表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/64

第十二章


 あれは一体、何年前なのだろうか。


 まだ彼女の周囲に笑いと、優しさがあった時だ。


 ルナは未だ一〇歳に満たなかったが、勉強出来ることが贅沢だと知っていた。


 だから父が彼女の為に家庭教師を雇ったとき、天にも昇る気持ちだった。


 始まる語学の勉強。


 が、それまで接してこなかった本を何冊も重ねられ、彼女は困惑し、学習の方法も分からず立ち止まった。


 彼女に与えられた家庭教師は、平気でむちをしならせる男であり、ルナの腕や臀部、肩にそれは振り下ろされた。


 一気に彼女は勉強が嫌いになる。


 だが、それが我が儘だと自分を戒めたルナは、むちの痛みに密かに涙を流しながら勉強を続けた。


 それは唐突に終わった。


 彼女をしごいていた家庭教師が、図に乗ったのか、ある時兄・アレクシスの前でルナをむちで打擲したのだ。


 アレクシスは猛烈に怒った。


「それは何のつもりだっ!」


 あれ程の怒りを見せたアレクシスの姿を見るのは、初めてだった。


「ですが、これは教育でして」 


 家庭教師はへらへらと抗弁し、その次の瞬間、彼はアレクシスにより頬を殴られた。


「なにを!」と抗議する家庭教師に、アレクシスは言い放つ。


「何もおかしい事はないではないか。これは教育だ。お前が人をむち打つことが間違っていると、私はお前に教育したのだ。お前の理屈が正しいなら虚心に受けろ」


 そして、呆気にとられるルナの肩に手を置く。



「どうして言わなかった? このような輩にうち打たれていると」



「で、でもアレクシス兄様……あれは私が悪いから」


「違う」アレクシスはルナの言葉を一刀に切り捨てる。


「教師の本来の姿は、新たなことを知る楽しさを教えることだ。だがそれに暴力が伴うと、知の喜びは恐怖にしかならない。お前は勉強が楽しいか?」


 ルナは少し考え首を振る。


「ならばこれ以上の論議は必要ない」


 アレクシスはその場で家庭教師を罷免し、ルナの苦痛は去った。


 だが、ルナはその後、父に謝罪し新たな家庭教師を雇ってもらった。


 彼女は幼いながら気づいたのだ。


 兄に甘えてはならない、と。


 兄は彼女を信頼したからこそ、あんなに怒気を発したのだ、と。


 ルナの兄アレクシスは、彼女が自身で勉強する、勉強できる、と固く信じていたのだ。


 だからルナは必死に学びに向かい合った。


 いくつかの語学、音楽、数学。


 アレクシスを裏切りたくなかったし、彼に失望されたくなかった。


 ただすぐに彼女は、彼の言う『知の喜び』を見出せた。


 何かを知ることは、実は楽しいことなのだ。


 知ると知らないとでは、世界の見え方が違うし、話す言葉の彩りも変わる。


 だからルナはその後も、進んで色んな本を読み、知識を深めていった。


 そして、義理の兄であるアレクシスの、やや一方的な信頼に答えることが出来た。 


 今のルナの素地はあの時、形作られた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ