8話 勇者探偵タケル 前編
事件は2日前の深夜に起きていた。
セノの高級住宅街にある豪商ピッツァ・タンク氏に賊が押し入り、ピッツァ・タンク氏及び家人を皆殺しにし、金品等を奪い、館に放火し遁走。
家は全焼し、蘇生魔法が存在する世界でも高齢の炭化したピッツァ・タンク氏の蘇生は不可能だった···
「結構悪徳商人だったみたいやったけど」
火災発覚後、住宅街をウロウロしていたミゼヤッポが衛兵に職務質問され、その際、ピッツァ・タンク氏の所有していたはずの秘宝『プレシャスサファイア』を隠し持っていることが判明!
ミゼヤッポは容疑者として御用となっていた···
「ミゼヤッポは、プレシャスサファイアはピッツァ・タンクが廃業する宝石商から騙し取った物だから依頼されて取り返した。自分が忍び込んだ時はまだ強盗は来てなかった。住宅街をウロウロしてたのは依頼人の宝石商が待ち合わせ場所にいなくて探してた。と言っとる」
「なるほど···」
俺達は一旦、宿に引き上げていた。
俺は部屋にあったロッキングチェアに座り、リリンの話を聞いていた。
「おおよそ読めたね、リリン君」
「リリン君?」
「ミゼヤッポ氏はその宝石商にハメられている! おそらくそいつは強盗達とグルだろう」
カッ! と目を見開いて言った。
「なにそのテンション? まぁそうやろな。時間稼ぎくらいにはなるやろし。行きずりの強盗やったらもう遠くに逃げてるわ、2日も経ってるし」
「···もう少し判断材料がほしい。リリン君。君は情報を集めてきてくれ。俺はここで推理に専念を」
「部屋から出たくないだけやろーっ! ほらあんたも来! 捜査は足で稼ぐもんやでっっ」
また腕を引っ張られるっ。
「いやっ、こういう探偵ジャンルがあるんだって! 1回やってみたかったんだよっっ」
「知らんねーんっ!!」
「ちょっとさぁっ、この町人多いってぇー!」
結局宿の外に引っ張り出されてしまった。とほほ···
_____
嫌々だが再調査の結果、廃業した宝石商は地元マフィアに借金があり首が回らなくなっていた。
地元マフィアとピッツァ・タンクは近年裏の商売の折り合いがつかなくなっていた。
地元マフィアは去年の人身売買の取り締まりで打撃を受け、金欠状態になっていた···等がわかった。
「衛兵とセノのギルドもある程度掴んどる。地元マフィア黒幕説ほぼ確定や!」
「セノが拠点なら目立ち過ぎな気もする···」
「盗品の売却先とマフィア一家ごと移住する新拠点の都合つける段取りに手間取っとる噂もあるし」
「···宝石商の人、いいことになってないような?」
「荒い仕事する連中やしなぁ。さっさと衛兵署かギルドに駆け込む判断しとくべきやったで」
「···」
地球で、ヤクザや半グレに詰められて、そんな冷静に判断するハードルは低くないと思う。
夜でも開いてた酒場の個室で集めた資料を広げてリリンと話してる。
どこにでも悪人がいるのはうんざりだ···
「ん」
なんとなくテーブルに置いていた、暫くずっと真っ白だった『神様メモ』にメッセージが来てた。
『勇気もどこにでもある』
「勇気、か···」
「なんか言うた?」
「いや、リリン。···ギルドに行こう。衛兵署とも話を通そう」
「ミゼヤッポの身柄、ギルドに取られたから衛兵署がヘソ曲げてるみたいやで? それに向こうはもうセノを引き払うつもりで、ヤケクソみたいやからギルドも衛兵署もあんまし前面に出てかち合いたくない、みたいな」
「先陣は俺達がやればいいよ。レベルは8前後のゴロツキ50人くらいで、モンスター3体前後とレベル18くらいの用心棒1人だろ? モンスターと用心棒を俺達で引き受ける!」
「···よっしゃっ、よう言うた! リリン姐さんも気張ったるでっっ」
俺達はヤバい役回りを引き受けるのと引き換えに、ギルドと衛兵署を説得することにした。
勇気、出してみよう!
_____
俺達は「ホントに2人だけで突入するのか?」と即席で集められたギルド隊と衛兵隊の人達に心配されたり疑われたりしながら、両隊から見えない町外れの貧民街のマフィアの拠点の城壁の外の一角まで来ると、2人纏めて展開した隠行箱に入った。
そのまま隠行箱の範囲を城壁の内側まで拡大し、城壁部分だけ鉄箱で覆い、反射箱でゴリッと内側までくり抜いて入口を作った。
「便利〜」
「傷んだレンガ壁くらいなら···」
そのまま隠行箱を被ったまま、2人でちょこちょこ小走りで見張りのチンピラは無視して進む。
「加速するで、クィック!」
リリンの加速魔法で倍速化っ! 俺達は拠点の建物まで来ると、あとは隠行を絡めた箱によるくり抜きで窓や扉をガンガン開け、内部に潜入していゆく。
トラップはリリンか俺の探知魔法フィールで察知して、無理に解除しようとせず迂回。
大勢詰めてるから人の通れるルートはある。
「ここだな」
概ね衛兵署やギルドの下調べ通り、マフィア幹部達と用心棒のいる奥の広間が伺える所まで来れた。
扉の前には制御用の首輪をした火を吹く魔犬ヘルハウンドが3体番人として寝そべっていた。
「館燃したんもあのワンちゃん達やな」
「油を撒いたのは人間みたいだけどね···」
ここからが大詰めだ。対人戦になる。はっきり言って俺は『口喧嘩』すらまともにしたことない。
怯えか武者震いか? 腰の小剣の柄に掛けてる手が震えていて、その手にリリンが自分の置いた。
「落ち着いてこ。悪さしよる連中やっ、2人でコテンパンしたるで?」
「···おうっ」
戦うこと。例えゲームでも、現実では手遅れでも! 俺は選ぶっ、今度こそは。




