6話 コーチング
髪を纏め、メル・トラカ郷の温泉に浸かりながら、リリン・ブロッサムは思案していた。
右手の人差し指に『桜の小枝』を生やし花を咲かせている。
(タケルみたいなおぼこい人には酷やけど、お師匠の危惧した通り、勇者学的に勇者が現れた時点で相応の危機は当然世界のどっかで起こっとるはずや)
花弁を散らせ小枝を魔力に変換して消すリリン。
(これまでの例からすると、勇者が完全に倒れたら、すぐに代わりの勇者が地上に投入されとる。神様的に代えの利く戦力なんやろう···)
「やぁ、花の湯かぁ風流だねぇ」
中年の他の女性客達が入ってきた。
(弟弟子やし、『小手調べ』みたいに浪費されてまうんは避けてあげたいわ。取り敢えず、もっと鍛えたらんと···強箱スキルも整理した方がええな)
「···よしっ」
リリンは立ち上がり、湯煙りの中、浴槽から出た。
「このリリン姐さんがっ、監督したるで!」
決意を新たにする姉弟子リリンであった。
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リリンの提案でメル・トラカ郷の冒険者ギルド(ファンタジー物で定番のヤツ!)に仮登録を済ませた俺は、リリンと魔物の討伐依頼を自警団から受注していた。
郷の近くの森で最近増えてしまった、
「けむーんっ!」
「けむけむ!!」
ぬいぐるみみたいな、モヒカン毛の芋虫的なモンスター、ケムシーノ数十体を始末する仕事!
ケムシーノは結構可愛いが、回転体当たりのスピンアタックや絡み付く糸を吐いてきたり、地味に厄介なモンスター! というか数多いっっ。
「よっしゃ、ほなこれから自分の応用トレーニング始めるで?」
リリンが急に言い出した。
「今? 今から?! 路銀稼ぐんじゃないのか??」
「路銀も稼ぐしっ、稽古も付けたる! ウチはお師匠より実戦派やでっ? フライト!!」
飛行魔法でケムシーノの攻撃範囲外まで飛び上がるリリン。
「タケル! 魔素消費は一旦置くとして、あんたの強箱は絶体目立つヤツやっ。人前で使う時は、鉄箱は『バインド』の魔法に偽装! 反射箱は『ノッキング』の魔法に偽装! これでいくでっ」
ええ〜?
「ノッキングは箱小さく出したらごまかせそうだけど、バインドは無理だよっ」
バインドは普通輪状の魔力で相手を拘束する。
「いやっ、効率いいから輪状が一般的になってるけど魔法式的には好きな形で捕獲できる魔法なんや。『参考にした古本屋で買った安い魔法書の癖が強かった』で通せる!」
強引···なんて思ってる内に!
「けむんっ!」
「けむけむけむっっ」
ケムシーノ達が襲い掛かってきた!
「タケルっ、偽装強箱だけで対処や!!」
「むっずっっ。ええとバインド! ノッキング!!」
鉄箱を防御ではなく捕獲に使い、小さい反射箱を格ゲーの設置技みたいに使用!
動きを止めまくりっ、吹っ飛ばしまくる!
「うぉおおおっっっ??!!!」
倍疲れるんだけどっ!
「ええ感じやっっ、気張りや!」
「リリンっ! 休眠箱と隠行箱は?!」
「休眠箱は大っぴらに使わないか、小さく体内で展開して反射箱を使って回復効果を必要箇所に拡大させるんや!」
「むっっずっっっ!」
「隠行箱は能力的に目の前で使わない限りバレへんのとちゃう? たぶん!」
「急に雑っっ」
そうこうしている内囲まれそうになってきたっ。だが応用!
「バインドっ、ノッキング! ノッキング!」
一番近い襲ってきた個体群を宙で捕獲して『壁』を作り、できた隙間を足元で発現させた小さな反射箱で加速して抜け、囲みから脱出!
ついでに地面で反射箱を炸裂させて土煙を起こし、その中で隠行箱を展開。足元だけ解除してコソコソしゃがんで移動して、一旦囲みの側面に離脱!
(攻撃を反射させずに箱の炸裂だけを個別に当てるのしんどいなっ。石、使うか)
「ハンド」
俺は小声で偽装じゃない念力魔法を使い、収納ポーチ(一杯入るポーチの正式名称)から小石をどっさり取り出した。
これに関しちゃ偽装と関係なく練習済み! 最初、近接戦でロミの稽古用ゴーレムに勝てなさ過ぎて半泣きで石一杯集めたもんね。
「···ノッキング!!」
数十発の小石を、効率よく十数個の小さな反射箱で一斉掃射する!
ドドドドドドッッッ!!!!
残りのケムシーノの群れを全て倒した!
「はぁ〜、疲れたぁ···」
「ええやん! ぶっつけ本番でようやったな〜。フォローする必要なかったわ〜」
「···休眠箱普通に使っていい?」
「あかん! 1回体内に小さい休眠箱を生成し、そこから反射の力を重ねることで」
「もう誰も見てないしさぁ!」
「特訓やぁ!!」
戦闘終わったあともバタバタした。
だが色々コツは掴めたし、強箱の応用力自体は上がった気がするぜ。
1回小石を集めまくる件が必要だったりはするけど···このスキル、やっぱり強い!




