The Discipline of Variationー日本語訳
前回掲載した
“The Discipline of Variation — The Seven QC Tools and Deming’s System View”
の日本語訳を掲載します。
本話は物語の補足ではありますが、それ以上に「考え方の整理」を目的とした講義回でもあります。
QC七つ道具やデミングの思想は、単なる技術論ではありません。
問題を「誰の責任か」で見るのか、それとも「構造の問題か」で見るのか。
その視点の違いが、物語の背景にあります。
実務経験のある方、学習中の方、あるいは全く別業界の方でも、それぞれの立場から読んでいただければ幸いです。
Deep Dive
ばらつきの規律
QC七つ道具とデミングのシステム観
本節は、物語に付随する技術講義として提示する。
品質管理の道具は、真実を生み出すものではない。
それは、証拠なしに主張できる範囲を制限するものである。
桜子がQCの本を開いたとき、
彼女は攻撃を選んだのではない。
規律を選んだのである。
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第I部 — QC七つ道具
1)特性要因図(Cause-and-Effect Diagram/フィッシュボーン図)
機能:証拠を集める前に仮説を整理する。
特性要因図は、定義された「結果」に対して、潜在的な原因(例:4M=Man, Machine, Material, Method)を配置する図である。
それは証拠ではない。
構造化された仮説の一覧である。
規律:
結果を正確に定義すること(どのラインか、どの寸法か、どの期間か)。
よくある誤り:
図を「責任追及表」にしてしまうこと。
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2)パレート図(Pareto Chart)
機能:優先順位を決める。
発生頻度やコストで項目を順位づけする。
80/20の傾向はしばしば見られるが、常に保証されるわけではない。
規律:
カウント方法を標準化し、対策後に必ず更新すること。
よくある誤り:
主要原因を「その他」に隠してしまうこと。
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3)チェックシート(Check Sheet)
機能:観察を標準化する。
データは収集前に設計されなければならない。
時間、シフト、設備番号、ロット番号を含めること。
識別情報がなければ、後の分析は推測に堕する。
よくある誤り:
結果だけを記録し、状況を記録しないこと。
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4)ヒストグラム(Histogram)
機能:分布を可視化する。
データは中心にあるか。
広がっているか。
歪んでいるか。
二峰性か。
ベル型であることは、健全であることを意味しない。
仕様限界(Specification Limits)と
管理限界(Control Limits)は別概念である。
よくある誤り:
測定誤差を無視すること。
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5)散布図(Scatter Diagram)
機能:変数間の関係を探る。
相関は問いを示唆するが、因果を証明するものではない。
非線形効果や閾値も考慮すべきである。
よくある誤り:
関連をそのまま因果と断定すること。
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6)管理図(Control Chart)
機能:共通原因変動と特別原因信号を区別する。
それは装飾ではなく、意思決定の規則である。
管理限界は安定したデータから算出される。
それは統計的安定性を示すものであり、顧客満足を保証するものではない。
よくある誤り:
変動が出るたびに調整する「過剰操作(tampering)」。
【※意訳】“tampering” は直訳すると「干渉」だが、実務上は「過剰な調整」の意味で用いられるため、この訳語を採用。
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7)層別(Stratification)
機能:隠れた構造を明らかにする。
データは、異なる条件が混在しているために安定して見えることがある。
シフト、設備、仕入先ロット、設定条件などで分ける。
よくある誤り:
識別情報を記録していない状態で層別を試みること。
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第II部 — W・エドワーズ・デミング博士
W・エドワーズ・デミング(1900–1993)は、現代品質思想に大きな影響を与えた統計学者である。
彼の貢献は数式以上に、哲学的態度にある。
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1)「神を信じる。その他の者はデータを持って来い。」
“In God we trust. All others must bring data.”
これは信頼を否定する言葉ではない。
信頼を運用可能なものにする言葉である。
「やる気」「姿勢」「努力」といった曖昧な管理語は、
測定可能な定義なしには機能しない。
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2)「問題の94%はシステムに属する。」
“94% of problems belong to the system.”
この数値は象徴的である。
本質は構造である。
多くの欠陥はシステム設計に由来する。
•工程能力
•設備の限界
•材料の一貫性
•方針決定
•教育構造
•インセンティブ設計
初期仮説はこうあるべきである。
まずシステムを検証せよ。
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3)工程能力(Cp, Cpk)への含意
工程能力指数は、仕様限界に対するばらつきを示す。
Cpkが低下した場合、規律ある問いは次のようになる。
•システムに何が変化したのか。
•工程は安定していたのか。
•測定条件は変わっていないか。
•層別は行われたか。
その問いは、道徳的ではない。
構造的である。
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結語
QC七つ道具は告発しない。
デミングの思想は慰めない。
両者は制約を課す。
説明可能な範囲を限定する。
桜子にとって、この本は武器ではない。
不安を検証可能な構造へ変換するフレームワーク(枠組み)である。
そして、構造が定義された瞬間、
証拠が求められる。
品質管理は、正解を与える技術ではありません。
問い方を制限する技術です。
・あなたの職場では、問題はまず「個人」に向きますか?
・それとも「仕組み」に向きますか?
・データは、安心材料として使われていますか? それとも検証の道具として使われていますか?
今回の内容について、
「わかりやすかった」「難しかった」「実務ではこうだ」など、率直なご感想をいただけると嬉しいです。
講義回は読者の反応が見えにくい部分でもあります。
だからこそ、少しでも声を聞ければと思っています。
次回は、再び物語に戻ります。




