表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/64

第三章


「朝早いのは辛いよね」


 マリアの言葉に「そうね」と答えつつ、ルナは正面を向いて歩を進める。 


 エンディミオン宮殿の廊下に、朝日が入ってきていた。


 赤いカーペットの一部に日が当たり、豪華な黄金の彫刻、一面の鏡、ガラスのシャンデリアが煌めいている。


 だがまだ朝は早い。


 アイリス姫を含め、ほとんどの貴族は夢の中にいるだろう。


 だから珍しく、エンディミオン宮殿の廊下にはあまり人がいなかった。


 最も、王族の寝室がある場所だから、厳重な警備が施されているだけかもしれない。


 ルナとマリアは月ごとに代わる当番で、今月はアイリス姫の朝のお勤めの補佐役だった。


「さて」


 マリアの顔に緊張が浮かぶ。


 アイリス姫の寝室の、両開きの扉を前にしたのだ。


 扉は白色で、黄金の蔦が絡まっているような飾りがしてある。


 マリアは本人を目にしているわけでもないのに、恐る恐るノックした。


 返事はない。


「まだ眠っていらっしゃるわ」


 ルナはマリアに頷き、音を立てないように扉を開いた。


 アイリス姫の寝室は、その用途故にか華美ではない。


 大きな天蓋つきのベッドが中心にあり、周囲に小さな丸テーブルと二脚の布張りの椅子、その他は暖炉くらいしか目につかない。


 壁には当然のように誰か高名な画家が描いたのだろう絵画、部屋の角には磨かれた木の台座に、どこか外国からの物だろう壺があるが、ルナには価値が分からないのでどうでも良い。


「さ、やりましょ」


 マリアが囁き、ルナは小さく頷いた。


 マリアは、ベッドサイドテーブルに置いてある水差しを、待って来ていたトレイに乗せ、ルナが窓のカーテンを開けていく。


「うう……ん」


 日差しにアイリスが反応したから、ルナはベッドの天蓋の中を覗いてしまった。


 アイリス姫が無邪気な寝顔でベッドにいた。


 彼女はルナと同年だと言うのに、大きめのウサギらしき縫いぐるみを、しっかりと抱いている。


 それを目にし、ルナは一瞬本当に唇を綻ばせてしまった。



 ウサギの縫いぐるみが妙だった。



 座っているような格好の太った体の茶色い毛並みのウサギで、口からはべろんと舌が垂れ、目は眠たげな半目、頭の上の耳は長く、へろへろだ。


 それを抱きしめて目をつぶる可愛らしいアイリス姫を見ていると、なんだかほっこりしてしまう。


 はっとすぐに心の態勢を整える。



 アイリスは敵だ。



 エリディス王家は全て、抹殺しなければならない。


 ぐっと彼女は拳を握る。


 目にちらつくのは、処刑人により首を落とされた、彼女の最愛の兄の最後だ。


 ──もし、ここで彼女を殺すとしたら……。


 ルナは敢えて思考をそこに集中させた。


 まだ季節的に暖炉は使われていないが、もし火がある時ならば、アイリス姫の毛布とカーペットに密かに油を撒けばいい。


 目を上げると、マリアが銀のトレイの上のガラスの水差しを移動している。


 水差しの水は半分になっている……アイリスが夜に飲んだのだ。


 ──あれに毒を入れるのも手だ。


 ルナは挙動に出さず、腰に隠している短針と、髪の簪として誤魔化している針を思った。


 ──私の本来の武器は針、やはり彼女もそれで始末すべきか。



「う、ううん」 



 アイリス姫がその時寝返りを打ち、眉間に皺を寄せると、そっと瞼を開いた。


「おはようございます、アイリス様」


 ルナは常の笑顔の仮面を被り直し、恭しく一礼する。


「お目覚めの時間です」



感想、ブックマークなどしていただければ励みになります。お願いします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ