16話 サラギの花嫁 後編
夜風に乗って、噂の旧墓所から亡者達の呻き声が教会宿舎まで聴こえてくる。これは普通の郷民はたまらないね。俺もしんどいし···
全く気にしないミゼヤッポが隣のベッドで爆睡する部屋で、俺はカンテラの明かりで神様メモを見てみた。
『悪魔は愛の軋みに付け込むもの』
「悪魔、か···」
実在する魔族の思考なんて、考えたくもなかった。
翌朝、俺達はまだ会えてない上に騒動の原因らしい郷長の元へ向かった。
「もう40年は前の話だ。償い切れないとは思っていたが今になってこんな形で蒸し返されるとは···」
憔悴しきった郷長には当時、普通の村娘の婚約者がいた。名前はネカ。気立ての良い人だったそうだ。しかし、郷長の父が穀物相場で失敗。
結果、成り上がりだが身分の無い行商の娘と結婚話が持ち上がり、紆余曲折の後、ネカは毒を飲んで自決し蘇生術による交渉も固辞されてしまっていた···
「この地での呪いの根源は目撃されている『花嫁装束の死霊、ネカ』と想定する!」
気合い入ってる教会僧リーダー。俺達は教会僧達の隊と夜中の旧墓所に来ていた。既に外周部から6割程は浄化し封印の結界を狭めていたが、そこからが一進一退になってるようだ。
突入隊以外は後方支援となり居残りの僧は陣で連結して広域ターンアンデッドを掛け続け、バツは悪そうだったが怯えてる自警団と衛兵は待機となった。
「ネカをっ、眠らせてやって下さい···」
現地まで来ていた郷長は深々頭を下げていた。
俺達は道中の低級アンデッド群は教会僧の人らに大体任して進むことになった。
「ブレッシング! プロテクト! ストロング!」
補助魔法盛り盛り掛けてもらい、教会僧の突入隊7名と俺達は結界の陣に一時的に開けた出入り口から、照明魔法の灯りを頼りに突入を開始したっ!
嫌だな〜。ホラー得意じゃないってばっ。
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はい、6割狭まっても結構広い中はデスアトラクション状態っ!!!
「ヴァアアアァァーーーーッッッ!!!!」
荒れ狂うゾンビ! ゴースト! スケルトン!
大体教会僧隊が片してくれるが、俺もブレッシングのお陰で多少効くクロスボウを撃ち、ミゼヤッポは鎖鎌をブン回し、リリンはファイアの魔法を連発し、ユミィはターンアンデッドを連発しながり奥へと進む。
外部からの広域ターンアンデッドも効いてるようで『数日に分けてじっくり戦力減らして完封した方が賢いかもしれん』等と俺が考えだしていると、
ボボッ!
周囲に負の緑色の炎、陰火が灯りだし、アンデッド達も襲ってこず威嚇のみし始めた。
「来るぞっ、花嫁だ!!」
「うっはっ」
異様な気配!
「···返して、あの人を返してッ!!!」
旧墓所の闇の力が集まり古風な、血塗れの花嫁衣装を着た女の死霊ネカが現れたっ。
周囲の下級アンデッド達も一斉に向かってくる!
「雑魚は我々が引き受けるっ!」
「お願いしますっっ」
ネカと対峙する俺達っ。
「取り敢えずクィック! からのファイア!!」
「オイラ、聖水付けたクナイで威嚇するっ!」
加速魔法が全員に掛かりリリンとミゼヤッポは牽制を始めた。
「前衛行ってみる! 援護頼むっ!」
「はい!」
持ち替えたサーベルにトーチの炎を灯し、浮いてる相手に突進する! 案外動きは遅いような···
「こんなに、愛してるぅぅっっっ!!!!」
身体中から『骨状の触手』を展開してくるネカっ。慌てて鉄のバックラーで捌く! そこへ、
「セイント!」
「フォイア!」
「とりゃーすっ」
神聖属性の煌めきと火炎、でもっていきなりやみくもに高速突進するミゼヤッポ! 当然触手で引き裂かれたが、フッと割られた木材とすり替わり後方にテレポートしてるミゼヤッポっ。
「空蝉ぃっ!」
「?!」
攻撃と困惑で『2手』隙ができたっ。俺はできてる自分にビビりながら緩んだ触手を掻い潜り、曖昧な実体だが炎の刃で斬り付けて怯ませ、
「バインド! ノッキングっ!」
聖水を仕込んだ鉄箱で固定し、さらに聖水瓶の中に『小さく仕込んだ3重の反射箱』を炸裂させた!!
ドォムッッッ!!!!
鉄箱内で強烈に聖水が炸裂するっ。
「きゃあああぁぁーーーーっっっ!!!!」
絶叫っ。姿が大きく揺らぐネカ。
「あなたの妄執を断罪しますっ、ターンアンデッドっ!!!」
ユミィの放った光の奔流に呑まれてゆくネカ。
「ああ···私、は···? あの人は、どこ···」
花嫁のネカは消えていった。
同時に周囲の呪いの気配は薄れ、下級アンデッドもほとんど形を保てなくなっていった。
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騒動後、旧墓所の浄化はどうにか済んだ。俺達と教会僧達、郷長、自警団、駐在衛兵達は昼間のすっかり荒廃してしまった旧墓所の2つに裂けていたネカの墓の前に来ていた。
墓を調べる教会僧リーダーとユミィ。
「暗黒言語で呪いを掛けた痕跡がありますっ」
「最近、強い遺恨を持つ物の墓所に呪いを掛けるような事例が増えてきているという話を聞く。これも、そうか···??」
俺とリリンとミゼヤッポは顔を見合わせた。
悪魔は愛の軋みに付け込む、か。
「年を取りました。遠くなく再会することになります。私は臆病者ですが、今の人生を反故にしたいとは思いません。それでも···今はただ、彼女の安らかな眠りを願うばかりです」
花と香炉を供え、郷長は祈りを捧げていた。




