39、友好国
お父様に報告をする為に、フィルエッタに戻ることになった。
ガルコス王から全てを話す許可をもらい、馬車に乗り込んだ。
「パーカー様……どうされたのですか?」
デイジー達と合流したのだけれど、パーカー様はげっそりしていた。
「食べるものがあまりないからと、水をがぶ飲みしていたらお腹を壊したの。一日中、お腹がギュルギュルなっていて、隣りの部屋まで聞こえて来たわ」
二人も、色々あったようだ。
デイジーは呆れた顔で、パーカー様を見ながら深いため息をついていた。
滞在期間は短かったけれど、ディアム様とガルコス王が和解出来て良かった。これからは、さらに大変なことが待っているだろう。それでも、ディアム様となら頑張っていける。
フィルエッタに戻って来ると、パーカー様はこれでもかというくらいの料理を食べまくっていた。この国は、本当に豊かだ。そのことに、改めて感謝している。
「話は分かった。レイチェルは、それでいいのか? 国の為に、自らを犠牲にする必要はないのだぞ?」
王宮に戻り、全てをお父様にお話した。
「犠牲だなんて、思っていません。愛する人の妻になることが出来るなら、幸せだと思っております。そして、愛する人の力になりたい。その結果、国の利益に繋がるのなら、こんなに嬉しいことはありません」
『愛する人』と口にした途端、ディアム様が放心してしまった。本人に言ったことがなかったから、驚いてしまったようだ。
「言い出したら聞かないところまで、王妃にそっくりだ。ガルコス王国と友好国となること、そしてレイチェルとディアムの婚約の件を進めることにしよう」
私達のことを認めてはくれたけれど、どこか寂しそうだった。ディアム様と結婚したら、そう簡単に会うことは出来なくなる。十七年も離れていたのに、またすぐに会えなくなってしまう。ようやく本当の家族と過ごせるようになったのだから、私だって寂しい。けれど、ガルコス王の話を聞いた時、この方法しかないと思った。
「ありがとうございます、お父様。私は、お父様の娘に生まれて、本当に幸せです」
家族というものが、どんなものなのかを教えてくれた。こんなに心が満たされる日が、来るとは思っていなかった。
「レイチェル、これだけは覚えておいてくれ。私も王妃もダニエルも、お前を心から愛している」
ガルコス王国では、ベンジャミン様がお亡くなりになっていたことを公表し、ディアム様が王太子になると発表された。そして、ディアム様と私の婚約が発表され、フィルエッタ王国と友好国になることも発表された。ガルコス国民は、長い間続いた争いに終止符が打たれたことに歓喜した。
フィルエッタからは食料支援が始まり、ガルコスからはたくさんの職人が派遣された。武器だけでなく農機具を作れる職人が多く、農機具の性能はフィルエッタの職人が作るよりも精巧に出来ていると好評だった。仕事がなかった職人に仕事をしてもらうことで、飢えに苦しむ国民も減るだろう。
ディアム様と私は、学園を卒業するまではフィルエッタで寮生活を続けることになった。ガルコスの王族はディアム様のことも私のことも、良くは思っていない。けれど、ガルコス国民は私達のことを受け入れてくれている。下手に何かをすれば、暴動が起きかねない。食料事情が良くなり、力を蓄え始めた国民を敵に回したくはないはず。フィルエッタだけでなく、自国民も敵に回すようなことはしないだろう。
学園を卒業するまでは、なるべく週末には王宮に帰ることにした。今まで一緒に過ごせなかった時間を取り戻すように、家族で楽しく過ごす。
「レイチェル、これを……」
お母様は、小さな箱を差し出した。開けてみると、中にはピンク色の宝石が施された指輪が入っていた。
「これは?」
「フィルエッタ王国の、王家に伝わる指輪よ。本当は、ダニエルのお嫁さんになる人に渡そうと思っていたのだけれど、ダニエルはまだまだ相手を見つける気がなさそうだし、何よりあなたに持っていて欲しいの」
「そのような大切な指輪を、私がいただいてもよろしいのですか?」
「これは、私達三人で決めたことだ。たとえ他国に嫁いでも、お前はフィルエッタの王女だ。そして、私達の娘だ。ディアムに飽きたら、いつでも帰ってきなさい」
「お父様、ありがとうございます。でもそんなことをしたら、ディアム様が泣いてしまうかもしれません」
ディアム様に飽きることなんて、決してないだろう。逆に、飽きられないように努力をしようと思う。
卒業式まで一ヶ月後に迫り、別れを考えると悲しくなってしまうけれど、残り少ないフィルエッタでの時間を無駄に過ごさないように、一日一日を大切に過ごした。