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12、新たな疑惑



ダニエル殿下に全てをお話ししてから、一ヶ月が経っていた。あれから殿下とは、ちょくちょく屋上で会っている。なぜかいつもディアム様が一緒だけれど、三人で過ごすのも悪くない。


「今、十六年前の主治医の行方を追っている。主治医の名前は、ドナルド・ガードナー。ガードナーは、お前の出産の後すぐに主治医を辞めている。足の裏にあるホクロのことも、ガードナーは報告しなかったようだ」


他の医者の話によると、ホクロのことは主治医であるガードナーさんが報告したと思っていたそうだ。そして、ホクロが消えたことも知らなかった。殿下は、母がガードナーさんを買収していたのではと考えている。買収出来たとしたら、ケリーが私達を入れ替えていた時だろう。でも、腑に落ちない。そんな短時間で、仮にも王宮で認められている主治医を簡単に買収出来るものだろうか?


「まさか……お母様は、王妃様にお会いする為に王宮に行っていたのではなく、ガードナーさんに会いに行っていたのでは?」


「有り得ない話ではないな。クライド伯爵夫人は、母上の侍女だったのだから、ガードナーとも顔見知りだった」


どうしよう……もっと恐ろしいことが、頭に浮かんでしまった。


「買収では、ないのかもしれません。オリビア様はもしかしたら、ガードナーさんとの子ではないでしょうか……」


この予想は、さすがに当たって欲しくない。オリビア様のことは好きな相手ではないけれど、それが真実だったとしたら、彼女は耐えられるのだろうか……

母はオリビア様を王女にしたくて、自らの子を手放したのだと思っていた。それが、浮気相手の子だったから手放したという理由だったとしたら、辛過ぎると思う。


「初めて、オリビアのことが不憫に思えるな」


ディアム様も、苦笑いを浮かべている。


「ケリーは、お母様の侍女でした。ですので、詳しく聞いてみようと思います」


全て憶測に過ぎないけれど、この憶測が当たっていたらと思うと恐ろしくなる。けれど鍵となるのは、ガードナーさんだ。ガードナーさんを見つけることが出来たら、ケリーを守れる糸口が見える。


「そういえば、来週のダンスパーティーはどうするのだ? 私がエスコートしてもいいが……」


「レイチェルは、俺と行く! いくら兄でも、そこは譲らないからな!」


くすくすと笑っているダニエル殿下を見ると、ディアム様を挑発しているように見える。


「それなら、レイチェルをしっかりと守ってくれ。気付かれていないとは思うが、ガードナーを探していると知られれば、クライド伯爵夫人の耳にも届くかもしれない。パーティーは、生徒達だけでなく貴族達も参加する。これほど大それたことをする女だ……レイチェルの身に危険が及ぶかもしれない。本当は私が守りたいが、私が側にいる方が危険になるかもしれないからな」


この一ヶ月で、とても愛されているのだと実感した。十六年間他人として生きて来たのに、こんなにも大切に思えるのが家族なのだと知った。

王妃様も、私に会いたいと思ってくださっているそうだ。けれど、ガードナーさんが見つかるまではまだ会うことは控えた方がいい。入れ替えの件を、知られていないと思わせなければならないからだ。

ケリーを守ることが目的で話さないと決めたけれど、逆にその判断が真実を突き止める為に役立ったようだ。


「レイチェルは任せろ。殿下は、早くガードナーを見つけてくれ」


「不安だが、仕方がない。レイチェル、ディアムから決して離れるな」


「はい、殿下」


そう呼ぶと、殿下は悲しげに目を伏せた。


「まだ兄とは……呼んでくれないのだな」


「……申し訳ありません」


お兄様と呼んでしまったら、元には戻れない気がした。ふとした拍子に、みんなの前でそう呼んでしまったらと怖くなる。全てが終わるまで私は、レイチェル・クライドだ。母の罪と父の罪、そしてガードナーさんの罪を明らかにしなければ。



ダンスパーティーの前日、寮にドレスが届いた。


「とても素敵なドレスですね!」


空のような真っ青なドレスに、真っ白な靴。あまりに素敵で、ため息が出てしまう。差出人は、ダニエル殿下。カードには、『これくらいはさせて欲しい』と書いてあった。

殿下からの贈り物のドレスを抱きしめ、幸せを噛みしめる。


「殿下は、レイチェル様の好みをよくご存知なのですね」


「不思議なくらい、殿下は何でもご存知なの。ドレスがないことも、ご存知だったのね」


私はドレスを持っていない。ダンスパーティーは正装が基本だけれど、制服での参加も許可されていた。だから私は、制服で参加するつもりだったのだけれど……


「どちらを着ていかれるのですか?」


少し前に、ディアム様からもドレスが届いていた。ディアム様からのドレスも、真っ青なドレスと真っ白な靴。


「ディアム様には申し訳ないけれど、今回はダニエル殿下からいただいたドレスを着ていくわ」


ディアム様とは、ダンスパーティーの間一緒にいられるけれど、殿下とは一緒にいられない。ディアム様はきっと拗ねるだろうけれど、今回は我慢してもらう。



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