29話 灰の者達
タンダ・シュノー市に帰ってきた。苦手だった栄えた雑踏が貴重な物だったと骨身に沁みる。
「タケル、しゃんとし。ギルマスに報告せなあかんし、キッツい狐メイドも待ち構えとんで?」
「うっ、胃が···」
「レポートはわたくしとリリンで書きますから」
「リリンとユミィはタケルを甘やかし過ぎだぞ?」
「ミゼヤッポも全然レポート書かへんやんっ」
「ぐはっ、オイラはレポートを書いたら爆発する体質···」
「んなわけあるかーい!」
等とやり取りしつつ、市のギルド支部に向かった。
「大変だったな。君達がここまで前面に出て解決するとは思ってなかったよ」
「私が6割の力で指導した甲斐がありました」
「「「···」」」
事後処理を含め、シュノー伯爵だけでなく国からもギルドに報奨金が出たらしく機嫌よさげなフガク・ヅチ氏とランダンさん。
「ただタケル君とリリン君はだいぶ目立ってしまったね。タケル君は、勇者かどうかはともかく箱の能力と霊剣を用いた殲滅力の高さは突出していたし、リリン君が桜のドリアードの力を持つことは完全に知れ渡ってしまった」
「どう、対処したらいいんでしょうか?」
まずなんか疲れたからロミの所に戻って休みたい気分もあるんだけど···
「うちも今さら誤魔化し利かん。奴隷商とかに狙われそうですわ」
「タケル君に関しては『四角く生成させたバインドを操り、ノッキングで炸裂させるスキルを我流で編み出した天才魔法兵』という線で逆に周知させてしまおう。名うての冒険者が風変わりな独自スキルを持っているのは別に珍しくない。私も翼を生やし、風を操る特殊スキル持ちだ」
「はぁ」
天才設定か、ある意味勇者設定よりしんどそうではある···
「ただ魔族に目を付けられた可能性はある。有名になると変なのに絡まれたり、ムチャぶりされたり現地で仕事が増えたりもする。今回も現地協力者のフォローが大変だったろ?」
「はい」
槍の中級悪魔戦では初手でまごつく要因にもなってた。
「幸い報酬は多かった。改めての教練もだが、装備を刷新するといい。新しいスキルは立場が変わったことも少し意識して取得すると無難かな」
「···了解です」
使える付与魔法の属性増やそうとか鎮静スキル取ろう、くらいしか考えてなかったが大変そうだ。
「リリンは桜化やドルイド職のスキルを伸ばした方が期待されて振られる仕事との整合性が取れるだろう。あとは護身用にゴーレムを一体造ってお供にすると手堅いな」
「冒険者は移動が多いことも忘れないようにしましょう。ピンクゴーレム使いさん」
「···やってみますわ。チッ」
ランダンさんに舌打ちするリリン。
「オイラとユミィにもカッコいい宣伝文句ほしいんだぞ?!」
「いえ、わたくしは別に···」
「そうだな。···じゃあ、『食いしん坊忍者』と『とんがり耳の聖都秀才』で行こうか?」
「え〜っ?!」
「耳、関係ありますか??」
2人のキャッチコピーはちょっと揉めたが、取り敢えず俺達は数日休んでから、再教練や、装備の刷新。長距離移動に適した護衛ゴーレムの生成に当面取り組むことになった。
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タンダ地方を含むスエリィーア王国の王都メル・スエリィーアには夜の帳が落ちていた。
郊外の、広大な魔除けの土塁と支柱で護られた農園は豊かで、一段低地にある南東の港からの海の幸と合わせてこの都だけで食糧の調達が概ね完結させることができる程であった。
都の本体の城壁は堅牢そのものであり、王城の城壁となれば上級魔族であっても安々とは崩せない鉄壁その物であった。
「バカ騒ぎ···」
しかしそこに人が住まう限り、影は生ずる。
過大に魔力灯の点けられた通りを、装飾の施された象の上に最上級の娼婦や男娼や道化や楽士を乗せて店の者達で囃し立てて練り歩かせる等している、
豪奢な歓楽街で、狂騒を見下ろす面をした灰の装束の者達がいた。
呟いたのは10代半ばの少女の声であった。
「魔族の活性化等、どこ吹く風ですね」
「怠惰の極みっ! 滅びろ人類ぃっっ」
「···どうでもいいから、さっさと行こう」
少女の声の面の者は見下ろせる路地の影の方に向き直った。
「おいっ、人形ごときが指図するな!」
「まぁまぁ、早く行きましょう。儀式の段取りもあります」
「···ボトルシップ造ってた方がマシだ」
「なにか言ったかっ?!」
少女の声の仮面の者は癇癪持ちの他の仮面の者にそれ以上構わず、路地へと音もなく飛び降りた。他の者達も、一部は文句を言いながら続く。
一段は路地を音もなく風のように駆け抜け、中途でいくつも隠しの壁面型の魔法陣を抜け、1つの潰れて、板で勝手口が念入りに閉ざされた酒場の前にたどり着いた。
その店の薄汚れた壁は『壁のごとき魔族』で本性を現し、面をした灰の一段を威嚇した。
「死ぬか、合言葉を言うか? 選べ」
「神はパテにして、お魚に饗した」
「入れぇえええっっっ!!!」
少女の声の面の者の答えに悪魔が応じると、閉ざされた扉の代わりに本物の扉が壁の悪魔の身体に現れた。
中へ入ってゆく一団。
内部は暗黒の中に下りの階段が続いており、少女の声の面の者が陰火を灯し、一団は下りきり、燈台に燃え盛る陰火がいくつも焚かれた闇の神々の祭殿に着いた。
(人が、なんのつもりで信仰してるか解せない)
少女の声の面の者、ウーシエは面を取りながら祭殿で熱心にあるいは恍惚と暗黒の神々に滅びの祈りを捧げる、貧富も種族も問わない老若男女の信奉者達を冷然と見詰めた。
本質的に地上で狂騒に耽る者達と同じではないか? そうとも思えたが、だからといって自分の『仕事』が変わるワケでもない。
「おい、ボサっとするなっ、人形! 面も安易に取るな」
「···」
灰の一団は祭殿のさらに奥に進み、怒鳴られたウーシエは無感情な様子で再び面を付け、あとに続いた。




