4、消えゆく気持ち
休日を終えて学園に登校しようとすると……
「また?」
また、ドアに悪口が書いてあった。きっと、寝ている間に書いたのだろう。
ケリーにそのままでいいと告げてから、学園に向かった。
教室に入ると、辺りを見渡す。この中に、落書きをした犯人がいるかもしれない。キョロキョロしていると、デイジーが「おはよう」と声をかけてきた。
「おはよう、デイジー」
友達がいる学園生活は、今までよりずっと楽しい。
「今朝、レイチェルの部屋の前を通ったらびっくりしたわ! あんな酷いことをされているの!?」
デイジーの部屋は私の部屋から離れているから、見られることはないと思っていた。他の人が見たところで気にしないだろうけれど、デイジーには見られたくなかった。
「あれは、気にしないで。何回消しても書かれているから、あのままにすることにしたの」
「何回もなんて、冗談でしょ……? もう頭に来た! レイチェルの部屋のドアに、悪口を書いたのは誰!? そんな汚いまねして、恥ずかしくないの!?」
デイジーがこんなに気が強いなんて、少し意外だった。彼女の気持ちが嬉しくて、胸の辺りが温かくなる。生徒達の反応は、予想通りだったけれど。
「それって、オリビア様がレイチェル様にされた嫌がらせじゃない……」
「エリック様に同情して欲しくて、自分で書いたんじゃない?」
「汚いのは、レイチェル様の方じゃない!」
誰も私を信じていないのだから、何を言っても無駄だと分かっていた。分かっていたけれど、デイジーの気持ちが嬉しいからみんなの反応なんて気にならない。
「何なの……!?」
デイジーの怒りはおさまらないけれど、彼女の手を握って微笑んだ。
「ありがとう、デイジー。デイジーが私の為に怒ってくれて、感謝してる」
いつの間にか私は、何もかも諦めていたのかもしれない。
「友達なのだから、当たり前じゃない!」
「そうそう、友達なんだから当たり前だな。おい、お前ら! どうせ書くなら、『ディアムのもの』って書け! 俺のものだから、手を出すな!」
いつからいたのか、ディアム様まで生徒達に向かって注意? をした。冗談のように聞こえるけれど、ディアム様の目は真剣だった。彼なりに、私を庇ってくれたのだろう。
「ディアム様……そんなことを書かれたら、すぐに消します!」
「何でだ!? 俺なら、エリックと違ってレイチェルだけを信じるのに!」
先程の真剣な表情から、いつものディアム様に戻っていた。掴みどころがない方だけれど、悪い方じゃないのは分かる。
「オリビアを傷付けておいて、君はなぜ笑っていられるんだ?」
エリック様がいたことに、全く気付かなかった。私の中から、彼の存在が消えていっている証拠だろう。
「私は、何も悪いことはしていません」
彼が信じなくても、かまわない。私達は、もう終わったのだから。
「図々しいにも程がある!」
「図々しいのは、お前だろう? 今もまだ、レイチェルに愛されてると思っているのか? お前がずっとオリビアとイチャイチャしているところを見せられて、彼女が何も感じなかったとでも? 彼女の気持ちも考えず、他の女とイチャイチャしていたお前に、レイチェルを責める資格なんかない!」
ずっとモヤモヤしていたことを、なぜかディアム様が代わりに言ってくれた。
ディアム様のおかげで、胸がスーッとした。それと同時に、エリック様への気持ちが消え去っていった。