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32、誕生日おめでとう



「王女に戻ったら、ずいぶんと強気になったのね。だからといって、あなたは変わらない。エリックに頼り、ディアムに頼るだけの人形よ!」


夫人は、何も分かっていない。確かに昔は、エリック様に頼っていたかもしれない。けれど、ディアム様は私の意思を尊重してくれる。いつも側で、見守っていてくれる。ディアム様がいるから、私は強くなれる。

それに、私のことを分かってくれる親友や、愛してくれる両親、妹想いの兄もいる。ずっと側にいてくれた、ケリーもいるのだから。


「王女だからとかは、関係ありません。今の私には、愛してくれる人がたくさんいます。十七年もかけたのに、あなたは私から何も奪えてはいなかったのです。あなたには、何が残ったのですか? 愛した人を裏切り、夫を裏切り、娘まで道連れにしようとしている。今のあなたに、いったい何が残っているというのですか?」


望んだものは、何一つ残らなかった。夫人にとっては、何よりの罰だろう。


「私には……」


何も残っていないのだと気付き、言葉をつまらせる。そのまま夫人は、何も話さなくなった。


「クライド伯爵夫妻の罪は、明らかだ。二人を投獄せよ!」


二人は投獄され、ガードナーさんとオリビア様も連行された。一人残されたキャロルは、どうしたらいいのか分からずにオドオドしている。

まさかキャロルも知っていた……なんてことは、ないと思う。知っていたなら、オリビア様のあんな噂を流すはずがない。逆に、取り入っていただろう。

クライド伯爵夫妻は、重い罰が下されることになる。キャロルは、これからどうするのだろうか……


「皆、驚いたことだろう。王女の名前についてだが、レイチェルの希望通り、そのままにすることにした。十七年……娘だと知らずに、長い年月を過ごしてしまった。王女が、どんな扱いをされていたかも知らずに……本当に、不甲斐ない父だ……」


陛下の目に、涙が溢れる。

誰が入れ替えなんて大それたことを、想像出来ただろうか。私は、両親を恨んではいない。


「お父様……私はお父様の娘に生まれたことに、感謝しています。ご自分を責めるのは、おやめ下さい」


そっと、父の手を握る。


「レイチェル……ありがとう。十七歳の誕生日、おめでとう」

「おめでとう、レイチェル」

「おめでとう」


お父様、お母様、そしてお兄様……

ようやく私は、本当の家族の元に帰ることが出来た。ここが、私の居場所だ。


誕生日パーティーは、その後も続いた。

いつの間にか、キャロルの姿はなくなっていた。


「レイチェル、誕生日おめでとう!」


ディアム様から中庭に誘われ、箱に入った包みを渡された。


「これは?」


「開けてみて」


そう言われて箱を開けてみると、中には青い宝石が施されたペンダントが入っていた。


「綺麗……」


思わず魅入っていると、ディアム様はペンダントを箱から取り出した。


「つけてあげるよ」


ディアム様は私の後ろに回り、ペンダントをつけてくれた。そしてそのまま、後ろから抱きしめられた。


「ディアム……様……?」


突然のことに、鼓動が激しくなる。


「このまま、聞いてほしい。俺は、君に出会えてすごく幸せだ。こんなに誰かを想ったのは初めてで、たまにどうしたらいいか分からなくなる。今日が終わってしまったら、君の護衛をするという名目もなくなってしまう……それでも俺は、君の側にいたい。君の側に、いてもいいか?」


いつも強気で、『俺のレイチェル』だとか言っていたのに、こんなのズルい……

いつもと違うディアム様に、胸がぎゅっと締め付けられる。鼓動はさらに早くなり、彼への想いで胸の中が埋め尽くされていく。


「約束、してくれたではありませんか。『一生守り抜く』と。約束は、守っていただかなくては困ります」


顔が見えなくて良かった。

きっと今の私の顔は、真っ赤になっているから。


「必ず守る。約束だ」


抱きしめる腕に、力がこもった。


「レイチェル様~!」


その時、私の名を呼ぶ声が聞こえた。この声は……


「ケリー!?」


久しぶりのケリーの声に、嬉しさが込み上げて来る。

ディアム様は私から手を離し、「残念」といじけた顔を見せた。


ケリーは死んだことになっているけれど、父が新たな戸籍を用意してくれて、今はマリー・ドノバンという名前になった。


「レイチェル様、お会いしたかったです!」


変わらない笑顔が見られて、思わずケリー……いいえ、マリーを抱きしめる。


「私も、会いたかった……」


マリーはクライド伯爵夫妻の刑が確定するまでは、王宮に留まることになった。元気な顔を見ることが出来て、ホッとした。



誕生日パーティーが終わり、寮に戻って来ると……


「キャロル……?」


私の部屋のドアの前で、キャロルはうずくまっていた。


「……やっと帰ったのね。ずっと、待っていたのよ」


ゆっくりと立ち上がり、ジリジリと私に向かって近付いてくる。いつものキャロルとは違う。あんなことがあったのだから、違うのは当たり前なのかもしれないけれど……


「キャロル、大丈夫?」


声をかけても返事をせず、そのまま足を止めることなくジリジリと近付いてくる。思わず後退りすると、階段の上まで追いつめられていた。


「全部、お姉様のせいよ! 誕生日おめでとう……」


その瞬間、キャロルは私を思い切り突き飛ばした。


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