4話 ピンク先輩
ロミの家はトラカ山地の南西の森にある。家の近くに泉の精霊の祠があって代々守ってるそうだ。
俺は今1人、トラカ山地に来ていた。
撥水効果があるが通気性もいい地球で売ったら大金持ちになれそうな、フード付きの『流離い人のマント』を着た俺は、山道から見下ろせたロミの家のある森を振り返ってる。
「···」
実家暮らしとはいえ孤独で不毛な一生だった俺は、正直あの家でロミ婆さんとペスと静かに暮らしていたかった気はする。
でも、
「タケル、世界を見てきな。実際面倒見てみてて思ったよ、勇者なんて結果的なもんだろう」
「わんわんっ!」
ロミにそう言われ、ペスにも見送られ俺は旅立つことにしていた。
地球で、現実で、できなかったことをしてみようか。冒険かどうかはともかく、やれることをやるだけやってみる生き方、みたいなのを。
「···さて、近道するか」
このまま魔除けの聞いた山道をクネクネ曲がって登ったり降りたりしていたら、ロミの弟子(俺の先輩になるらしい)だという人と待ち合わせしてる麓の郷までガッツリ2日は掛かっちまう。
俺の修行にもなるからここはショートカットだ。
「鉄箱! からのちょこっと反射付与!」
俺は遠くに見えてる向かいの山肌まで小さな光な箱を7個程、大体等間隔で宙に配置した。
「よっと」
両足に小さな強箱を付与しつつ一番近い箱に跳び移り、箱に『反射の力』を軽く発揮させて次の箱まで、ぴょーんと飛ぶ。曲芸だが、慣れたもんだ。
『強箱スキル』
このスキルは異常な魔力効率で無属性魔力の箱を出現させることができる。
鉄箱は頑強。反射箱は跳ね返す力。休眠箱は中で休眠して回復する。隠行箱は内部の気配等のあらゆる情報を断つ。
どれも組み合わせたり加減が利くスキルだった。
「近道完了、と」
向かいの山地の山道に到着し足と最後の箱も消す。これで後半日で麓に着くだろう。よっしっ。
____
麓の郷はメル・トラカ郷といった。ロミの種族、ノーム族の血をうっすら引く寿命長めの人間族の郷。
温泉郷でもあり、郷の規模や僻地具合からすると結構旅人が多く、そこそこ潤ってる様子だった。
(硫黄はこの世界でも変わらないな)
かなり小さい頃に親と旅行でわりと近くの温泉宿に行ったことがあった。『外の記憶』がどれも子供時代なのが我ならながら侘しいぜ···でもって、
「人、多い···」
修行やロミやペスとすっかり馴染んでいたから対人コミュケーションや人の大勢いる所を出歩くことも、もうイケる気で来たが実際人波の中に入るとちょっと動悸がして呼吸が乱れてきた。
「···休憩、するか」
本当はどっか端っこで隠行箱に入りたいくらいだったからさすがにって話で、俺は通りの脇の路地の入り口に置いてあった。空らしい木箱の上に座った。
「ふぅ〜」
山をジャンプでぴょんぴょん越えるより、人混みを歩くハードルの方が高かったぜ···
夕暮れ時の温泉郷の路地の入り口で、文字通り1人で黄昏ていたが、ふとポーチの中がカサカサするのを感じ、最近余り見ないようにしていた『件のメモ』を取り出して拡げてみた。
『お爺ちゃんかい』
『さっさと進んどきなさい』
『通りの先の酒場』
と新メッセージ。
運営か神様か知らんけど、コイツはロミより当たり強いんだよなぁ、なんかせっかちだしっ。
「はいはい」
呼吸は整っていたし、メモを見たら深刻になるのがアホらしくなってきた。
俺は空箱から立ち上がって通りに歩みだした。
「表に出ろ小娘がぁっ!」
酒場に入った途端、修羅場だよ。
「···」
ピンク髪の魔法使い風の女の子がゴロツキ達に絡まれ、近くで給仕らしい女性があわあわしていた。
「なんや? 逆ギレやん。お尻を触った店員さんに謝まって、慰謝料を払うんが筋やで?」
関西弁に変換されてる···見た目魔法少女でもわりとファイタータイプだな。でもって、
「この人、か···」
ロミから渡されていた先輩弟子の人の『動く絵』を見ると、まさにこのファイターピンクの人だった。
「ゴチャゴチャ言ってやがるとっ、ここで」
「サンダー!」
一触即発からの電撃魔法! 発動の溜め無しの速射だ。ゴロツキ達は一瞬で吹っ飛ばされて昏倒した。
「ふん! タダで触れるお尻はないんやっ!」
「有料でもそういうサービスはやってないのでっ」
語弊を招きつつ、ゴロツキ達は駆け付けた自警団の人達に連行されていった。
ピンクの人はお礼を言われつつ遠巻きされる感じで自分の席に戻った。
俺は仕方ないのでフードを取ってそこへ向かう。
「···あの、俺、わかる、かな?」
「? ナンパ? 自分、チャレンジャーやな」
「じゃなくてっ、俺、タケル。ロミさんから使い魔で報せが届いてるよね?」
「あんたが」
ピンクの人には事情は伝わってるはず。
「ん〜、前髪がモッサリしてへんやん?」
「いや切ったからっ」
髪なんて気にしたことなかったけど、そんな引っ張られるならもっとマメに手入れしときゃよかった···




