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一章「君を想う」改稿Ver.2

初めまして、紅イアカイサトと言います。

習作です。お目汚しになるかもしれませんが、地道にコツコツ改稿しています。

二話目以降との話が繋がらないことも予測されますので、その場合は改稿Verが最新のだけ見ていただけると幸いです。

「ハル……愛があるなら、私を愛して――」


 その言葉を、窓の外を見てつぶやく一人の少女。

 瞬きをするたびに、雪が舞う外界は白さを増していく。

 飛んでいた白い鳥が吐いた息の白さと混ざり合う。


 部屋の中央にある火の温かさを求めて、少女が歩くたびに靴と大理石の音が部屋を反響する。

 ポツンと暖炉の近くに置かれたテーブルと椅子。

 それは子供用の小さなものだった。


 そこにあるもの全てが人工物であり、少女もその一つ。

 少女の背丈は子供のようであり髪は足先まで伸びている。

 金と銀の二色が使われた髪は、暖炉の熱を受けて柔らかさを取り戻す。


 顔立ちは大人びていて、精巧な人形のよう。

 子供の身体に大人の美しさを無理やり付けたような歪さ。


 小さな手首には、黒色のビーコンが付けられていた。

 その機械にはオンラインを示す小さな緑色のライトが常に光っている。


「おはようございます、姫様」


 部屋に入ってきた一体のロボット。

 無機質な音声。その抑揚のなさが、ロボットの“会話”だった。


「おはよう、ハル」


 少女は振り向き、返しの言葉を伝えた。

 それが少女とロボットのいつもの会話のやり方。

 少女とロボットの数少ない秘密の一つ。


 ロボットは右手に新聞紙。

 左手には、赤色の飲み物が入った透明なグラスを持っていた。

 

 外見を人に似せる要素を持ちえないロボット、それを作った少女が挨拶を返す。

 関節が剝き出しで、装甲も無地のまま。

 優しく抱きしめることもできないロボットの存在が、少女の片想いの相手。


 少女が作った際にプログラムした一つ、新聞を読みなさい。

 これに従ってロボットが読み終えた新聞紙を少女へと渡す。


「……そう……もうすぐなのね」


 ロボットから手渡された新聞の大きく書かれた見出しに少女の力が抜ける。

 落とした新聞紙に書いてあった見出しは――


 『ジルドニア帝国がヴァイス公国へ宣戦布告!』


 ヴァイス公国——世界地図の隅で揺れる、小さな国。

 そして少女とロボットがいる場所。

 

「申し訳ございません、姫様。私では解決方法が見つかりませんでした。機能追加のアップデートを推奨します」


 ロボットが落ちた新聞紙を片膝をついて拾い上げる。

 小鳥が親鳥を見るように、少女の顔をジッと見ていた。


「ありがとう……ハル」


 少女は笑みを浮かべてロボットを見る。

 そして、誰にも聞こえない声量で言う。


 「愛されるよりーー殺されるのが、先かしら」


 少女が再び、窓の外を見ると。

 白くて冷たい粉が何もできずに、地面に触れては消えてを繰り返していた。

 冬が終わりそうになる。

 少女が自分でつけた名前「ユキ」と重なって、最後が近いことを少女は予感していた。

 

 その日の夜。


 寝室にロボットを呼び出した少女は、真剣な表情で告白する。


 「ねぇ、ハル……」

 真剣な表情が、不安に変わり、言葉を詰まらせる。


 「私ね、人間じゃないんだって」


 自分の大切な箱の中身を見せるかのように、少女は。

 決して変化することのないロボットの表情を伺う。

 

 「……それはどういう意味ですか?」


 ロボットのブラックボックス内に存在する感情模倣ユニット『Lyric』が起動する。

 AI進化のための研究をさせられていた少女。

 その裏で極秘に開発したプログラムを詰め込んだものが『Lyric』。


 「姫様は人間です。私は姫様の笑顔がとても好きですよ。機械や人工物にはないものです、不安にならなくて大丈夫です」

 

 感情や心を作ろうとして生まれたプログラムが、少女の告白に含まれている感情を読み取る。

 少女がロボットの胸に手を触れる。

 その手は、震えていた。

 感情の無い顔を真っ直ぐに見つめる。


「……ごめんね」


 一言、それだけを言うと手を引く。

 手の震えを隠そうと太ももの内側に置く。

 長い髪の毛で表情を隠す。


 「私はね……遺伝子操作された……うぅ……“デザインチャイルド”なのよ」


 少女の髪の中で、水滴が落ちる。

 

 「戦争のためのロボットを作るために、わざわざ“私”が作られたの」


 静かに聞いているロボットに向かって、肩を震わせながら。

 少女の顔が幼さを取り戻していく。

 

 「大丈夫、私は姫様を人間だと言い続けます。誰が何を言おうとも、ずっと」


 ロボットの中で起動音が加速する。

 世界で唯一の“感情に近づく”ロボット。

 その言葉は、少女にとって印象深い発言であり驚きの眼差しでロボットを見る。


 衝撃の出来事とまるでリンクしたかのように少女の手首に付けられていた黒色のビーコン。

 そこからサイレンが鳴り響いた。

 

 屋敷の四方にあるスピーカーが命令を発する。


「ヴァイス公国は現在、攻撃対象に指定されました。コード『001』を収容、または殺処分してください。すぐに移送を開始——」

 

 少女は時間に追われるような表情で、ロボットに最後の指示を出す。


 「ハル!よく聞きなさい……どんなことがあっても、“ありがとう”より、“ごめん”を先に言えるようになってほしいの。……それが、私の願いよ」


 扉が乱暴に開けられる。

 迷彩服を着た軍人風の武装集団が無感情にユキを拘束しようとする。


 そばにいたロボットに容赦なく銃弾が降り注ぐ。


 「——やめろ」


 一泊の沈黙のあと、低く、しかし揺ぎない声が響いた。

 腕部から展開された防護シールドが、ユキを囲うように展開される。


 「やめて!ハル!逃げて!!」


 軍人風が後ろにいた白衣を着た科学者たちに指示する。


 「緊急停止信号を!」


 科学者がポケットから取り出したスイッチを押すが、反応がない。


 Lyric起動……命令を棄却しました。


 「彼女は……“帰る場所”を必要としている。それを守ることが、私の使命です」


 ロボットは反撃をせず、対話を選んだ。


 「貴様、命令に逆らうつもりか!」


 何度も押すが、すべてがロボットに内蔵されたLyricによって棄却されていった。


 「いえ。私は命令に従っています。ただ、これは“私の意思”でもある。取引しませんか?」


 ロボットは一歩も退かず、軍人たちと向き合う。

 

 「なに?」


 リーダー格の軍人風の男が眉をひそめる。


 「私はここを守る、大切な研究施設なのでしょう?代わりに彼女を保護しなさい」


 一瞬の沈黙。

 先に口を開いたのは軍人風の男だった。


 「良いだろう。もし、本当に守ることが出来たのなら約束しよう」


 ニヤリ。

 髭を撫でながらロボットの提案を受けた。


 「精々、頑張ると良い。無駄死にならないように気を付けるんだな」


 その言葉の意味を十二分に理解できないロボットは交渉を締結させる。


 「了解しました。これから作戦行動を立案、実行します」


 少女は叫ぶ。


 「ダメよ!そんな言葉聞いちゃダメ!!」


 ロボットは立ち止まる。

 少女の声を、感情を、想いを、理解した。

 その上で。


 「姫様。……あの白い花を忘れないでください。“希望”と名づけたのは、あなたですから」


 そう言い残し、軍人風の男の隣を通り抜けるロボット。


 「っ!?……静電気か?……まったく、これだからロボットは嫌いなんだ」

 

 少女が駆け寄る。

ガラス越しに見えたロボットの姿が、どんどんと遠ざかっていく。

叩く拳は、あまりにも弱かった。


 崩れ落ちる膝に、長い髪が視界を閉ざす。


 ロボットが振り返る。

 少女が護身用にと作った。

 たった一つの武器である槍を持って。

 白い花の紋章が入った屋敷をカメラに映して。


 ロボットは走り出す。

 砲弾飛び交う戦場へ向かって。

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。

酷評、批評、指摘、推敲、評価、小さなことでもコメントやメッセージで聞かせてください。

この作品を読者の方も感動する、読める、泣かせられる必要なことは全部やってみたいです。

よろしくお願いします!

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