EP 21
100円の叡智(中古本)と、ランボーの概念
「……いける。これなら、いけるぞ」
帝都の安宿。サリーとライザが寝静まった深夜の部屋で、僕は一人、ランプの微かな明かりを頼りにページをめくっていた。
机の上に積み上げられているのは、数冊の古びた本だ。
『図解・高校化学基礎』
『サバイバル読本・野外での着火と工作』
『月刊ミリタリー・世界の特殊部隊(古本市で投げ売りされていたバックナンバー)』
すべて、僕のユニークスキル『100円ショップ』の検索条件を「中古品・100円以下」に設定して引っ張り出した、地球の叡智の結晶である。
「火薬の基本は、硝石、硫黄、木炭……。でも、地球の素材だけを100円のジャンク品から集めるには限界があるし、安定性にも欠ける」
僕はブツブツと独り言を呟きながら、ノートに数式や化学式を書き殴っていく。
もし現代日本の知識だけで兵器を作ろうとすれば、ただの素人である僕には暴発のリスクが高すぎる。
だが、ここは剣と魔法のファンタジー世界・アナステシアだ。
「この世界には、僕の知らない魔法の素材がある。火を生み出す鉱石や、魔力を増幅させる石……。僕が出す『地球のジャンクパーツ』や『化学の知識』と、アナステシア世界の『魔法素材』を掛け合わせれば」
単なる足止めの罠じゃない。
僕自身が放つ、敵を木っ端微塵に粉砕する『圧倒的な火力』を生み出せる。
興奮で眠気などとうに吹き飛んでいた。
僕は朝が来るまで、頭の中で何度も何度も「最強の矢」の設計図を組み上げては修正を繰り返した。
* * *
翌朝。
窓から差し込む帝都の朝陽で目を覚ました二人の美少女は、目の下にクマを作りながらも異様に目をギラギラさせている僕を見て、ギョッと身をすくませた。
「た、タロウさん!? どうしたんですかその顔! 一睡もしてないんですか!?」
サリーが慌てて駆け寄り、僕の顔を覗き込む。昨晩のシャンプーのおかげで、至近距離からフローラルな香りが漂ってきて少し理性が揺らいだが、今の僕にはそれ以上に伝えたいことがあった。
「おはよう、サリー、ライザ。……二人とも、ちょっと聞いてほしい」
「何よ、朝から。ひょっとして、また何か変な道具でも思いついたの?」
剣の素振りをしようとしていたライザが、呆れたようにため息をつく。
僕は机の上に広げた化学本と手書きの設計図をバンッと叩き、満面の笑みで宣言した。
「矢に、『爆発属性』を付けたいんだ」
「……爆発、属性?」
「そう! 着弾した瞬間にドカンと敵を吹き飛ばす、とんでもない威力の矢だ。イメージとしては、そうだな……映画の『ランボー』みたいな感じで!」
僕の熱弁を聞いた二人は、顔を見合わせてポカンとした。
「……ランボー?」
ライザが、真剣な顔つきで顎に手を当てる。
「聞いたことがない名前ね。西の神聖連国にいるという、爆炎の魔法を操る高名な騎士かしら? それとも、過去の英雄?」
「え、あ、いや。頭に赤いバンダナを巻いて、ジャングルで一人で軍隊をボコボコにする、タンクトップの筋肉だるま……っていうか、僕の故郷の物語の主人公なんだけど」
「なるほど、赤い鉢巻きの重戦士ね。一人で軍隊を殲滅するとは、間違いなくSランク以上の武の達人。……タロウ、あなた、そんな偉大な武人を目標にしているのね」
「ライザちゃん、ランボーさんってすごいんですね……!」
完全に明後日の方向に勘違いをして尊敬の眼差しを向けてくる二人を見て、僕は「まぁ、強くなりたいって意味では間違ってないか……」と説明を諦めることにした。
「とにかく、僕の知識とこの世界の素材を合わせれば、その『爆発する矢』が作れるはずなんだ。ただ、僕には細かい金属加工の技術や、魔法素材の知識がない」
僕の言葉に、ライザは腕を組み、剣士としての鋭い目つきに戻った。
「……タロウの言う通り、もし弓矢に爆発の魔法に近い威力を乗せられるなら、私たちの戦力は飛躍的に向上するわ。でも、そんな危険な兵器の開発、その辺の鍛冶屋に頼めば一発で帝国の騎士団に目をつけられるわよ」
「うん、それが問題なんだ。誰か、腕が良くて、絶対に秘密を守ってくれる職人がいれば……」
僕が困り顔で呟くと、ライザはふっと口角を上げ、自信ありげにポニーテールを揺らした。
「そういう事なら、お父様にご相談した方が良いですわ。お父様なら、口の堅い裏の職人……いえ、『表向きの製作者』として名前を借りる予定だった、あの偏屈なドワーフに話をつけてくれるはずよ」
「そうか! ギルド専属のドワーフ職人!」
僕はバチンと指を鳴らした。
冒険者ギルドという最強の隠れ蓑。そして、未知の技術に目がなく、権力を嫌うドワーフという種族。僕の『ランボー・アロー(仮)』を共同開発するには、これ以上ない完璧な人材だ。
「決まりだ! 早速、ヴォルフさんのところへ行こう!」
僕たちは急いで身支度を整え、帝都の喧騒の中、冒険者ギルドの中央本部へと足早に向かった。
僕の100円の叡智と、ファンタジーの技術が激突する、運命のプレゼンテーションの幕開けだった。




