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3、実家



休日を利用して、邸に帰ることになった。

邸は王都にあり、学園から馬車で二時間ほどの距離だ。


「レイチェル様、大丈夫ですか?」


馬車が邸に近付くにつれて、不安が表情に現れていたようだ。両親と会うのも、キャロルと会うのも気が重い。学園の寮に入ることになった時、邸から出られることが嬉しかった。卒業と同時にエリック様と結婚する予定だったから、もう戻ることはないと思っていた。


「ええ、大丈夫よ。ケリーには、感謝しているわ。あなただけが、あの邸で私の味方でいてくれた。ありがとう」


ケリーは、少し考えてから口を開いた。


「……私には、感謝していただく資格はありません。レイチェル様をお守りすることが、私の使命だと思っております」


いつもと様子が違うケリーが気になったけれど、すぐに馬車が邸に到着してしまい、話を聞くことが出来なかった。


邸の中に入ると、執事からすぐにリビングへ行くようにと言われた。リビングに行くと、父と母がソファーに座り、私を待っていた。


「ただいま戻りました」


挨拶をすると、両親はソファーに座ったままこちらを見る。


「婚約を解消されたそうだな。お前は本当に、役立たずだ!」


エリック様は、侯爵家の嫡男。嫌いな娘でも、侯爵家に嫁げることを喜んでいた。それがなくなったのだから、叱られるのは覚悟していた。


「今からでも遅くないわ! エリックに別れたくないと、泣きつきなさい! あなたのような何の取り柄もない子を、一度はもらってくれると言ったのでしょう? 逃したら、次はないわ! なんなら、既成事実を作りなさい!」


母はどうしても、エリック様との婚約を復活させたいようだ。親の発言だとは、とうてい思えない。


「申し訳ありません。私は、エリック様とやり直すつもりはありません。それに、エリック様にはすでにオリビア様がいらっしゃいます」


「オリビア様……だと!?」


オリビア様の名を出した途端、二人の様子が変わった。


「……話は分かった。部屋に戻りなさい」


あれほど怒っていた父も、やり直しなさいと言っていた母も、婚約解消のことなどどうでもよくなってしまったようだ。

私は素直に、部屋に戻ることにした。


「お茶を淹れます」


部屋に入るなり、ケリーはお茶を淹れに行った。

あまり叱られなかったからか、なんだか拍子抜けだ。

ソファーに座り、部屋の中を見渡すと、色々な物がなくなっている。


泥棒!? かと思ったけれど、きっとキャロルだろう。元々、私の物なんてそんなにない。両親は、必要最低限の物しか買ってくれなかった。妹はなんでも持っているのに、私の物まで欲しがる。


「お姉様、帰っていらしたのね!」


ノックもなしに、いきなりドアが開いてキャロルが中に入って来た。いつものことだったけれど、寮生活をしていたから忘れていた。


「ただいまキャロル。元気だった?」


キャロルはそのまま向かい側のソファーに座り、私の顔をじっと見つめた。


「……婚約を解消されたわりに、元気そうね。もっとボロボロなのかと思っていたわ。学園に入学したら、エリック様を私が奪おうと思っていたのに、その前に振られるなんて可哀想」


奪おうと思っていたことは、なんとなく気付いていた。


「そう、それは残念ね」


私のものは、全部自分のものだと思っているようだ。


「私達、本当に似てないわよね。お姉様は、どこかで拾って来たんじゃないかしら。そんな愛想のない顔じゃ、エリック様も興味なくすわ」


キャロルの言う通り、私達は似ていない。なんなら、私は父にも母にも似ていない。両親もキャロルも金色の髪なのに、私は銀色の髪だ。瞳の色も、父は茶色で母とキャロルは青色。私は、緑色だ。容姿が似ていないから、私は両親から嫌われているのだろうか。


ケリーが私の為に用意したお茶を一口飲むと、キャロルはすぐに部屋から出て行った。奪うものがなくなった私には、興味がないらしい。


「お茶を淹れなおしますね」


「いいわ。話は終わったし、寮に帰りましょう」


ここに私の居場所はない。かといって、学園に居場所があるとは言えないけれど、友人がいる学園に帰りたい。

両親に帰る挨拶をしたけれど、上の空だった。オリビア様の名を出してから二人の様子がずっとおかしかったけれど、あまり叱られなかったから気にならなかった。


寮の部屋に戻ると、またドアに悪口が書かれていた。


「ケリーが一日かけて綺麗にしてくれたのに……」


悪口を言われたところで、気にはならない。けれど、一生懸命掃除をしてくれたケリーに申し訳ない。


「レイチェル様は、お優しいですね。こんな陰険なことをするなんて、呆れてしまいます。すぐに落としますね」


「私も、手伝うわ。断らないでね」


二人でドアに書かれた悪口を綺麗に落とし、一日が終わった。


「お疲れ様です」


「次に書かれたら、もうそのままでいいわ。書くのは簡単でしょうけれど、消す方の気持ちを考えて欲しいわ。なんて、そんなこと考えられるなら、こんなことしないでしょうけれど」


「お強くなられましたね」


「そうね、昔は泣いてばかりだったものね。エリック様とのことで、子供みたいに泣いてしまったけれど、もう泣かない」


さすがに、エリック様がオリビア様を信じた時は泣きじゃくったけれど、彼が選んだのはオリビア様なのだから仕方がない。そんなに単純に割り切れるわけではないけれど、昔には戻れない。もちろん、まだ愛してる。この感情が、いつか消えてくれるまでは、胸が苦しくなるだろう。けれど、なんだかスッキリした気分だった。エリック様とオリビア様が一緒にいても、モヤモヤすることはもうないのだから。



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