3話 ロミ婆さん
俺がいきなり現れたやたらフレンドリーな犬に困惑していると、
「行き倒れかい? ガリガリじゃないか」
狩人と魔法使いの中間みたいな格好したお婆さんが続けて現れた! 遠巻きに見てたっぽい。
お婆さんはかなり小柄で、太ってはいないんだが全体的に丸っこい作りの顔付きと体格。でもって耳が拳くらい大きかった。絵本に出てくる小人っぽい?
「や、ややっ」
長年の引きこもりで、家族ともあまり話してなかったから言葉がすぐ出てこないっっ。
「なんだい? 落ち着いて話しな」
「や、休めるとこ、あ、あありません、か? お、お金はないけど、す、スライムのグミときき、キノコモンスターのいい石は、渡せますっっ」
「スライムグミとキノコ石ね···魔除けは反応していない、か。ウチで休みな。取り敢えず、ヒール!」
背中の鞘から短い杖を抜いて唱えてきた。淡い光が放たれ、身体が軽くなるっ。回復魔法だ!
「おお〜?」
「大袈裟。泥棒の類いなら容赦ないよ?」
「わんっ!」
犬はお婆さんの側に下がって元気よく吠えていた。
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俺は森の中にあったこれまた童話みたいな小屋で、シチューと堅いパンと、蜂蜜を入れたハーブ茶の食事を御馳走になりながら、あれこれ話を聞いた。
人前で食事をするなんて久し振りだけど、自分で思ってた以上に腹ペコだった。手が止まらない感じ。
犬は暖炉の前で寝てる。
「こ、この、つ強箱、てのでっ」
俺も、取り敢えず『行き倒れで記憶喪失』という設定で、どうにか状況を説明しようとステータスをお婆さんに見せたら、
「ちょいとちょいと」
と顔を顰められた。ダメらしい。
「す、ステータスは、ふ、普通見せず、隠すも、物なんですか?」
「そうだよ。子供の内に『ステータスブロックスキル』を覚えて、勝手には見れなくする。ブロック対抗する『ステータスシークスキル』やそれにさらに対抗した『ステータスハードブロックスキル』もあるから段々まだるっこしくはなっていくがね」
スマホやパソコンのセキュリティみたいだ···
「付け込まれたり、品定めされたりする。知られちゃマズいこともあるだろ? あんたの『強箱スキル』なんて聞いたこともないよ?」
「で、ですよね、なんか、は、派生スキルとかあるみたいだけど、つ、使い分け」
「そんなことよりだよっ?!」
「ええ?」
急にお婆さんの顔色が変わったっ。
「あんた、職業が『勇者』だけどっ、本当かい?」
「な、なんかそういう設定、み、みたいな?」
「設定て···あんたねぇ」
ほとほと呆れた、て反応だ。俺としては初期設定なんでどーしようもないんだけど···
「『ステータスアナライズスキル』で鑑定していいかい?『ステータスフェイクスキル』で偽装もできるんだ。第三者が実行するにはちょいとややこしいんだが、記憶が飛んでるならやりたい放題さ」
森で起きるまでは確かに記憶がなかった。
「ど、どうぞ」
俺は結局改めて表示させたステータス画面をお婆さんに鑑定してもらった。鑑定する項目が光る。
「ふん? 確かに勇者だね。強箱とかいうスキルも実際ある。異常に運がいいのも本当だ。···これは、隠した方がいいね」
「そ、そうなんですか?」
「ああ、勇者は祝福を受けているはずだから邪悪な者の視線から護られる。だが、ひけらかすのはいかにも危うい。まして、今のあんたは赤ん坊みたいなもんだしね。レアスキルや強運も悪目立ちだ」
「はぁ···お、俺はどうしたら···」
手の付けようがない感じだ。
「ステータスの隠蔽を含めて色々基本的なことを身に付ける必要はあるね。今のところは話を聞かないが、勇者が現れた。てことはなにかしらの世界の危機が迫っているんだろう。少しは力になるよ?」
こんな、他人が世話してくれるのは初めてかも?
「あ、ありがとう。···あ! お、おお俺、た、たたた、タケル! す、ステータスで、もう、み、見たろうけど」
「ふん。あたしはロミ・キャンデ。ロミでいい。あたしのステータスも後で見せるよ。取り敢えず、シチューのお代わり食べるかい?」
「た、食べる! ぱ、ぱ、パンもっ」
俺はお代わりも夢中で食べ、しばらくこのロミの家で厄介になることになった。
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ロミの特訓は端から見たら大体が『しっかり目のリハビリメニュー』て感じだろうけど、鈍りに鈍った俺には中々地獄の修行だった···
「ほらっ、取り敢えずあたしがたまに行商から買ってる都会の日報誌合わせて100日分音読!」
ドサッと渡された!
「お、お音読必要、で、ですかぁ?!」
「必要! 魔法の詠唱に、コミュケーションっ。どうしても無理なら仕方ないが、やるだけのことはやってみなっ!」
「ひぃ〜っ!!」
たぶんこれが一番辛かった。
他にも『ロミ式猫背矯正ギブスの着用』。『ロミ式わりと普通の柔軟体操』『ロミ式普通の走り込みと懸垂』『ロミ式兵士ゴーレムと模擬戦』『ロミ式一般常識講座と雑学』『ロミ式薬師狩人農民釣り師大工の基礎講座』『ロミ式魔法使い入門講座』『ロミ式勇者学基礎』『ロミ式強箱使いこなし講座』『ロミ式ステータス表示取り扱い術』等々···
俺は厳しい修行を約2ヵ月乗り越え、そして、
「『不審な痩せた行き倒れ』から『辛気臭い前髪伸び過ぎの村の凡庸な若者』くらいには出世したね」
「わん!」
家の姿見を前にした俺に、ロミと犬が言ったり吠えたりしてきた。
「···どうも、お世話になりました。というか前髪は伸びただけですからっ」
前髪上げながら反論っ。うん、取り敢えず言葉に詰まらずに抗議できるようにはなったさ···




