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36、ガルコス王国へ出発



「遊びではないのだけれど……」


今回は王女としてガルコス王国へと行くのだけれど、みんなが着いてきてしまった。

ディアム様とマリー、そして護衛……だけではなく、お兄様、デイジー、パーカー様まで同行している。

お兄様は、まだ分かる。ガルコス王国との争いを終わりにすることは、それほど重要なことだからだ。でもデイジーとパーカー様は、旅行気分だと思う。


「ガルコス王国に行くなんて初めて!」

「僕も、ガルコスは初めてだ。ガルコスの食べ物は、独特だと聞いているから楽しみだよ」

「パーカーは、食べ物のことばっかりね」


婚約してからさらに仲良くなっているようで、幸せそうなデイジーを見られるのは嬉しい。嬉しいけれど、これから敵国に向かおうとしているのに緊張感がなさすぎるように思う。


「お前ら……何しに行くのか、分かっているのか?」


いつもなら、『俺達もイチャイチャしよう』とか言いそうなディアム様も、二人を見ながら呆れ顔だ。


「分かっています! レイチェルの力になりたくて、一緒に行くと決めました。危険なのも承知です」


二人は、私達の緊張を和らげようとしてくれていたようだ。というより、自分達の緊張を和らげたかったのかもしれない。危険を承知で着いてきてくれた二人に、感謝している。


「国王陛下は、会ってくれるでしょうか……」


もうすぐ国境……というところで、急に不安になって来る。ガルコス王国に行く名目は、ディアム様のお母様の手紙を陛下にお届けするというものだ。


「正直、祖父は母のことなど愛していないと思って来た。反対を押し切って他国へ嫁いだ母を、娘だなんて思っていないだろうと。だが、レイチェルと陛下を見ていたら、祖父も母をまだ愛しているのではと思えた。祖父に会う勇気をくれたのは、レイチェル……君だ」


もしかしたらディアム様は、お祖父様にお会いしたいと思っていたのかもしれない。

弱気になるのはやめよう。必ず陛下にお会いして、この争いに終止符を打つ。



「まさかこれは……」


ガルコス王国の国境で、陛下に書いてもらった手紙とは違う、ロレイン様からの手紙を警備兵に渡す。すると、警備兵は涙を流しながら手紙を読んでいた。


「……お通りください。陛下には、お伝えしておきます。ディアム様、お帰りなさいませ。歓迎いたします!」


警備兵は、すぐに早馬を走らせた。

警備兵の対応を見るだけでも、ロレイン様がこの国で愛されていたことが分かる。そのまま私達は、王都に向かう。


王都に向かいながら、たくさんの村や町に立ち寄った。この国は、あまり裕福ではないように思える。食料が不足しているからか、物価が異常に高い。高いから買えず、国民は飢えに苦しんでいる。フィルエッタ王国とは違って、作物が育ちにくいとは聞いていたけれど、これほどまでとは思わなかった。フィルエッタ王国の北に位置するガルコス王国では、一年の半分は雪が降っている。日光を必要とする作物を育てるのは難しく、農作物は期待出来ない。何かを作る職人が多く、競争率が激しい。稼げるのはひと握りの職人だけで、お金を稼ぐことの出来ない国民が食料を買えない。その上、食料が不足していて高騰しているのだから、飢えてしまうのは必然だった。

宿で出される食事も質素で、パーカー様が楽しみにしていた食事ではなかった。ガッカリはしていたけれど、それ以上に国民が飢えていることに心を痛めていた。


「フィルエッタとガルコスが交流出来たら、飢えに苦しむ人も減るのに……」


フィルエッタ王国は気候が暖かく、逆に農業が盛んな国だ。食べ物があるというのは、国を豊かにする。


「そのように考えられるお前が、羨ましい。私は、ガルコス王国を敵国としてしか見ていなかった。あまりにも長く続く争いの中で、勝利することしか考えられなかったんだ」


私の考えは、甘いのかもしれない。けれど、お父様もお兄様も、本当は甘いのではと思えた。


「この国の現状を見たら、戦争のことを何も知らない私にだって分かります。お父様もお兄様も、心のどこかでは友好関係を結びたいと思っているのではありませんか?」


こんなにも飢えている国民がいて、国は疲弊している。一気に攻め込んでしまえば、勝利することが出来るだろう。それをせずに、国境付近の争いだけに留めているのだから、本気でこの国を手に入れようとは考えていないように思えた。


「お前は、鋭いな。長年ガルコス王国との争いは続いてはいるが、ある時から死者は出ていない。そのある時とは、ロレイン様がフィルエッタ王国に嫁いでからだ。確かに、今攻め込めば勝利は確実だろう。だが、父上はそうしなかった。このような機会を、待っていたのかもしれないな」


国王としては、本当に甘いのかもしれない。けれど、そんな甘いお父様が私は大好きだ。

お父様が武力で手に入れようとはしなかったこの国と、必ず友好関係を結ぶと心に誓って王都に入った。



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