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13、ダンスパーティー



ダンスパーティー当日、殿下からいただいたドレスに身を包み、鏡の前に立つ。


「すごくお綺麗です!」


なぜか涙ぐむケリー。ドレス姿を見せるのは、初めてのことだからかもしれない。


「ありがとう、ケリー」


「くれぐれも、お気をつけください。奥様は、恐ろしい方です」


「分かっているわ」


なぜか今日、母が出席すると連絡があった。何かに気付いたのか、それとも実の娘に会ってみたくなったのかは分からないけれど、気を付けるに越したことはない。



「……すごく綺麗だ!」


寮の前まで迎えに来てくれたディアム様は、私のドレス姿を見て頬を赤らめながらそう言った。少し、意外だ。このドレスは殿下からいただいた物で、ディアム様からいただいたドレスではないからだ。


「怒っていないのですか?」


「怒る? ああ、ドレスのことか。俺が送ったドレスは、次の機会に着てくれればいい」


誰が聞いているか分からないからか口には出さないけれど、殿下からの贈り物だと気付いているようだ。意外だとは思ったけれど、ディアム様らしいとも思う。最近一緒にいることが多くなって、ディアム様のことが少しだけ分かって来た。


「そうします。ドレス、すごく素敵でした。ありがとうございます」


「じゃあ、行こうか」


差し出された手を取り、ダンスパーティーが行われている会場へと向かった。


会場には、いつもの制服姿とは違い、煌びやかなドレスに身を包んだ令嬢達が楽しそうに会話をしていた。男子生徒も制服とは違うタキシード姿で、大人っぽく見える。


「レイチェル!」


デイジーが私達に気付き、笑顔で近寄って来た。


「今日は、俺がレイチェルをひとりじめする。悪いが、他の生徒と楽しんでくれ」


冷たい言い方だけれど、母が来ると知っているから、デイジーを巻き込まないようにしてくれているのだと思う。


「分かりましたよー! 悔しいけど、レイチェルがエスコート役にディアム様を選んだのだから、今回は許してあげる。レイチェルが綺麗だって言うくらい、いいでしょう? 本当に、綺麗……」


デイジーは、なぜかディアム様に敵対心を持っている。デイジーのことだから、私のことを心配してくれているのだろう。


「デイジー、ありがとう。デイジーも、すごく素敵で綺麗」


あまりにも綺麗だから、男子生徒の視線がデイジーに集まっている。


「デイジー嬢、踊っていただけませんか?」


すぐにダンスに誘われて、デイジーは受け入れた。二人はダンスフロアで、美しい音楽に合わせて踊り出した。


「デイジーが、楽しそうで良かった」


「レイチェルは、楽しくない? ずっと、不安そうな顔をしている」


顔に出ていたなんて、気付かなかった。


「申し訳ありません……母に会うのだと思うと、楽しい気分ではいられないようです」


強くなったつもりでいたけれど、長年虐げられて来たことで、身体が拒否反応を起こしていたようだ。こんなことでは、せっかくエスコートしてくださっているディアム様に申し訳ない。


「俺達も、踊ろうか」


「でも私……ダンスは……」


ダンスを習ったこともないのに、迷惑をかけるだけだ。そんなことを考えていると、強引に手を引かれて、気付いたらダンスフロアに立っていた。


「大丈夫だ。俺に身を委ねればいい」


戸惑いながらも、ディアム様の手を取る。ゆっくりと身体を揺らしながら、彼のリードに身を任せる。ダンスを踊ったことのない私が、踊れていることに驚く。自然と視線が交わり、まるでこの世界に二人きりのような感覚……

あっという間に一曲が終わり、楽しい時間が終わってしまったことを寂しく思っていると、オリビア様が段上に上がった。


「皆様、少しだけお時間よろしいでしょうか?」


オリビア様の隣りには、エリック様の姿がある。


「ディアム様、これってもしかして……」


「きっとそうだな」


オリビア様が話し出す前に、内容が分かってしまった。このタイミングは、彼女にとっていいのか悪いのか……


「私は、こちらにいらっしゃるエリック・セイン様と、この度婚約することになりました!」


頬を赤らめながら、幸せそうにそう宣言したオリビア様。生徒達は、誰も驚いていない。

そもそも、私とエリック様が婚約していた時から、オリビア様がエリック様を慕っていたのは誰もが分かっていたことだ。今更、婚約すると言ったところで、驚く人はいないだろう……と思っていたけれど、数メートル先に母の姿を見つけた。母は嬉しそうに微笑みながら、オリビア様を見つめていた。


少なくとも、母はオリビア様を愛しているようだ。

全てが明らかになった時、この婚約がどうなるかは分からない。オリビア様が何も知らなくても、両親は罪人だ。それにもし、ガードナーさんが父親だったとしたら、平民ということになる。ガードナーさんは子爵家出身だけれど、三男で今は平民だ。だからこそ、主治医という地位を捨てたことに違和感があるのだ。


少しだけ、オリビア様が不憫に思う。オリビア様は、エリック様を本当に愛しているように見えるけれど、きっとこの婚約はなくなるだろう。



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