り落とし、へたりとその場に座り込んだ。
ライザも、刃のこぼれた愛剣を鞘に収めると、ふっと全身の力を抜き、荒い息を吐いた。
「ええ。私たちの……勝ちよ」
サンガさんをはじめとする自警団の男たちは、目の前に穿たれた、地形そのものを変えるほどの破壊痕を見て腰を抜かしたままガチガチと震えている。
無理もない。彼らにとって、魔法使いの全力ですら木を数本吹き飛ばす程度が常識なのだ。山を抉り、バケモノを文字通り「消滅」させたこの一撃は、もはや神の御業か、悪魔の所業にしか見えないだろう。
「……」
僕は、まだ微かに熱を帯びている弓を下ろした。
自分の手が、カタカタと小さく震えていることに気がついた。
これが、僕の生み出した力。
100円のジャンク品と、異世界の素材。たったそれだけで、数万の軍勢すら一瞬で消し炭にできる『絶対的な暴力』を、僕は手にしてしまったのだ。
『戦場を変えてしまう。どうしてもという時以外、使用は禁ずる』
ヴォルフさんの言葉が、再び脳裏にこだまする。
今回、村を守るためにはこれしか方法がなかった。後悔はしていない。
だが、もしこの力が、僕の意志とは無関係な悪意によって引き金が引かれたら?
「タロウさん!」
震える僕の手に、温かいものが重なった。
見ると、サリーが両手で僕の右手をしっかりと握りしめていた。涙でぐしゃぐしゃになった顔で、でも、どこか誇らしげに僕を見上げている。
「ありがとうございます……! タロウさんが、村を、お父さんを救ってくれたんです! タロウさんの力が、私たちを守ってくれたんです!」
「サリー……」
「タロウ。あなたのその手は、ただの破壊をもたらすものじゃないわ」
いつの間にか、ライザも僕の隣に立ち、クレーターの底に転がる赤黒い魔石を見つめていた。
「あなたがその力に飲まれないよう、私がずっと側で見張っててあげる。だから……一人で震えないで」
生真面目な天才剣士は、ほんの少しだけ頬を染めながら、そっと僕の背中に手を添えてくれた。
その温もりに、僕の震えは不思議とすーっと治まっていった。
そうだ。僕には、この力を使う「責任」がある。
そして、共にその責任を背負い、正しい道へと導いてくれる最高の仲間がいる。
「……ありがとう、サリー、ライザ。怪我はない?」
僕が微笑みかけると、二人は大きく頷いた。
サンガさんが、足を引きずりながら僕たちの元へ歩み寄ってくる。
その瞳には、かつて「最弱の小僧」に向けられていた呆れ色は微塵もない。圧倒的な力を持つ存在への、畏怖と深い感謝の念が宿っていた。
「タロウ……いや、タロウ殿。あんたには、なんと言って礼をすればいいか……」
「やめてくださいよ、サンガさん。僕はただ、100円の道具をちょっと工夫しただけですから」
僕はおどけて見せながら、ポポロ村の空を見上げた。
帝都でのサバイバル、そして故郷への凱旋。
僕の『100円ショップ』チートは、ただの便利道具から、世界を揺るがす特異点へと進化を遂げた。
だが、僕たちの戦いはまだ始まったばかりだ。帝都の暗部、迫り来る権力者たち、そしてまだ見ぬ未知の素材。
全てをこの「100均」の知識でぶっ壊し、僕たちの理想の盤面を作り上げてやる。




