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40、意地悪なディアム様



卒業式の日まで、あっという間だった。

学園に入学した頃は、まさか他国に嫁ぐことになるとは思ってもみなかった。


「もう卒業だなんて、月日が過ぎるのは早いわね。ガルコスなんてすぐそこだし、頻繁に会いに行くわ! 私はずーっと、レイチェルの親友だからね!」


デイジーなら、本当に頻繁に会いに来そうな気がする。ガルコスは隣国だけれど、すぐそこではない。けれど、気持ちはいつでも側にいる。

デイジーと、友達になった時のことを思い出す。デイジーのおかげで、辛かった学園生活も楽しく過ごすことが出来た。彼女には、感謝してもしきれない。


卒業式が終わると、すぐにガルコス王国へと出発する。卒業式にはお父様とお母様、そしてお兄様が来てくれた。

伯爵家で育っては来たけれど、学園に入るまでは何も教育を受けていなかった。これからは、王太子妃としての教育を受けることになる。


「レイチェル……行ってしまうのだな……」


「陛下、そんなに泣いていたらレイチェルが困ってしまいます。笑顔で見送るのでは、なかったのですか?」


そう言いながら、お母様も泣きそうだ。


「まったく、父上も母上もそんな顔をして。二度と、会えなくなるわけではありません。結婚式には、会えるではありませんか。レイチェル、幸せになるんだぞ……ぅぅっ」


お兄様も、二人のことは言えない。そして私も……


「泣かないでください……ふぇぇぇんっ……」


大号泣してしまった。

泣かないと決めていたのに、涙が止まらなかった。それほど家族が、大好きだった。

メイクがぐしゃぐしゃになるほど泣いて、ガルコス王国へと出発した。


少しずつ遠ざかって行くお父様達の姿を見ながら、また涙が溢れてくる。そんな私の手をディアム様が優しく握りしめて、溢れる涙を拭ってくれていた。


「……ありがとうございます」


頬に触れるディアム様の手が優しくて、なぜだかさらに涙が出る。

泣き疲れたからか、いつの間にか眠りについていた。


「……私、眠ってしまったのですね」


目を覚ますと、目の前に座っていたはずのディアム様の肩に頭を乗せていた。私が寝やすいように、隣りに移動してくれていたようだ。


「可愛い寝顔を見られて、幸せだった。何度キスをしてしまいそうになったか分からない。我慢するのが、大変だった」


「え……?」


急に顔を近づけてそんなことを言われたら、一気に心臓の鼓動が早くなる。泣きじゃくってボロボロの顔な上に、寝起きの顔……思わず下を向いてしまう。


「どうして下を向くの?」


絶対、わざと聞いてる。


「こんなぐちゃぐちゃの顔を、見られたくありません……」


「ずっと寝顔を見ていたのに?」


「それとこれとは別です! ディアム様は、意地悪です」


思わず顔を上げて抗議すると、愛おしそうに私を見つめるディアム様の視線に戸惑う。そしてそのまま、目を離せなくなった。


「意地悪な俺は、嫌い?」


目をそらすことなく、ゆっくりと彼の顔が近付いてくる。

嫌いなはずがない。どれほど彼を想っているか……

私はまだ、彼に直接伝えていない。彼からは、たくさんの気持ちと言葉をもらった。


「ディアム様、愛しています……」


その言葉と同時に、愛しい人から唇を塞がれた。とっても甘くて全身がとろけてしまいそうなキスに、もう何も考えられなくなっていた。



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