EP 25
必殺の矢と、消し飛んだ岩山
帝都ルナミスの外郭からさらに数キロ離れた、人影のない荒野。
そこには、二階建ての家ほどもある巨大な岩石がゴロゴロと転がっている。
「……タロウ。本当にここで撃つ気? ただの矢一本の試し撃ちにしては大袈裟すぎる場所だけど」
岩陰から顔を覗かせたライザが、呆れたように周囲を見回した。
「いや、ガンドフさんとの計算上、これでもまだ近すぎるかもしれない。二人とも、もっと後ろに下がって、サリーの『光の盾』の後ろに隠れてて」
僕は弓を構え、その弦に、一週間かけて作り上げた『必殺の矢』をつがえた。
無骨な金属の弾頭。その中には、地球のジャンク品(圧電素子)と、この世界の軍事物資(火花鉱と精霊石)が、僕の化学計算によって極限のバランスで圧縮されている。
標的は、約100メートル先にある巨大な岩山だ。
(……着弾の衝撃で素子が作動。火花が鉱石に引火し、精霊石が威力を数百倍に増幅させる。理論通りなら……!)
僕は深く息を吸い込み、背中の筋肉で弓を限界まで引き絞った。
「……いくよ」
指を離す。
シュッ!
空気を切り裂く鋭い音と共に、必殺の矢が放たれた。
一直線に飛んでいく矢の軌跡を、僕たちは息を呑んで見つめた。
そして、無骨な金属の弾頭が、巨大な岩山の表面に激突した、その瞬間――。
カチッ。
微かな着火音が響いた直後だった。
ドゴオオオオオオオオオン!!
「なっ……!?」
「きゃああっ!?」
天地がひっくり返ったかのような、鼓膜を破るほどの爆音。
目も眩むような極大の閃光が弾け、その直後に、荒野の砂利を巻き上げた凄まじい爆風と熱波が僕たちを襲った。
「サリー、シールドの出力を上げて!!」
ライザが叫び、サリーが必死に杖を掲げて光の盾を維持する。
数十メートル離れた岩陰に隠れていたにもかかわらず、地面がグラグラと揺れ、熱い風が僕のパーカーをバタバタと激しく煽った。
やがて轟音が止み、もうもうと立ち込めていた土煙が風に流されていく。
「……嘘、だろ」
僕は、自分の放った矢の威力に言葉を失い、その場にへたり込んだ。
そこにあったはずの巨大な岩山は――跡形もなく『消し飛んで』いた。
代わりに残っていたのは、周囲の岩を飴玉のようにドロドロに溶かし、黒焦げになった巨大なすり鉢状のクレーターだけだった。
魔法の詠唱も、闘気の練り上げも一切なし。
ただ一本の『矢』が、地形そのものを変え、物理的に蒸発させたのだ。
「す、凄い……必殺だ! 本当に必殺の矢だ!」
サリーが、光の盾を解きながら震える声で叫んだ。
その顔には、驚愕と、圧倒的な力への畏怖が浮かんでいる。
「……あり得ない」
ライザもまた、ポニーテールを乱したまま、信じられないものを見る目でクレーターを見つめていた。
「これほどの破壊力……帝都の宮廷魔導士の全力詠唱でも、ここまで地形を抉り取ることはできないわ。しかも、あなたは魔力を一切消費していない。ただ弓を引いただけ……」
天才剣士であるライザの顔が、微かに青ざめているのが分かった。
「タロウ……あなた、自分の作ったものがどれだけ恐ろしいものか、理解しているの? もしこの矢が人間同士の戦争に使われたら……」
騎士道も、剣の技術も、魔法の修練も、全てを過去のものにしてしまう絶対的な暴力。
僕は震える自分の手を見つめた。
100円のジャンク品と、異世界の素材。
二つが組み合わさった結果生み出されたのは、ただの便利な道具でも、小賢しいトラップでもない。世界を簡単に壊せる、『兵器』そのものだった。
「……とにかく、まずはヴォルフさんに出来栄えを報告しよう。この矢の扱いは、僕たちだけで判断しちゃいけない気がする」
僕は強烈な冷や汗を拭いながら、破壊の跡を背に、帝都の冒険者ギルドへと足早に引き返した。




