29、断罪の時
王宮の二階に上がると、私の本当の家族が待っていてくれた。全員で会うのは、これが初めてだ。
陛下も王妃様も涙ぐんでいて、殿下は優しく微笑んでくれている。ここが、私の居場所なのだと思うと、胸の中が温かくなるのを感じた。
大ホールには二つの入口があり、一階のホールの入口は外から入ることができ、二階のホールへは王宮内から入ることが出来る。
二階のホールへの扉がゆっくりと開かれ、先に陛下と王妃様が中に入る。そして私は、扉の前で待機する。隣りには、ディアム様がいてくれるから心強い。
「いつの間に、そんなに仲良くなったんだ? 私が、レイチェルの支えになりたかったのに……」
殿下は私とディアム様を見て、少し拗ねた素振りをしたけれど、本当は嬉しそうだ。
「殿下、シーッ! 陛下の挨拶が始まりますよ」
ディアム様……殿下の扱いが、雑過ぎます。心の中でツッコミを入れながら、扉の向こうから聞こえてくる陛下の挨拶に耳を傾ける。
「皆、良く来てくれた。今日は私の娘の、十七回目の誕生日だ。私が至らなかったばかりに、大切な娘に苦労をさせてしまった。どれほど愛しているのかを、娘に分かってもらえるよう、これから努力していくつもりだ」
陛下の挨拶に違和感を感じているのか、ホール内がざわついている。
陛下は、私に向けて話してくれているのだ。
「では、紹介しよう。この国の第一王女、レイチェル!」
陛下の紹介と共に扉が開かれ、ゆっくりと歩き出す。緊張で心臓が口から飛び出して来そうだけれど、後ろで見守ってくれているディアム様に、みっともない姿は見せたくない。殿下にエスコートされて、陛下の隣りに立つ。
「これは……どういうことですか?」
「彼女はいったい……?」
「第一王女殿下は、オリビア様では?」
ホール内がざわめく中、真っ青な顔で目を見開いているクライド伯爵夫妻を見つけた。その隣りには、何が起きているのか分からず目をパチパチさせているキャロルの姿もある。
そして、階段下にはオリビア様とエリック様。オリビア様は陛下の言葉は、自分に向けられていると思っていたようだ。だから、二階に上がろうと階段下まで来ていた。
「お父様!? これは、いったいどういうことなのですか!? なぜ私のいるべき場所に、レイチェル様がいるのです!? なぜお父様は、レイチェル様を王女だと紹介したのですか!?」
当然の疑問だろう。オリビア様は、何も知らなかったのだから。
二階に上がろうとするオリビア様を、護衛兵が止める。
「通しなさい、無礼者! 私を誰だと思っているの!? 私はこの国の第一王女、オリビアよ!」
そう叫ぶオリビア様を、陛下も王妃様も殿下も、悲しそうな目で見つめている。
陛下は、心を鬼にして話し始めた。
「オリビア、黙りなさい。事情は、これから説明する。その前に、クライド伯爵夫妻を捕らえよ!」
二人が逃げないように兵に捕らえさせ、階段下で跪かせた。
「陛下、これはどういうことなのですか!? 私は、何もしていません!」
「陛下は、何か誤解していらっしゃるのです! レイチェルは私達の娘で、オリビア様が王女殿下ではありませんか!」
この状況でも、ケリーとガードナーさんを始末したと思っているからか、必死でいいわけをしている。
「まだ、そんなことを……」
陛下が右手を上げると、大臣がケリーの手紙を開き、読み始める。
「突然のお手紙を、お許しください。私は、クライド伯爵家に仕えております、侍女のケリーと申します」
ケリーの名を聞いて、クライド伯爵夫妻の真っ青だった顔がだんだん白くなっていく。
「そこまででよい。クライド伯爵、言い逃れをしても無駄だと分かったであろう?」
「その侍女は、すでにこの世にはおりません! 手紙など、偽造することも可能です! これは、私を陥れようとする者の陰謀です!」
クライド伯爵は、必死だった。
「まだ認めぬと申すか……証人をここへ!」
兵が連れて来たのは、ガードナーさん。その姿を見たクライド伯爵夫人は、「あ……あぁ……あ……」と、言葉にならない声を発していた。
殺したはずのガードナーさんが証人として目の前に現れたのだから、全てが終わったと確信したのだろう。
「ガードナーは、お前達の罪を全て白状した。十七年前、クライド伯爵夫人が産んだ赤子と、王妃の産んだ赤子を入れ替えたことをな」