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わたしは……

作者: 雉白書屋

 わたしは生ごみ。だって、おかあさんとおじさんにそう言われたから。

 わたしはハエ。だから、びゅんびゅん飛び回って絶対に捕まらないの。

 わたしはヤモリ。だから、隠れるのが得意で絶対に見つからないの。

 わたしはゴキブリ。だから、逃げ足が速くて絶対にぶたれたりしないの。

 わたしはハチ。だから、わたしをぶったら刺しちゃうんだから。

 わたしは鳥。だから、この家から出て空を自由に飛ぶの。

 わたしはオオカミ。だから、家で独りぼっちでも平気。

 わたしはイルカ。だから……海を自由に泳ぎたいなぁ。

 わたしはいらない子。だから、ぶたれても蹴られても泣いちゃいけないし他の人と口を利いちゃいけないし何か聞かれたら大丈夫って言うしおなかがすいたって言わないの。

 わたしは生ごみ。

 わたしは人じゃない。

 わたしは人じゃない。

 わたしは、わたしは、わたしは…………

 

 わたしは鬼。その筋骨隆々の肉体たるや大岩の如き圧倒的な存在感を放ち、頭部の二本の角は天井に突き刺さるも、なんら我が歩みを阻むことはなし。削り落とされた木片がパラパラと顔に降り注ぐが、瞬き一つせず、骨をも溶かす酸の如きこの黄色い眼に映るは、腰を抜かし震え上がる罪人二名。

 男の首を、この丸太の如き腕を伸ばし、天狗の団扇の如き手で掴み持ち上げれば、その骨を砕くのは米菓を砕くよりも容易いと確信する。地獄の大炎の如く真っ赤な口内に並ぶこの鋭い牙を拝んだ男は、恐怖のあまり、ボタボタと尿と糞を漏らした。

 口から泡を吹き、みるみるうちに顔を赤紫蘇色に変えた男の舌を摘まみ、ちょいと引っ張れば、ささくれを毟るよりも容易く、畳に紅い花が咲いた。抜き取った舌を窓に向けて投げてみたらぺたりと張り付き、こりゃ愉快愉快、巨大なナメクジのよう。

 肩を掴み、この爪が皮膚に食い込むと、男はポンプのように血の塊を口から吐き散らした。首を引っ張れば、ぶりゅんと脊髄まで抜けて、あいや、これまた愉快愉快。床に落とし、踏み砕いた頭蓋に血を注げば粋な盃よ。

 女が思い出したかのように悲鳴を上げ、逃げようとするも、その姿まるで陸にあげられた魚。バタバタと腰が抜け、立つこともできず。女の両の足を掴み持ち上げ、顔を寄せれば、ぷんと漂う股座、ああ臭い臭い。御役御免。股から頭までチーズのように裂いてやると、噴水の如く鮮血が天井まで届いた。

 放り捨て、肉片を蹴散らし玄関に向かい、ドアノブを掴み押してみれば、戸が引き千切れてしもうたわ。こちらも御役御免。

 なんの騒ぎだと部屋から飛び出してきた隣人。みるみるうちに引きつっていく顔。恐ろしくも我から目が離せぬようで、得意の見てみぬ振りはどこへやら。ならば手伝ってやらんと頭を掴み、ちょいと捻れば、お帰りはあちらから。

 ねじりねじり、けたたましいサイレン鳴らして駆け付けた警察。よう来た、よう来た。主らにしては早いほうではないかと頭を撫でてやると、その頭は喜ぶ犬のように飛んでいった。

 震える腕で構えた銃から放たれた弾丸は、我が針金の如き剛毛に阻まれ、ただ音を立てるばかり。

 キンキンカンカンギャーギャーあいやあいや、賑やかな。そうだ、今宵は祭りだ、血祭りだ。ビルより高く太く、伸び上がった我が肉体。見下ろせばこの世は罪人ばかり。地獄のほうから迎えに来たぞ。我は閻魔なり。

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