26話 ボトルシップ
···大変なことになった。
俺は豪奢なサロン室でウーシエ、ゼオラ子爵、奥さんの3人とのお茶会に参加している!
「こんな、格好で申し訳ないです···」
さすがに装備を預ける気にはならなかったから、鎧下以外の装備は収納ポーチにしまい込み『クエストの合間に休憩中』みたいな格好の俺。
「いいんだよ。無理を言ったね」
「飲み物や食べ物も大丈夫だよ? 契約があるから余計なことできないから」
「はぁ···」
ウーシエにケーキスタンドの下の段のサンドイッチを勧められる。
アフターヌーンティーか。映画かアニメか漫画かゲームでしか知らないな。まぁ俺の場合は大体がそうだけど。
取り敢えず、キュウリ的なスライスされた瓜が挟まってるサンドイッチを食べてみた。
「っ! 美味しいです」
「でしょう? 魔族達はままごとが得意だから」
「ウーシエ、口が過ぎる」
「知らない」
お茶も美味しい。2段目の焼き菓子も美味しいんだろうし、一番上のケーキやフルーツも美味しいんだろう。
ただ、やっぱ真似事だよ。
俺はカップを置いた。
「さっき、本隊が強い悪魔の襲撃を受けましたが、直に抜けてくると思います。正面からも。領外とも連絡を取りました」
「そう、だろうね···2人とも、私の心残りに付き合わせて悪かった。領民達や、手間を掛けた君達にも申し訳ない」
···勝手だな、て。
「お父様は勝手に始めて、勝手に納得して終わるつもりですね。お母様も受け入れてしまって」
「身体が弱くて、ウーシエ、あなたも強く産んであげられなくてごめんなさいね。私は、あなたのお父様についてゆくわ」
「地獄までも?」
「ウーシエ」
子爵の声は硬かった。
席から立ち上がるウーシエ。
「まだ少し時間はあるでしょう? タケル。私の部屋を見る? ボトルシップを作ってるんだ」
「···わかった」
俺も立ち上がった。
「失礼します」
「君は変わった兵士だ」
「ウーシエと仲良くしてあげてね」
どう答えていいかわからない。頭を下げて、さっさと出入り口に向かうウーシエに続いた。
人気の無い廊下を進む。窓から遠い位置の灯りは緑色の陰火だった。
「···墓場で、壊れた玩具の物置だから」
「御両親は優しい人達だね」
「残酷で身勝手で破れかぶれなだけだよ。何代も貧しい領の統治に疲れ果てて、とっくに心は折れていたんだよ。バカバカしい」
困った。
「実は俺、勇者なんだ」
「···大袈裟」
ウーシエの部屋に通された。
ぬいぐるみとか、レースの装飾の寝具とか、正直ちょっと子供っぽい部屋だったけど、いくつも並んだボトルシップとその道具類の置かれたスペースだけは雑然とアトリエみたいだった。
「海、見たことない。大きな船に乗ってみたい。手先は器用だから復活させられてからこればかり造ってるんだ」
「へぇ、凄い」
地球ならネットオークションで売れそう。
気配や物音でウーシエがベッドに倒れ込んだのはわかった。
「···タケル。今、殺して。それ見せたら大体全部終わった気がした。あー、2回ともつまんない人生だったなぁ」
爆発音と地響きが別邸に伝わった。裏手と正面、タイミングを合わせたんだろう。もう、時間だ。
「よくわからない人達に殺されるのは嫌」
「···俺も、よくわからない方だよ」
無詠唱でハンドの魔法を使い、解いた装備を身に付け大河のカトラスを抜いた。
両手を広げて膝から上をベッドに預けているウーシエ。本当に人形みたいだった。
「タケルはまだ子供なんだね」
「ごめん」
俺は踵を返して、出入り口に向かう。
「意気地なしっ!」
後ろから怒鳴られながら、廊下に出て、サロンへと全速で戻りだす。
さっきまでと違い、次々と使用人達が現れたが、速攻で変化を解いて下級魔族の本性を現して襲い掛かってくるっ。
ユミィの補助魔法はまだ有効だった。
「うあああぁーーーっっっ!!!!」
初手で小さく圧縮した鉄箱と反射箱のコンボで怯ませてから霊剣で斬り捨ててゆくっ。
魔族、魔物、魔法が実在する世界っ!!
「クソゲーだっ! バカ野郎っっ!!」
俺は半泣きで入れ替わりの下級魔族達を倒しながらサロンへと走った。
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突入本隊は迎撃してきた魔族とその眷属を打ち払い、別邸内へと入り込んでいた。
正面の部隊もそれなりに引き付けて陽動を成立させている。
ユミィは、布で頭に湿布薬を固定されたリリンを背負い、魔法と探知のみで参戦し、ミゼヤッポはその護衛に専念していた。
「凄い数なんだぞっ?!」
「建設当時の資料通りならサロンから、一番強い闇の力を感じますっ! リリンさんもしっかりっ」
「ふへぇ〜っ。タケルはぁ??」
「わたくしが掛けた補助魔法の反応を近くに感じますっ。単独で潜入しているのでは?」
「とにかくサロンだぞっ!」
乱戦の中、突入隊もまたサロンへと進路を取った。




