27、決戦の日
「エリック、私の誕生パーティーには出席してくれるのよね?」
「ああ……」
オリビア様の誕生日パーティーが三日後に迫り、オリビア様は上機嫌で日々を過ごしていた。けれどなぜか、毎日エリック様にパーティーに出席してくれるのかと確認している。そしてエリック様の返事はいつも「ああ……」だけだ。その返事が気に入らないのか、毎日同じことを聞いている。
「最近、あの二人の温度差がすごいね」
入学してからずっと、オリビア様とエリック様は仲が良かった。それが、最近は何だか様子がおかしい。デイジーだけでなく、クラスメイト全員が気になっているようだ。
「オリビア様には色々嫌なことをされたけれど、エリック様にはオリビア様を支えて欲しいと思ってるから、早く仲直りしてくれればいいな」
「レイチェルは、人が良すぎだ。そういうところも、好きだけど」
さりげなく好きとか言うのは、やめて欲しい。どう返したらいいのか、分からなくなる。
人が良すぎ……か。それでも、やっぱりエリック様にはオリビア様を支えて欲しい。陛下や王妃様、ダニエル殿下が愛情を注いで来た家族だったのだから、不幸になって欲しいとは思わない。それに、これから起こることはオリビア様にとって本当に辛いことになる。
育って来た環境は、確かに私の方が不幸だった。けれど、出生の秘密はオリビア様にとってあまりにも酷で、幸せな人生から真っ逆さまに落ちていくことになる。何よりオリビア様は、何も知らない。私はこの手で、何も知らないオリビア様を不幸のどん底に突き落とすことになる。
やっぱり、私は人が良すぎなんかではない。
オリビア様が不幸になると分かっていて、計画を変えるつもりはないからだ。エリック様が支えてくれたらいいのになんて思うのは、この罪悪感が少しでも消えて欲しいから。
オリビア様を不幸にしようと、私は自分の人生を取り戻し、母に復讐をする。
誕生日パーティー当日、今日はディアム様からいただいたドレスに身を包んだ。
「とてもお似合いです!」
ディアム様が用意してくれた侍女のレイミーは、目を輝かせながら鏡に映る私の姿を見ている。
「ありがとう、レイミー。メイクも髪も、すごく気に入ったわ」
今日私は、本来の自分の居場所に戻る。
不安がないと言えば、嘘になる。私は伯爵令嬢として育ち、王宮での暮らしなんて何も分からない。それでも私は、本当の家族の元に帰りたい。
家族の愛情を知らずに生きてきた私が、王妃様に会い、殿下に会い、陛下に会って、家族の愛情というものを知った。それが、私にとってどれほど望んでいたものだったか。
寮を出ると、いつものようにディアム様が笑顔で待っていてくれた。
「レイチェル、すごく綺麗だ……」
ディアム様はいつも褒めてくれるけれど、今回は自分が贈ったドレスだからか、感動しているように見える。彼からの贈り物を着ている私も、少しだけ照れくさい。
「ドレス、ありがとうございました。行きましょうか」
あまりにじーっと見つめられているのが恥ずかしくて、すぐに馬車に乗り込もうとすると……
「お手を」
右手差し出された。
ゆっくりと彼の手を取り、馬車に乗り込む。
今から復讐をしようとしているのに、彼といると幸せな気持ちになる。本当に不思議な人。
馬車は王宮へと走り出し、気を引き締め直す。
次にこの学園に戻る時、私はクライド伯爵家の娘ではなくなっている。もちろん、未練なんかない。
馬車が、王宮に到着した。
「緊張してるのか?」
ディアム様の手が、私の手の上に重なった。気付かなかったけれど、私の手は震えていたようだ。
「馬車の外から、楽しそうな声が聞こえて来ますね。きっとみんな、オリビア様の誕生パーティーを楽しみにしているのですね……」
この国の人達は、今までオリビア様が王女だと思って来た。今更私が真実を明らかにしたところで、受け入れてもらえるのだろかと不安になった。
「偽りの王女に、なんの価値もない。レイチェル、君はこの国の王女だ。堂々としていればいい」
ディアム様の言葉は、私に勇気をくれる。
「それに、いつだって君は俺にとって特別で、かけがえのない存在だ。一生守り抜くと、約束する。それを、忘れないでくれ」
さりげなく? プロポーズされた気もするけれど、不安は一気に吹き飛んでいた。
「ありがとうございます、ディアム様。では、行きましょう!」