第19話「継承」
第19話「継承」
世界中央支援魔法局が設立されてから、二年が過ぎた。
その間に、支援魔法の理念は、さらに多くの国に広がった。
世界中で、三百人以上の支援魔法使いが働いている。
育成学校も、十を超える数になった。
支援魔法の理念は、もはや一国の制度ではなく、世界規模の運動になっていた。
ある日、僕はエドワード部長から呼ばれた。
「優真さん、少し相談があります」
「何ですか?」
「実は、僕ももう年ですし」
エドワード部長は言った。
「そろそろ、後任を決めるべき時だと思うんです」
「後任?」
「施設管理部の部長として、後を継ぐ者です」
部長は説明した。
「君は今、世界中央支援魔法局の長として、多忙だと思う」
「そうですね」
「だから、王城の施設管理部は、別の者に任せるべきだと思うんです」
「それは、誰になるんですか?」
「第一期生のジャックはどうでしょう?」
エドワード部長は提案した。
「彼は、これまで多くの現場で経験を積んでいます。十分に適任だと思います」
「そっか。良い考えですね」
その週末、ジャックに相談した。
彼は、施設管理部の部長に任命されることについて、少し驚いていたが、すぐに承諾した。
「局長、わかりました」
ジャックは言った。
「王城の施設管理部を、任せていただきます」
「ジャック、頼みますね」
「はい。これまで、局長から学んだ全てを、活かしたいと思います」
同じ時期に、リサからも相談を受けた。
「局長、実は結婚することになりました」
リサは嬉しそうに言った。
「相手は、採鉱町の採掘者です」
「そっか。良かったね」
「ありがとうございます」
リサは続けた。
「それで、採鉱町に移住することになりました」
「そうなんですか」
「採鉱町で、支援魔法使いとして働くつもりです」
「良い決断ですね」
「はい。採掘者たちと協力して、さらに安全で、快適な採掘環境を作っていきたいです」
多くの第一期生たちが、新しいステージに進んでいた。
王城の施設管理部の部長になる者。
結婚して、地域に根ざす者。
さらに高度な魔法を開発する者。
誰も気づかない"歩きやすさ"を、様々な形で実現していた。
ある日、第五期生の卒業式を見ていた時、僕は思った。
これまで育成してきた支援魔法使いたちが、今、全世界で働いている。
彼らは、僕の理念を受け継いで、さらに発展させている。
僕の仕事は、もう、支援魔法の技術を教えることだけではない。
理念を継承することだ。
そして、その理念を、次の世代に渡すことだ。
その夜、リリアが僕に重要な話を持ってきた。
「優真さん、あなたについて、提案があります」
「何ですか?」
「あなたは、もう十年以上、支援魔法のために働き続けてきています」
リリアは言った。
「十年は、本当に長い時間です」
「そうですね」
「そろそろ、後任を育成する時だと思います」
リリアは続けた。
「世界中央支援魔法局の長として、後を継ぐ者です」
「後任を?」
「ええ。あなたは、その長を育成することに専念してもいいと思うんです」
「……」
僕は少し考えた。
本当に、後を譲る時が来たのか。
でも、リリアの言う通りだ。
支援魔法の理念が、多くの人に継承されるためには、僕がずっと前に立つ必要はない。
「わかりました」
僕は決断した。
「世界中央支援魔法局の長として、後を継ぐ者を育成します」
その候補者として、僕が選んだのは、複数期の生徒たちの中から、最も才能を示していた者だった。
名前はアルトゥール。
三十代の男性で、元々は別の国の支援魔法使いだった。
彼は、世界中央支援魔法局のスタッフとして働いていた。
その能力と理念の深さは、本当に素晴らしかった。
「アルトゥール、来てください」
僕は彼を呼び出した。
「はい、局長」
「実は、君に大切な役割をお願いしたいんです」
僕は言った。
「世界中央支援魔法局の次の長として、準備をしてもらいたいんです」
アルトゥールは少し驚いた。
「え? 僕が?」
「ああ」
僕は続けた。
「君は、支援魔法の理念を、誰よりも深く理解している」
「……」
「だから、次の世代を導く長として、君が最適だと思う」
「局長、ありがとうございます」
アルトゥールは頭を下げた。
「責任の重さを感じますが、全力で頑張ります」
その日から、アルトゥールの本格的な育成が始まった。
僕は、彼に、支援魔法の全てを教えた。
技術だけではなく、理念、心構え、国際協力の在り方。
全てを、丁寧に教えた。
アルトゥールは、真摯にそれを学んだ。
一年が過ぎた時、アルトゥールは本当に成長していた。
「局長、これまで本当にありがとうございました」
アルトゥールが言った。
「あなたから学んだ全てが、僕の財産になります」
「そっか」
「そして、これからは、僕も、あなたのように、支援魔法の理念を世界に広げていきたいです」
「そうですね」
僕は微笑んだ。
「君なら、できる」
国王に報告した時、陛下は承認した。
「アルトゥールが次の長ですか」
「はい、陛下」
「良い選択だ」
国王は言った。
「優真さんは、これまで本当にお疲れ様でした」
「ありがとうございます」
「これからは、新しい長の下で、支援魔法の理念は、さらに発展していくでしょう」
国王は続けた。
「そして、君は、別の役割を果たすかもしれませんね」
「別の役割?」
「ああ。まだ、わかりませんが」
国王は微笑んだ。
「人生は、長いもんです。次は、どんな道が待っているか」
その夜、城壁の上で、アルトゥールと一緒に立った。
「局長、本当にありがとうございました」
アルトゥールが言った。
「あなたのおかげで、僕は、支援魔法の理念を学ぶことができました」
「君が学びたかったんだ」
僕は答えた。
「僕は、ただ道を示しただけだ」
「いえ」
アルトゥールは首を振った。
「あなたは、道を示すだけではなく、心を教えてくれました」
「心?」
「ええ。派手ではなくても、確実に誰かを幸せにする。その心です」
アルトゥールは言った。
「あなたのその心が、全世界の支援魔法使いたちを導いてきたんだと思います」
「そっか」
僕はアルトゥールを見つめた。
「これからは、その心を、世界の人々に伝えてください」
「はい。約束します」
アルトゥールが、正式に世界中央支援魔法局の長に任命されたのは、その翌月だった。
式典には、複数の国の代表者たちが集まった。
彼らは、アルトゥールの任命を承認した。
そして、支援魔法の理念が、新しい長の下で、さらに発展することを祈った。
その日の夜、僕はガルドに手紙を書いた。
『ガルドへ
十年以上の月日が過ぎました。
あなたが僕を信じてくれた時から、本当に多くのことが起きました。
城下町での小さな仕事から始まり、今は世界全体で、支援魔法の理念が広がっています。
そして、ようやく、僕も後を譲る時が来ました。
アルトゥールという素晴らしい後継者に、世界中央支援魔法局の長を譲りました。
これからは、僕も新しい役割を探すことになるでしょう。
でも、ずっと忘れません。
あなたが、追放された僕を信じてくれたこと。
あなたが、僕の魔法に価値を見出してくれたこと。
あなたがいなかったら、今の僕は存在しなかったでしょう。
本当にありがとうございます。
これからも、城下町で一緒に働きましょう。
優真より』
手紙を書き終えて、僕は窓の外を見た。
王城が、月明かりに照らされている。
十年以上の長い時間。
追放されたあの日から、本当に多くのことが起きた。
支援魔法の理念が、全世界に広がった。
多くの人々が、同じ理念の下で働くようになった。
そして、今、僕は、後を譲ることができた。
人生は、本当に素晴らしい。
最悪だと思ったことが、実は最高の転機だったり。
失望だと思ったことが、実は希望だったり。
そして、自分の役割が終わる時が来たら、素直に次の世代に譲ることができたり。
それが、人生なんだ。
第19話 了
次回、第20話「新しい夢の始まり」に続く
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