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第五章


 デイミアンから声をかけられたのは、その日の午後だった。


 ルナはアイリス姫の部屋から出たゴミを、宮殿内の集積所に持っていく所だった。


 エンディミオン宮殿から出る沢山のゴミは、一時宮殿の端に集められる。


 そこで一定の量がたまったら、ゴミを請け負う運搬人が荷馬車で全て持っていく。


 聞いた話しだと、エンディミオン市の外れにあるロドリン地区に、広いゴミ捨て場があるらしく、運搬人たちはそこに持っていくらしい。


 それら一連などに興味もないルナは、相変わらずの作り笑顔で歩いていたら、デイミアンに出くわした。


 前から背筋を伸ばして、進んできていた。 


 ルナは当然のように目も合わせないつもりだった。そう言う取り決めだ。


 だから何事もなく、目が疲れるほどに華美な廊下を、バスケットを持ったまま過ぎようとした。



「話がある」



 だが、赤い衛兵の制服で見回りをしていた風のデイミアンは、ルナとすれ違う時にそう囁いた。


 彼女は返事を返さず、誰にも見咎められないように極自然な所作で、宮殿の中庭へと赴いた。


 エンディミオン宮殿の中庭には緑が多くあり、各国から集められている色とりどりの花々は、見頃を喧伝するように風に揺らいでいた。


「見つけたか?」


 ぼんやりとそれを眺めているふりをするルナに、背後の建物の陰からの、デイミアンが短く問うた。


「まだだ」


「そうか」ちっとデイミアンの舌打ちが上がった。


「俺たちの最終目標、本来の敵は王太子ウィルフレッドだ。そしてウィルフレッドはこの宮殿のどこかにいる」


「分かっている」ルナの眼鏡が日の光で乱反射する。


 その下の眼差しは、既に侍女ルナから暗殺者ルナ、に変わっている。



「エリディスの王子……そもそもウィルフレッドがアルカンド王国への侵攻を決めた。私が必ず仕留めてみせる」



 ルナに蘇るのは悪夢。そしてウィルフレッドに対するあまりにも大きな殺意だ。


 彼女にとってウィルフレッド王子は、必ず殺さないとならない仇なのだ。


「一応試してみたが、他の宮殿はさすがに出入りが難しい。ここまで俺たちが入り込めるのはエンディミオン宮だからだ」


 エンディミオン宮殿は規模が大きすぎる。


 だから出入りするものの個々の素性調査が難しく、外敵を易々と招き入れてしまう。


 ルナとデイミアン、サイモンだ。


「ウィルフレッド王子……何かこの宮殿で特別な部屋とかはないのか? まるで姿が見えない。だがどこかにいる、お前は侍女として上手く立ち回っているはずだ」 


「あくまでアイリス姫の周囲だけだ。他の王族との接点はまだない」


「つまり、これから作る、と言うことだな」


 ルナは返事をしようとしたが、口をつぐむ。


 デイミアンが素早く建物の中に消えた。


 一人の使用人が何も知らず、ルナの前を通り過ぎる。


 微笑みを作ったルナは、バスケットを抱え直し、自分の仕事に戻っていった。



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