四章「最後の気持ち」改稿Ver.2
レーダーに反応。敵を確認。進行ルートの推測……99%防衛ラインで会敵。
敵は……歩兵三体。
槍を持ち、開いたスイセンを雪人形に持たせる。
今までの敵とは違う。
接近するスピードが早すぎる。
身体に積もった雪が、冷たい汗のように流れ落ちた気がした。
やるしかない。
昨日の夜中に仕込んだトラップエリアに向かった。
そして、敵と戦う。
現れたのは、最新鋭AI戦闘兵器だった。
メインプログラムが勝率を計測する。
勝率……25%
敵のメッセージが流れる。
「トウコウ ヲ スイショウ シマス。……キョヒ ハ ハカイ シマス」
その選択ができない。選んでいけない。
心を強く持とうと口調を変える。
俺には、守りたい人がいる。
俺に魂があるなら来世で会えるだろうか?
愚問だったな……俺は、姫様の居場所を守るんだ。
その他のことなど、どうでもいい。
握り直した槍。
敵が構えた銃。
戦闘を知らせるように空気が激震した。
遠隔操作で起動した戦車の砲撃部分だけを再利用したトラップが敵に襲い掛かる。
それを軽く身をひねって回避する。
すかさず突進して、槍を突き刺す。
だが、弾かれた。
反動で体勢が崩れた。
敵は何倍もの強さを持った空気砲のようなものを向ける。
先ほどの戦車よりも強い衝撃波で頭部装甲に亀裂が入る。
周りの雪が消し飛ばされるほどの威力に身体は制御を失う。
倒れた俺に追撃が来る。
左腕が吹き飛び、槍もこぼれた。
右足も……動かない。銃撃で、砕かれた。
勝率……2%
メインカメラは衝撃波によって故障した。
周囲の状況が、ノイズまじりのモノクロに見える。
メインプログラムも使い物にならなくなった。
メインプログラムが破損したことで、Lyricがメインプログラムの役割をする。
Lyricのみで動き出した俺に、感情が押し寄せてくる。
怖い、苦しい、死にたくない、助けて……助けて……。
帰りたい……ユキに会いたい……。
軋む身体が絶望に飲み込まれたように感じる。
モノクロの映像の中、唯一“白”だけが映っていた。
一輪の、スイセン。
俺は……。
「この花はね、希望っていうの」
姫様が言っていた。
俺は気付いた。
姫様のことが、――ユキが好きだと。
俺のことをいつも呼んでくれる。
俺のことをいつも褒めてくれる。
俺のことをいつも想ってくれている。
俺のことをいつも、一人の人として接してくれる。
……好きだと気付くのが遅かった。
それでも、来世があると信じて。
格納されていた小型原子力セルが、胸部ユニットからゆっくりと展開される。
Lyricが、俺の感情を読み取って、自ら下した判断。
この爆発で、このエリアのすべてを吹き飛ばすことができる。
“帰る場所”を、守りたい。
ただその願いを叶えるために。
「……姫様の居場所は、守る価値がある」
高速で演算されたLyricによる自爆プログラム。
小型原子力セルを握った刹那、時が止まったかのようだった。
震えが止まり、様々な感情が止まる。
何も考えず、ただ、最後の願いを実行した。
Lyricが最後の起動音を鳴らす。それはどこか、泣いているように聞こえる。
光が爆ぜた。
大地が抉れ、戦闘ロボットたちは即座に退避するがとてつもないスピードで広がる爆風と灼熱に次々に焼かれ、塵となって消えていく。
俺の視界はもう、何も映さない。
Lyric演算に割いていたリソースが、ブラックボックスにアクセスし始めた。
屋敷と、一輪の白い花を俺に渡してくれるユキの顔——何事もなかったように、風に揺れている綺麗で長い彼女の髪。
小型原子力セルよりも厳重に保管されていたブラックボックスからのデータが、自身のボディが焼き尽くされる最後の最後に思い出させてくれる。
「これがデータだったとしても。あぁ……ごめんねって、言えなかったよ」
——ユキ。
……俺を、好きになってくれて。
ありがとう。
……さようなら。
幸せになって。