41、貪欲
ガルコス王国の国民は、私達を歓迎してくれた。前に来た時より国は豊かになり、国民に生気が戻っていた。両国の交易も盛んになり、とてもいい関係を続けていけそうだ。
「皆さん、幸せそうですね」
国民の笑顔が見られて、ホッとする。
この国を攻めることにならなくて、本当に良かったと思う。
「この国に笑顔が戻ったのは、レイチェルのおかげだ。俺は、何も出来なかった」
「何を仰っているのですか? 元は、ディアム様がガルコスに行こうと仰ったのですよ?」
ディアム様がいなかったら、戦争になっていた。
戦争なんてしなくて済むのなら、その方がいいに決まってる。憎しみが憎しみを呼び、誰かの幸せの為に誰かが悲しむなんて間違っている。そんな考え方は、王女としては不正解だろう。それでも構わない。私は私の信じる道を行く。
「それを言うなら、レイチェルがガルコスとの争いを何とかしたいと言い出したんだぞ?」
「では、私達二人のおかげですね!」
私達は、顔を見合わせて笑った。
ディアム様が嬉しそうで、私も嬉しい。前回ここに来た時の様子とは、まるで違っていた。
「良く来てくれた! 待っていたぞ!」
私達を歓迎してくれたのは、国民だけではなかった。陛下だけでなく、貴族達も歓迎してくれている。
「ディアム殿下、お会い出来て光栄です! ロレイン様に、とても良く似ていらっしゃる!」
「レイチェル様も、良くおいでくださいました! お二人のおかげでこの国は変わりました。本当に感謝しています!」
貴族の方々は歓迎してくれたけれど、王族はやっぱり違っていた。
「ディアム殿下は、この国で生まれ育ったわけではないので、何かとお困りになることがあるでしょう。お力になれることでしたら、何でも仰ってくださいね。それにしても、フィルエッタの国民としてお育ちになったのに、いい意味で、この国によく戻って来られましたね」
いい意味と付ければ、何でも許されると思っているのだろうか。
ベンジャミン様が亡くなったことで、次は自分が王太子になれるはずだったのだから、嫌味のひとつでも言いたくなるだろう。
「ありがとうございます。頼りにさせてもらいますね」
笑顔で受け流すディアム様は、大人だ。
「あ、ああ、そうしてください。そちらの方は、フィルエッタの王女だとか……。長年敵対していた敵国の王女を、妻に選ぶとは驚きです。やはり、この国で暮らしていなかったからでしょうな。フィルエッタのような豊かな国で、温室育ちの王女が、果たしてこの国でやって行けるのかが不安です」
温室育ち……入れ替えられなかったら、そういう人生もあったのかもしれない。
「温室育ちだなんて、そのように見えますか? 実は私、十七年間伯爵令嬢として生きて来たのです。父や母だと思っていた人達は偽物で、彼らの子と入れ替えられて育ちました。冷遇されて育って来たので、貴族としても王女としても、ディアム様の妻としても至らない点があると思いますが、逆境には強くなりました。ちょっとしたことでは挫けたりはしないので、精一杯この国にお仕えしていく所存です」
クライド伯爵夫妻やキャロルに鍛えられた私が、こんな嫌味に動じるはずがなかった。
「な……!?」
王族の方々は、私の話を聞いて、何も言えなくなっていた。
「レイチェル……それは、本当なのか!? 辛い目にあってきたのだな……」
陛下は、私に同情してくれている。
「確かに、辛いことがたくさんありました。ですが今は、私を思ってくれる家族がいて、ディアム様もいらっしゃるので幸せです」
私は、幸せに貪欲だ。そうさせたのは、ディアム様だ。ディアム様と出会ってから、幸せというものがどんなものか知った。そして本当の家族にあって、私はさらに欲張りになった。