EP 18
初陣・チームタロウ! 100均トラップ × 神速の抜刀術
翌朝。帝都ルナミスの冒険者ギルドに向かう道すがら、僕たちは猛烈な視線を浴びていた。
その原因は、僕の両脇を歩く二人の美少女にある。
「……ねぇ、ライザ。みんなこっち見てない?」
「気のせいよ、タロウ。堂々としていなさい」
そう答えるライザだが、彼女が歩くたびに、ポニーテールに結わえた赤髪が、まるで宝石を散りばめたようにキラキラと輝き、フワッと現代のフローラルな香りを撒き散らしている。
昨晩、公衆浴場で『100均トラベルセット』の威力を骨の髄まで味わった彼女たちは、髪も肌も、帝都の貴族令嬢すら裸足で逃げ出すほどの「極上の仕上がり」になっていた。
「ふふっ、タロウさんのくれた魔法の薬、すごいです! 髪が全然絡まないんですよ!」
サリーも上機嫌で、亜麻色の髪を指に巻き付けて遊んでいる。
(……これ、目立ちすぎて逆に危ないんじゃなかろうか)
そんな心配をよそに、ギルドに到着した僕たちは、ヴォルフさんから直々に「初陣」となるクエストを受注した。
【依頼:荒野の『アーマード・ボア(鋼鉄猪)』の群れ討伐】
【難易度:Bランク相当】
帝都近郊の岩場に生息する、全身が鋼のように硬い皮膚で覆われた巨大な猪の群れだ。その突進は、生半可な盾では防ぎきれない。
「いいこと、タロウ。アーマード・ボアは皮膚が硬いから、あなたの弓では決定打にならないわ。私が正面から引き受けるから、サリーは後方支援、あなたは……」
現場の岩場に到着し、ライザが作戦を立てようとした時だった。
「ブモォォォォォッ!!!」
岩陰から、体長3メートル近い巨大な鋼鉄猪が5頭、砂煙を上げて突っ込んできた。いきなりの奇襲だ。
「チッ、早いわね! サリー、防御魔法を! 私は前へ――」
「待って、ライザ! 正面からぶつかる必要はないよ」
抜刀しかけたライザの肩を、僕が制止した。
「は? 何言ってるの。あんな質量の塊、止めないと私たちが潰されるわよ!」
「大丈夫。僕が『整地』するから」
僕はニヤリと笑い、スキルウィンドウを展開。
接近してくるボアの群れと、僕たちの間にある、岩と岩の狭い通り道を見据えた。
(……計算通り。あそこを通るしかない)
僕は素早くアイテムを取り出し、地面に仕掛けた。
使ったのは、100均の『園芸用ワイヤー(緑色)』(100円)と、昨日も活躍した『超強力潤滑シリコンスプレー』(100円)を3本。
「ブモォォッ!」
先頭を走るボアが、僕たちの目の前の狭い通路に差し掛かった、その瞬間。
ピンッ!
「ブギッ!?」
地面スレスレに張られた、視認困難な細いワイヤーに前足を取られ、ボアがつんのめった。
だが、それだけでは終わらない。
ズルルルッ!!!
「ブギョォォォォォッ!?」
つんのめったその場所は、僕がシリコンスプレーを大量に噴射しておいた、摩擦係数ゼロの『超すべる床』ゾーンだった。
体勢を崩したボアは、氷の上を滑るように回転しながら後続のボアたちを巻き込み、巨大な鋼鉄の塊となって岩壁に激突した。
ズドォォォン!!!
「……は?」
ライザが、抜刀の構えのまま呆然と立ち尽くす。
5頭のBランク魔獣が、僕たちに指一本触れることなく、勝手に転んで団子状態になって悶絶している。
「……タロウ。あなた、本当に性格がねじ曲がってるわね」
「最高の褒め言葉だよ、ライザ。――さぁ、仕上げはお任せするよ!」
僕の言葉に、ライザがハッと我に返る。
彼女の纏う空気が、一瞬で張り詰めた剣士のものに変わった。
「……ええ。任されたわ」
ライザが静かに腰を落とし、鞘に手をかける。
その瞬間、彼女の周囲の空気が歪んだ。膨大な量の『闘気』が、体外に放出されることなく、全て腰の「鞘の中」へと圧縮されていく。
「サリー、強化を!」
「はいっ! 『風の祝福』!」
サリーの魔法がライザの体を包み、その速度をさらに底上げする。
「すぅぅぅ……」
ライザが息を吸い込む。圧縮された闘気が臨界点に達し、鞘が微かに鳴動する。
「――秘剣・『閃光』」
タンッ!
足元の岩が砕けた。
次の瞬間、ライザの姿が掻き消えた。
ヒュンッ――。
団子状態になっていたボアたちの間を、一陣の赤い風が駆け抜けた。
それだけだった。
ライザはすでにボアたちの背後に立ち、静かに残心をとっている。剣は、抜かれてすらいないように見えた。
「……え? 今、何が……」
僕が目を凝らした、その時。
カチッ。
静寂の岩場に、ライザが剣を鞘に納める硬質な音が響いた。
それが合図だったかのように。
ズズンッ……!!!
5頭の巨大なアーマード・ボアの体が、鼻先から尻尾まで、綺麗に上下真っ二つにズレて、崩れ落ちた。
その切断面は、鋼鉄の皮膚ごと焼き切られたように滑らかだった。
「…………化け物だ」
僕は思わず呟いた。
100均のワイヤーとスプレーで敵を無力化する僕も大概だが、この神速の抜刀術は次元が違う。
「ふぅ……。髪が乱れてないかしら」
ライザが振り返り、少しだけ頬を赤らめてツヤツヤのポニーテールを気にする仕草を見せた。
さっきまで鬼神のような居合を放っていた人物と同一人物とはとても思えない。
(……このパーティー、思った以上に「壊れ性能」かもしれない)
僕の邪道なトラップで敵の隙を作り、ライザの圧倒的な火力で殲滅し、サリーが盤石のサポートをする。
Bランクの群れを、初陣で完封してしまった。
「お疲れ様です! 二人とも、すごすぎます!」
サリーが駆け寄ってきて、僕たちに回復魔法をかけてくれる(かすり傷一つないので気休めだが)。
「ええ。タロウのあのセコい……いえ、合理的な罠のおかげで助かったわ。まさか、こんなにあっさり終わるなんてね」
ライザも、少しだけ僕の実力を認めたように頷いた。
こうして、結成されたばかりの「チーム・タロウ」の初陣は、帝都の魔獣たちに新たな恐怖(主に滑って転ぶ恐怖)を植え付けつつ、大成功で幕を閉じたのだった。




