Verification of Disciplineー解答・解説・日本語訳
物語を一度、止める
本章では、前回の英文本文の日本語訳と設問解説を掲載します。
物語は前に進みましたが、分析はまだ途中です。
その構造を正確に理解するために、一度立ち止まります。
管理図が示したのは不安定性でした。
層別が示したのは挙動の変化でした。
散布図が示したのは相関でした。
しかし、それらは「犯人」を指さしてはいません。
4M分析は責任追及の道具ではありません。
仮説を順番に削るための枠組みです。
Manを検証し、
Machineを分離し、
そして視点はMaterialsへ移りました。
今回の回は、その移行がどのような論理で行われたのかを確認するためのものです。
物語の緊張よりも、順序を優先します。
解答・解説
Verification of Discipline: Stratification and the Trap of the Charts
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Question 1
What was the main purpose of Sakurako’s X̄–R Control Chart?
Correct Answer: (B) To determine whether the process was statistically stable
解説
管理図の目的は「能力評価」ではありません。
まず確認すべきは工程が統計的管理状態にあるかどうかです。
本文中でも、
Before discussing capability, stability had to be addressed.
と明示されています。
(A) は財務目的であり本文に記載なし。
(C)(D) も管理図の目的ではありません。
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Question 2
What did Nishino’s comparison test reveal?
Correct Answer: (C) Changing the Machine factor did not stabilize the output
解説
西野は金型を最新の高精度プレスへ移し、Machine要因を改善しました。
しかし結果は変わりませんでした。
つまり:
Machineを改善しても安定しなかった
=原因はMachine単独ではない
(A)(B)(D) は本文と矛盾します。
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Question 3
Why did Sakurako avoid discussing process capability (Cpk) at this stage?
Correct Answer: (C) Capability requires a stable process
解説
工程能力指数(Cpk)は工程が安定していることが前提条件です。
本文では管理図で管理外状態が確認されています。
安定していない工程で能力を議論するのは統計的に誤りです。
(A)(B)(D) は本文の論点ではありません。
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Question 4
What relationship did the Scatter Diagram suggest?
Correct Answer: (B) A positive relationship between exposure time and dimensional variance
解説
散布図では、
縦軸:寸法分散
横軸:開封後経過時間
明確な正の傾き(positive slope)が示されています。
つまり:
時間が長い → 分散が増加
(A)(C)(D) は本文に存在しない関係です。
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Question 5
Why does Sakurako move her analysis to the “Materials” branch of the 4M framework?
Correct Answer: (C) Evidence indicated instability linked to material behavior
解説
層別によりロット変化で挙動が変わること、
散布図により開封後時間との相関が示されたことから、
不安定性は材料挙動と関係している可能性が高いと判断されます。
倉庫の自白も、機械故障の確定も、上司命令も本文にはありません。
あくまで「統計的分離の結果」です。
本文 日本語訳
規律の検証:層別と管理図の罠
「大野の円」から戻ると、桜子はまっすぐ保全部へ向かった。
特性要因図のMachineの枝を検証するためには、その門番である田村課長と向き合う必要があった。
油で汚れたマニュアルと金属粉に囲まれた机から、田村が顔を上げる。低く響く声だった。
「保全? うちは手順通りだ。ログを見ればわかる。」
分厚いバインダーが机に置かれる。
「粉末冶金のデータは規格内だ。予防保全もすべて良好表示。問題は顧客公差だ。厳しすぎる。現場はその中で回している。それが現実だ。」
田村の防御は分析ではなく、経験によって築かれた壁だった。
桜子が立ち去ろうとしたとき、西野が静かに近づいた。
「桜子さん……比較試験をしました。」
最新の高精度プレスに金型を移し、管理された条件で試験したという。
「結果は同じでした。寸法はばらつき、刃先はすぐ欠けました。Machine要因を改善しても挙動は安定しませんでした。原因は別にあります……でも追及は歓迎されません。」
帰宅後、桜子はデータを再構築した。
サブグループごとの平均値とレンジを算出し、X̄–R管理図を作成する。
複数点が上方管理限界を超えていた。
さらに、連続した上昇トレンドも確認された。
ランダム変動ではない。
工程は統計的管理状態にない。
能力を語る前に、安定性を確認しなければならない。
次に層別を行った。
製造日、シフト、そして材料ロットで分解する。
特定ロット内では比較的安定している。
しかしロットが切り替わると、新たな管理外挙動が現れる。
これは性能の問題ではない。
安定性の問題である。
さらに散布図を作成した。
縦軸:寸法分散
横軸:開封後経過時間
明確な正の傾きが現れた。
同一ロットであっても、開封時間が長くなるほど分散が拡大している。
ミルシートには粒度分布や密度が規格内と記載されている。
出荷時の適合性は保証されている。
しかし、暴露後の挙動は保証されていない。
認証と使用の間で、材料は変化している。
桜子は特性要因図を開いた。
Manは検証済み。
Machineも統計的に切り分けられた。
残る枝は一つ。
Materials。
仕様は適合を保証する。
だが安定性までは保証しない。
「出荷後変質の可能性?」
彼女はそう書き込んだ。
次の焦点は操作ではない。
保管、取り扱い、環境との相互作用である。
4Mの分析は終わっていない。
前進したのだ。
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解説
4M分析における「分離」という作業
本章の中心は、Machineの切り分けです。
重要なのは、桜子がいきなりMaterialsへ飛ばなかった点です。
品質管理では、
1.安定性の確認
2.要因の分離
3.仮説の縮小
という順序が必要になります。
まずX̄–R管理図によって工程が統計的管理状態にないことを確認しました。
ここで重要なのは、「能力(Cpk)」を語らなかったことです。
工程が不安定な状態では、能力指数は意味を持ちません。
順序を守ることが、分析の第一歩です。
次に層別を行い、ロット単位で挙動が変わることを確認しました。
これはMachineそのものの恒常的劣化ではなく、条件変化による変動である可能性を示唆します。
さらに散布図により、
「開封後時間」と「寸法分散」の相関が観測されました。
ここで初めて、Materialsという仮説が浮上します。
この章は犯人探しではありません。
ManでもMachineでもない可能性を、統計的に分離した章です。
4Mは責任追及の道具ではなく、構造整理の枠組みです。
切り分けるということ
この章で行われたのは断罪ではありません。
Machineが否定されたわけではありません。
Manが無罪になったわけでもありません。
統計は善悪を語りません。
ただ、挙動を分離します。
工程が安定していない状態で能力を語らなかったこと。
ロット単位で挙動を層別したこと。
相関を確認してから仮説を進めたこと。
それらはすべて、「順序を守る」という一点に集約されます。
問題が複雑であるほど、人は早く結論を出したくなります。
しかし構造は、急がせません。
4Mの枝はまだ残っています。
Materials。
出荷時の適合と、使用時の安定は同じではありません。
次章では、環境と保管という領域に踏み込みます。
派手な真相ではなく、
静かな変化が待っているかもしれません。




