30、新たな真実
入れ替えと聞いて、出席者達は衝撃を受けたようだ。けれど、噂が広がっていたこともあり、徐々に受け入れ始めている。けれど、オリビア様は違っていた。
「お父様……嘘……ですよね? そんなの、信じない! 私がお父様とお母様の娘で、この国の王女よ!!」
陛下はオリビア様を見つめた後、ガードナーさんに話しかけた。
「ガードナー、王女の特徴を言ってくれ」
「……王女様には、足の裏にホクロが四つあります」
ガードナーさんは、オリビア様を見ることが出来ないようだ。ようやく会えた娘を、抱きしめることも出来ず、下を向いたまま証言をしている。
「なんてことを……なんてことをしてくれたのよ! オリビアはこれからも王女として幸せになるはずだったのに、父親のあなたが我が子の幸せを潰してしまうなんて!」
夫人は自分が終わりなのだと分かったら、開き直ったようにガードナーさんを責め出した。
「いい加減にしてくれ……君のせいで、私の人生は終わった。娘を奪われ、十七年もの間一人で耐えて来たというのに、君は私を殺そうとした。我が子の幸せを潰したのは、君の方だ。私の子だと知りながら、クライド伯爵の子だと偽り、さらに王女だと偽った。オリビアには、分相応な暮らしをさせてやりたかった」
二人の話を聞いていたオリビア様は、その場に崩れ落ちた。
「私が……この人達の……娘……そんなの……酷すぎる……」
誕生日パーティーの主役のはずだったのに、天国から地獄へと突き落とされた気分だろう。気の毒だけれど、これが真実だ。これから彼女には、今までとはまるで違う人生が待っている。今までのような、わがままは通じない。
そして、キャロルはというと……私のことを、めちゃくちゃ睨んでいる。両親が捕らえられたということよりも、私が王女だったことの方が納得いかないようだ。
「オリビア、お前はもう王女ではない。これからは、自分の道を歩んで行って欲しい」
十七年間娘として育てて来たのだから、愛情はもちろんあるだろう。けれど陛下は、それと同時に罪悪感があると話してくれた。オリビア様に愛情を注いでいた時、私はクライド伯爵家で虐げられて来た。知らなかったこととはいえ、自分が許せないとのことだった。気にしないで欲しいと伝えたけれど、陛下も王妃様も殿下も、ケジメをつけるべきだと思っているようだ。そのケジメとは、オリビア様と決別すること。
「お父様……」
「私はもう、お前の父ではない。私の娘は、ここにいるレイチェルだけだ。そしてお前の父は、そこにいるガードナーだ」
オリビア様を、冷たく突き放す。それがどれほど辛いことなのか、言葉とは裏腹に震えている陛下を見ていれば分かる。これ以上は、陛下に辛い思いをして欲しくない。そう思い、私が代わることにした。
「皆様、本日は私の誕生日パーティーにご出席いただき、誠にありがとうございます。私はずっと、クライド伯爵家の長女として生きて来ました。クライド伯爵夫妻は、私を愛してはくれなかった。毎日毎日、家族に虐げられ、使用人にまでバカにされ、生きて行くのが辛かった。それでも、たった一人だけ味方でいてくれたのが、侍女のケリーでした。そのケリーを、クライド伯爵夫妻は人を雇い、襲撃させたのです」
先程クライド伯爵は、『その侍女は、すでにこの世にはおりません』と言った。ケリーという侍女は、死んでいると皆が認識しただろう。
「私ではない! ケリーを狙ったのは、サラだ! レイチェル、私は何も知らなかったのだ! 入れ替えのことも、サラが勝手にやったことだ! 信じてくれ!」
自分だけは助かろうと、必死に訴えて来るクライド伯爵。確かに、入れ替えたのは母の独断だ。けれど、入れ替えたと聞いた時に真実を話す機会はあった。百歩譲って、妻が大罪を犯し、怖くて言い出せなかったというのは分かる。でもクライド伯爵は、母と共に私を虐げ続けて来た。
「何を信じろというのですか? あなたは、私を虐げ続けて来たではありませんか。ケリーとガードナーさんを殺すよう夫人に命じたのは、あなたですよね? そうでなければ、夫人が十七年もの間匿い続け、愛していた相手を殺そうとするはずがないではありませんか。いい加減、認めたらどうですか? あなた達は、終わりです」
この二人は、私とオリビア様だけでなくたくさんの人の人生を狂わせた。それでも、真実を知るまでは両親だと思っていた。素直に罪を認め、反省して欲しかった。
「終わり……? そんなの、嘘よ! オリビア! いい加減、その臭い演技をやめなさい! この母を、助けなさいよ!」
……そんな……まさか……
オリビア様も、知っていたの!?
なりふり構わなくなった夫人。
オリビア様はゆっくり振り返り、夫人をものすごい形相で睨み付けた。