第二十七章
ルナはその日散々だった。
集中力が続かず、物を落としたり、何もないところでつまずいて転倒したりと、失態を幾つも重ねた。
その度にアレットベラに笑われ、マリアに心配された。
だがルナの関心はアイリス姫に向けられていた。
やはりブッフバルト夫人との仲は悪く、夫人はさらに彼女を苦しめようとしているのか、アイリス姫のお茶や食事さえも禁止した。
アイリス姫が目に見えて疲弊していく。限界も近いだろう。
その夜、マリアが眠ったのを見計らい、マリアはエンディミオン宮殿の玄関へと向かう。
昨日と同じく、眩しい馬車ランプを備えた、クーペタイプが待っていた。
「約束通り来たぞ」
ゴーチエは片手に酒を手にして、ルナに笑いかける。
「ありがとうこざいますゴーチエさん。では参りましょう」
ルナは微かに心配していたが、ゴミの山はまだ燃やされていなかった。
「よう、ルナ」
彼女がゴミ集積所に到着すると、ダンとブリス、コームとゲルトが気づき、駆け寄って来た。
「昼間探して見たけれど、縫いぐるみはなかったなあ」
「分かりました。探しましょう」
ルナたちはすぐに縫いぐるみ探しを始める。
「オレが昼間ざっと見た感じじゃ、縫いぐるみなんて見えなかった。ゴミの下に埋まっているんだ」
ブリスが手を動かしながら告げた。
彼とコーム、ゲルトは軍人志願らしい。
ダンに何かの拍子で聞いたのだが、彼らは軍人の子どもなのだそうだ。
一〇年前のフリジア国との戦争で、皆父親を失っている。
彼ら母親も懸命に働いているそうだが、こうやってブリスたちも家計の一端を支えてなければ、生活していけない。
だとすれば彼らもルナと同じなのだ。
戦で運命を狂わせられ、裏の仕事に手を染める。
手際よくゴミの山を掘るブリスたちに、ルナはの心は揺れた。
もしエリディス王国の王族が一掃されたら、隣接する国家フリジアもプロシアも黙っていないだろう。
ソロン辺りもこの国に手を伸ばすかも知れない。
ルナは間接的にだが、この少年たちの運命も狂わそうとしている。
だが一方で、ダンを含めた貧しいこの地区の人々を、完全に無視しているのも王族だ。
ルナは自分の行動の是非が分からなくなって来ていた。
──何が一体正しいのだろうか?
少なくとも、『復讐』は間違っている。
ルナは微かに自嘲した。




