表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/42

10、頼もしい味方



「オリビアはいるか?」


ダニエル殿下は、帰国してすぐにオリビア様に会いに来た。妹思いなのかと思ったけれど……


「お兄様!? お帰りなさいませ! 私はここにおります!」


何だか、オリビア様の様子がおかしい。


「お前、クラスメイトに迷惑をかけていたそうだな?」


「誤解です! 私は何もしていません。侍女が私を不憫に思ってしたことなのです!」


いつものような余裕はなく、必死にいいわけをしているように見える。


「侍女のせいにするのか? たとえそうだとしても、責任はお前にある。きちんと謝罪したのだろうな?」


殿下は静かに話をしているのに、威圧感がすごい。オリビア様にも、苦手な人がいたようだ。


「……していません」


侍女が勝手にしたことだと嘘をついたけれど、オリビア様は謝っていないことを素直に認めた。そして、こちらに向かって歩き出し、私の目の前で足を止めた。


「レイチェル様……この度は、侍女がご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした……」


言葉とはうらはらに、涙目になりながら私を睨んでいる。謝ることは、オリビア様にとってかなりの屈辱だったようだ。そこまでして謝られても、気持ちがこもっていないのだから、嬉しくはないのだけれど……


「妹が、本当にすま……」


オリビア様と一緒に謝ろうと私に近付いた瞬間、ダニエル殿下が動きも言葉も止めた。


「お兄様……?」


時間は数秒程だったけれど、私の顔を見て驚いたようだ。自分では分からないけれど、そんなに王妃様に似ているのだろうか。


「あ、ああ……すまない。レイチェル嬢……だったね。妹が、迷惑をかけて申し訳ない」


「いえ、王妃様にも謝っていただきましたし、お気になさらず」


睨み付けてきたオリビア様に、嫌味のひとつでも言おうかと思ったけれど、ダニエル殿下の様子を見たら何も言えなくなっていた。


「殿下……まさか、レイチェルに見惚れたのか?」


ディアム様はじとーっとした目で、ダニエル殿下を見つめる。二人は、昔から知り合いだったようだ。ディアム様のお父上であるモートン公爵は、陛下と親しいご友人だそうだ。


「はあ……ディアム……空気を読んでくれないか?」


呆れたように、ディアム様に向かって大きなため息をつく殿下。


「オリビアには、殿下からよく言い聞かせてくれ」


「分かった」


二人の雰囲気から、仲がいいのだと分かる。

この後、オリビア様はダニエル殿下にお昼休みの間ずっと説教をされていた。王妃様の感じから、漠然と優しい方を想像しといたけれど、意外と厳しい方で驚いた。あのオリビア様が、大人しくしていた理由も分かる。



あれから数日が経ち、オリビア様とエリック様はいつも通りに戻っていた。大人しくしていたのは、幻だったのではと思える程、教室でイチャイチャしている。時々私の反応を気にしてこちらを見るから、それが私への嫌がらせだと思っているようだ。残念ながら、エリック様とオリビア様がイチャイチャしようと、今はなんとも思わないのだけれど。


ダニエル殿下は、私の顔を見て驚いていた。王妃様と殿下は、私のことをどう思ったのだろうか。

王妃様と簡単にお会いすることは出来ないけれど、殿下なら学園でお会いすることが出来る。話をしてみようと、三年の教室がある三階へ向かった。


教室の中を見渡し、ダニエル殿下の姿を探していると、「誰を探しているんだ?」と聞かれて振り返る。そこには、探していた殿下の姿があった。


「ダニエル殿下を、探していました」


そう答えると、殿下は柔らかな笑みを浮かべた。


「ここではなんだし、屋上に行こうか」


言われた通り、屋上に行くことにした。私が訪ねてくると、分かっていたのではと思える。階段を無言で上る殿下の背中を見ながら、殿下は何かに気付いていると感じた。殿下にお会いしたのは二度目なのに、不思議と安心出来る。これが、家族というものなのかもしれない。


「君はいったい、何者なんだ?」


屋上に着くと、殿下は振り返りそう聞いた。


「何者……とは? 殿下は、どうお思いになりますか?」


質問に質問で返してしまった。けれど、正直に話す程殿下を信頼しきれてはいない。


「……君と初めて会った時、あまりにも母にそっくりで驚いてしまった。あの後、君について調べさせてもらった。そして、ひとつの結論に至った。君が私に会いに来たということは、君もそれを知っているということだろう」


やはり、殿下は気づいている。


「殿下のお考え通りだとしたら、それを行った実行犯はどうなりますか?」


私の返事に、殿下は怪訝そうな表情をした。


「その質問の答えは、普通に考えれば最も重い罰が下されるのが妥当だ。だが、それを聞くということは、その実行犯を罪に問いたくはないということだろう……つまり、私が協力をすると言わない限り、認めるつもりはないのだろう?」


「そう……ですね」


ダニエル殿下は、本当にすごい方だ。たった一言返しただけで、私の言いたいことを理解している。殿下が味方になってくれたら、ケリーが助かる道が見えてくる。


殿下の答えは……


「妹の頼みは、聞かなくてはな。ましてや、十六年も離れていたのだから」


頼もしい味方が、出来たようだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ