28話 星の道行
ウーシエはタケルが去ったあとも無気力にベッドに身を預けていた。
と、父母が討たれたことを察知した。身体が端から塵に変わりだす。
特に恐れず、見知った歌の中から相応しく思えた、とある舟唄を歌いだした。
「涼しい波、ああ過ぎし夜。哀しみに微笑む、二度はない風の道行。ああ静かな旅の夜よ! 過ぎ去る面影は」
「よい歌声だっち。悪によってもたらされたぁ、人の諦め程甘美な物はないっち。この地では一杯負の心を集められたなぁ」
丸みのある影がウーシエの部屋に現れた。
「お前は」
身を起こすウーシエ。
「ゼオラ子爵との契約が更新されたっち」
呪印をウーシエの胸に放つ丸みのある影。それは焼印のようにウーシエの冷たい心臓の真上を焼いた。
「うっ?!」
衝撃と共に心臓が脈打ち、身体の消滅が無効化された。
「ウーシエ・ゼオラ。哀れな生き人形! お前は既に名の知れた魔人だ。人間達はお前を許さないっちよ?」
「···余計なことを」
「イヒヒっ! 王都に行け。仕事をやろう。虚しい人形の居場所は魔王軍だけっち。ああ、それに、王都は港がある! 根暗にボトルシップを作るより、本物に乗ってみるといいっち。もっといい歌が歌えるっちよ? イヒヒヒっっ、ウヒヒィーヒヒヒっっっ!!!」
爆笑する丸みのある影を緑色の負の炎の手刀で両断するウーシエ。
影は散ったが気配は残った。
(火の人形の魔人、ウーシエ。魔王様に役立つっち···イヒヒっ)
闇の気配はも消えていった。
ウーシエが忌々しげに、炎上するぬいぐるみもベッドもボトルシップも焼けてゆく部屋に立ち尽くしていると、
「いたぞっ! 子爵の娘だっ」
「陰火を放ったのか?!」
「魔人めっ!!」
突入隊の一部が開け放たれたままの出入り口に現れた。
「···ほら、バカバカしいことになったよ、タケル」
苦く呟いて、炎の刃で窓を割って外へと飛び出し、自分の代わりに招き寄せたインプの群れを突入隊に放つと、ゼオラ子爵の娘ウーシエの姿は裏手の林の向こうへと消えていった。
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ウーシエの行方は知れなかったが、契約主の子爵が滅びたことでゼオラ領の魔族や魔物達は弱体化し、子爵に迎合していた者達も腰砕けになり、魔族と取引していたらしいならず者達も多くは領外へと遁走していった。
別邸を制圧した俺達突入隊は疲弊していたが、程なく到着した領外の増援部隊が子爵本邸等の魔族残党拠点を攻め落とし、変化が甘くなりバレバレになった入れ替わりたちも次々討ち取られていった。
幽閉されていた子爵親族等は、立場は不安定だったが一先ず保護されたようだ。
「復興作業までは対応できないから、俺達はギルドとシュノー伯爵に報告に戻ろう」
「タケル、クレバーやん? メモに洗脳されてへん?」
「されてないってば」
混ぜっ返されつつ、俺達はゼオラグレのギルドの人達なんかに別れを告げ、俺達は伯爵の用意してくれだ貸し切りの幌馬車で帰ることになった。
夜、途中の野営地で、リリンは梟の使い魔を生成し、タンダ・シュノーのギルドへと飛ばそうとしていた。何度か飛ばしているが、着いてから細々レポートを書かされるより、小分けに情報を飛ばしておけばギルドの事務や調査部がある程度整理してくれるから楽。というスタンスだ。
今回、魔族相手にちょっと目立ち過ぎたから俺達の生存確認、という意味合いもたぶんある。
「結局林檎はパイにするのが一番美味しいんだぞ?」
「舌が子供過ぎじゃないかい?」
「なにおーーーぅうっっ??!!!」
ミゼヤッポは東屋の方で幌馬車の御者と呑んでいたが、今は喧嘩になりつつある···うん、放置。
俺は色々キャパオーバーでずっとグッタリしてて、焚き火の側で横になっていた。
「カームかプラスヒールしましょうか?」
「いや、あんま癖になるとよくないし。まぁ、タンダ・シュノーに戻ったら鎮静スキルは取ろうかと思ってるけど」
「そうですか···」
俺は焚き火の側にユミィと2人だ。
「子爵のお嬢さんのなにかありましたか?」
「まぁ、ちょっと···」
倒すべきだった。完全に。俺以外のまともな勇者ならちゃんと手を汚したはずだ。
「アンデッドとは少し違う存在かもしれませんが、やはりこの世の者ではありません。終わらせることとができる時に、終わらせてあげるべきです」
「···うん、俺もそう思う」
俺は、幼稚だな。と自分に呆れつつ、それ以上詰められのはしんどくてユミィに背を向ける形で体勢を変えた。メモも手厳しくコメントされそうでずっと見れてない。
優しく、社会性高めのユミィはもうなにも言わずに焚き火の番をしてくれた。
こんな勇者で、ごめんよ。
「飛ばすでっ?!」
高台になった草地で陣を張っていたリリンが、生成したぼんやり輝く梟の使い魔を夜空に飛ばした。
それは外敵から身を守る為にすぐに姿と気配を消し、星空の中に消えていった。




