EP 22
表向きの製作者、本物のドワーフ『ガンドフ』
「……矢が、爆発するだと?」
冒険者ギルド中央本部、マスター執務室。
分厚いオーク材のデスク越しに、ヴォルフさんは顔の傷をピクッと引きつらせて低い声を漏らした。
「はい。僕の知識と、この世界の素材を組み合わせれば可能だと踏んでいます。今後の激戦を生き抜くために、どうしても『決定的な火力』が必要なんです」
僕は昨日書き上げたばかりの設計図と、化学式をびっしりと書き込んだノートをヴォルフさんの前に提示した。
腕を組んで黙り込む巨漢のギルドマスター。
「……タロウ。お前さんの頭の中身が異常なのは分かっていたが、まさか兵器開発にまで手を出すとはな。だが、確かに理には適っている。ライザの剣が届かない遠距離から、その『爆発』とやらを撃ち込めるなら、これ以上ないアドバンテージだ」
ヴォルフさんは大きなため息を一つ吐き、デスクの引き出しから金属製の重々しい鍵を取り出した。
「分かった。帝都の地下工房にいる、ドワーフ職人の『ガンドフ』を紹介してやるわい。あいつは腕は超一流だが、性格がドス黒くて偏屈でな。お前さんの『100均グッズ』の表向きの製作者として名前を貸すことには同意したが……実際に会うのは初めてだな」
「ありがとうございます!」
「ライザ、サリー。タロウに変な真似をさせないよう、しっかり見張っておけよ」
「承知いたしました、お父様」
「はいっ、お任せください!」
* * *
帝都ルナミスの地下に広がる、職人街の最奥。
むせ返るような鉄と油の匂い、そして絶え間なく響くハンマーの打撃音が、ここがドワーフたちの聖域であることを物語っていた。
「ここね。ガンドフの工房」
ライザが、煤で真っ黒になった分厚い鉄扉をノックする。
「あぁん!? 誰だ、俺の集中を削ぐ馬鹿野郎は!」
扉が乱暴に開かれ、中から現れたのは、身長は僕の胸ほどしかないが、横幅は僕の倍はありそうな筋骨隆々のドワーフだった。
顔の半分を覆うボサボサの髭には油がこびりつき、ギョロリとした鋭い目が僕たちを睨みつける。
「ギルドマスターの紹介だぁ? 俺は忙しいんだ、ガキの遊びに付き合ってる暇は……」
「初めまして、ガンドフさん。佐藤太郎です。突然すみませんが、これを見てくれませんか」
挨拶もそこそこに、僕は彼に『設計図』と、100均(ジャンク品)で出した『着火用ライターの圧電素子(カチッと押すと火花が出る部品)』を差し出した。
「あぁ? なんだこの薄っぺらい紙の束は……」
面倒くさそうに設計図を受け取ったガンドフだったが、そこに書かれた化学式と、矢の構造図(弾頭部分に火薬と着火装置を仕込む図解)を見た瞬間、ピタリと動きを止めた。
「…………こ、この緻密な計算式はなんだ!? 魔法陣でもねぇのに、物質の反応だけで爆発を起こすだと!?」
「はい。そして、この小さな部品(圧電素子)を矢の先端に仕込み、着弾の衝撃で微弱な雷(静電気)を発生させ、内部の粉末に引火させます」
僕がカチッ、とライターの部品を押して小さな青い火花を散らしてみせると、ガンドフの目が限界まで見開かれた。
「な、なんだこの極小の魔導具は!? 魔力を一切通さずに雷を生み出したぞ!? おい坊主、お前これ、どこで……いや、聞かねぇ! 聞くのが恐ろしいくらいにヤバい代物だ!!」
偏屈なドワーフの顔に、職人特有の抑えきれない好奇心と、狂気じみた笑みが浮かび上がった。
ガンドフは設計図をひったくるように抱え込み、僕の肩をバンバンと叩いた(痛い)。
「矢に爆発属性をねぇ……おもしれぇ!! 最高にイカれてやがる! ギルドマスターの旦那が『表向きの製作者になれ』なんてふざけた依頼をしてきた時は蹴り飛ばしてやろうかと思ったが、こいつは俺の職人魂をこれでもかと燃やしやがる!!」
興奮冷めやらぬガンドフだったが、図面を睨み直してふと顎髭を撫でた。
「だが坊主、お前の知識とこの極小パーツだけじゃ、威力が安定しねぇし規模も小さすぎる。真の『爆発』を起こすなら、この世界の素材と融合させる必要がある」
「この世界の素材、ですか?」
「ああ。火薬の着火を確実にするための『火花鉱』と、爆発の威力を魔力で数十倍に増幅させる『精霊石』が必要になるな」
ガンドフは腕を組み、難しそうな顔をした。
「だが、どっちも帝都じゃ軍が管理してる希少な魔法物資だ。その辺の市場じゃ出回ってねぇし、出回ってても目ん玉が飛び出るほど高い。材料はどうするよ?」
軍事用の希少物資。
その言葉に僕が頭を抱えかけた時、横で聞いていたサリーがポンッと手を叩いた。
「あの……それなら、ゴルド商会のゴルスさんに相談してお取り寄せしてもらったらどうでしょうか?」
「ゴルス……あぁ! 街道で助けた、あの商隊長の!」
大陸屈指の流通網を持つゴルド商会。そして、オークの襲撃から命を救った恩義。
材料を調達するためのコネクションは、すでに僕たちの手の中にあったのだ。




