第1話「追放の日」
第1話「追放の日」
「お前、もういらないから」
その言葉を聞いた時、僕――優真は、何も言い返せなかった。
パーティーリーダーのレオンが、いつもの調子で腕を組みながらそう告げる。
彼の隣には魔法使いのエリカ、僧侶のセリア、盗賊のダンが立っている。
みんな、僕と一緒に冒険してきた仲間だ。
いや、仲間だったと言うべきか。
「支援魔法使いって言っても、お前の魔法、地味すぎるんだよ」
レオンの言葉に、エリカが頷く。
「そうよ。
私の攻撃魔法や、セリアの回復魔法みたいに、目に見えて役に立つわけじゃないし」
「戦闘中も何してるかよくわかんないしさ」
ダンまでもがそう言った。
セリアだけは少し申し訳なさそうな顔をしていたけれど、それでも反対はしなかった。
「だから、これで解散ね。
まあ、悪く思わないでよ」
レオンはそう言うと、ギルドカードから僕の名前を削除した。
パーティーメンバーリストから、僕の名前が消える。
ああ、本当に終わったんだ。
僕は何も言えず、ただその場を離れた。
僕の魔法は、確かに地味だ。
支援魔法使いと言っても、攻撃力を上げたり、防御力を高めたりする派手なバフ魔法は使えない。
回復もできないし、敵を妨害するデバフもかけられない。
僕が使えるのは、もっと小さな、もっと静かな魔法だ。
例えば、「布を敷く魔法」。
これは比喩的な表現だけれど、仲間が歩く道を少しだけ柔らかくして、疲れにくくする魔法。
誰も気づかないけれど、長時間歩いても足が痛くならない。
例えば、「針を抜く魔法」。
装備の違和感や、靴の中の小石、服の縫い目の引っかかり。
そういう些細な不快感を取り除く魔法。
戦闘中、ほんの少しだけ動きやすくなる。
例えば、「橋を落とさない魔法」。
老朽化した橋や、ぐらつく足場を一時的に安定させる魔法。
誰も気づかないけれど、危険を未然に防ぐ。
そんな魔法ばかりだ。
派手じゃない。
光もない。
音もない。
でも、僕はこの魔法が好きだった。
仲間が安全に、快適に冒険できるように支えるのが、僕の役目だと思っていた。
けれど、その価値は誰にも伝わらなかった。
パーティーを追放されてから三日後、僕は王都へ向かう馬車に乗っていた。
この辺境の街では、もう冒険者として受け入れてくれるパーティーはないだろう。
レオンたちのパーティーは有名だったし、そこから追放されたという噂はすぐに広まる。
だったら、新しい場所で再出発しよう。
王都なら、もっと大きなギルドがある。
冒険者の数も多い。
もしかしたら、僕の魔法を必要としてくれる人がいるかもしれない。
馬車は揺れていた。
道が悪いのだろう。
石畳の凸凹が、車輪を通じて座席に伝わってくる。
他の乗客たちも、少し不快そうな顔をしている。
僕は静かに魔法を使った。
「――平らかに、歩みやすく」
声に出さず、心の中で唱える。
馬車の車輪が通る道に、ほんの少しだけ魔法をかける。
石畳の凸凹を滑らかにするわけではない。
ただ、車輪が凸凹に引っかかりにくくする。
衝撃を少しだけ和らげる。
馬車の揺れが、ほんの少しだけ穏やかになった。
隣に座っていた老婦人が、ふと表情を和らげる。
「あら、道が良くなったのかしら」
御者が首を傾げる。
「いや、道は変わってねえはずだが……まあ、馬の調子がいいのかもな」
誰も気づかない。
でも、それでいい。
僕の魔法は、そういうものだから。
王都ルミナスは、想像以上に大きな街だった。
城壁に囲まれた街の中には、石造りの建物が立ち並び、大通りには露店が並んでいる。
人々の活気に満ちた声が響き、冒険者たちが行き交う。
ギルドは街の中心部にあった。
三階建ての立派な建物で、入口には大きな掲示板が設置されている。
依頼書がびっしりと貼られていて、冒険者たちがそれを眺めている。
僕はギルドの受付へ向かった。
「すみません、冒険者登録をお願いします」
受付嬢は丁寧に微笑んで、書類を渡してくれた。
「はい、こちらにお名前とクラス、使える魔法の種類を記入してください」
僕は記入欄に書き込んだ。
名前:優真
クラス:支援魔法使い
使用可能魔法:環境調整系支援魔法
「環境調整系……ですか?」
受付嬢が少し首を傾げる。
「はい。
地形の安定化や、装備の最適化、疲労軽減などです」
「なるほど。
珍しいタイプですね」
彼女はそう言って、僕のギルドカードを発行してくれた。
「王都では、様々な依頼がありますので、ご自分に合ったものを選んでくださいね」
「ありがとうございます」
僕はギルドカードを受け取り、掲示板を眺めた。
討伐依頼、護衛依頼、採取依頼……色々な依頼が並んでいる。
でも、どれも「支援魔法使い募集」とは書いていない。
大抵は「前衛」「回復」「攻撃魔法使い」といった、わかりやすい役職が求められている。
やっぱり、僕の魔法は需要がないのかもしれない。
そう思いかけた時、掲示板の隅に一枚の依頼書を見つけた。
『城下町整備補助 報酬:銀貨5枚/日 魔法使い歓迎』
これなら、もしかしたら。
僕はその依頼書を手に取り、受付へ向かった。
「城下町整備補助の依頼ですね。
こちらは王城の管理部が出している依頼で、街の道路や橋、公共施設のメンテナンスを手伝う仕事です」
受付嬢が説明してくれる。
「魔法で修復するんですか?」
「いえ、基本的には職人さんたちが作業をします。
魔法使いには、作業がしやすいように補助をしてもらうことが多いですね。
照明魔法で明るくしたり、重い資材を浮かせたり」
「なるほど……」
僕の魔法でも、何か役に立てるかもしれない。
「やってみます」
「では、こちらが担当者の連絡先です。
明日の朝、城下町の西門で待ち合わせとのことです」
僕は依頼書と連絡先のメモを受け取り、ギルドを後にした。
外に出ると、夕日が街を照らしていた。
王都の石畳を踏みしめながら、僕は思う。
ここが、僕の新しいスタートだ。
派手じゃなくていい。
誰も気づかなくてもいい。
ただ、誰かの役に立てるなら。
誰かが少しでも歩きやすくなるなら。
それが、僕の魔法の意味だから。
優真は、静かに決意を新たにした。
誰も気づかない"歩きやすさ"で、この世界を少しずつ変えていこう。
第1話 了
次回、第2話「見えない支援」に続く
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再生リスト : https://www.youtube.com/playlist?list=PLmiEOdmheYJyF0sHOSkv5vVRaqmR3BzOs
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