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解放

 

 解放


 そして・・・。さんざん殴り合って、お互いドロドロになったところで喧嘩は終結した。

 勝負はついていない。

 疲れたからでもない。

 腹が減ったのだ。

 そこに、美味そうな料理の匂いが漂った。

 兵舎の中でくたばっていた連中までも起き上がり、ゾンビのように蠢き出す。ブラソアルムや僕だって殴り合っていられるわけがない。

 「夕食ができましたよ―」

 兵舎に着いた瞬間から、他のことには一切かまわず夕食の支度をしていたメイドが声を上げた。

 そのシアの声で、ぶっ倒れていた男たちは墓穴から抜け出した死体のような格好で食堂に引き寄せられていく。

 その中には当然、ライムジーアとブラソアルムも含まれていた。

 「おい、ブラソアルム。言っておくけど、殴った数はこっちの方が二発多いからな」

 「へっ、威力がよぇぇから、ハンデをくれてやってんだよ」

 「だまれ、街の不良風情が調子に乗るな」

 「けっ、帝国のお荷物皇子が偉そうに」

 「んだと、お山の大将」

 「吠えるな、野良犬」

 ポンポンと悪口を言い合いながら、ブラソアルムとライムジーアは夕食を掻き込んだ。顔には絶えず笑みが浮いている。

 「ふむふむ。仲が良くて結構ですな」

 「ああ、ほのぼのとしてやがるな」

 その様子を少し遠い席から眺めて、ランドリークとシャルディはアルコールの入った飲み物を喉に流し込んだ。

 実にうまそうに。

 「ライムも、男の子なんだね―」

 「そうですね、皇子様だから投げられたとこで終わると思ってたら・・・殴り合うんだもの、すご・・・」

 「いい鍛錬になりました。あれだけ動ければ、たいていの敵ならご自分で対処できるでしょう。その間に敵は私が叩き斬ればいい」

 その言葉にロロホルが顔を歪めた。

 笑おうとしたのかしかめようとしたのか、どちらにせよ失敗した顔だ。

 「ザフィーリはライムジーア様のこととなると甘くなっていかんな」

 しかめようとしたようだ。

 「今に始まったことではないでしょう。ザフィーリはライムジーア様命、の女ですからね。いつでも甘々よ」

 シャハラルは、処置なし、と両手を挙げた。

 「な、何を言う。わ、私は単に事実をだな」

 わたわたと手を振って弁解を試みようとしているらしい上官を見て、二人はニヤニヤと笑みを浮かべている。

 何年もの流浪の日々を、共に生き抜いた仲間ならばこその信頼と友愛が見て取れるような雰囲気が漂った。

 なんにしても。

 面白そうに笑うアマゾネスたち、安心したように笑みを浮かべる護衛であるはずのザフィーリ。一人もくもくと食事をとる騎士。

 誰一人、眉を顰める様子がない。

 カベサコークはじめ、ブラソアルムの部下たちは食事をとりつつも、半ば呆然としていた。彼等の知る貴族階級なら、主人が殴られたりしたらその場で相手を皆殺しにしている。

 まして、相手は継承権の順位は低いがれっきとした皇族なのだ。

 ただでは済まない。

 そう覚悟をしていた。

 目端の利く何人かは、いざとなったらブラソアルムの身代わりとして処刑される覚悟すらしていた。

 それが当の皇子は対等ででもあるかのように、殴り合っていた相手と席を並べて同じものを食い、罵り合っていて。

 その部下たちはそれを平然と眺めている。

 異常だった。

 笑ってしまうほどに。

 ただ、その中にいてただ一人、笑っていないものがいた。

 真剣な顔で何かを考えている者が。

 「もうあきらめていたはずなんだがな・・・。期待しちまうじゃないか、こんな光景見せられたら」

 ふと呟きを漏らしたのは、カベサコークだ。

 その呟きが聞こえたわけでもないだろうが、カベサコークの視線の先でブラソアルムが真面目な顔になってライムジーアに話をしている。


 「ベルグシャンデ騎士団とかいうのに乗っ取られてるこの領地を、本来の領主、ボカムント家の手に返してやるのに協力してくれねぇかな?」


 ちらり、とカベサコークに目を向けて、ブラソアルム。

 ・・・ああ、ボカムント家の嫡男だったのか。

 名前に聞き覚えがあったわけだ。

 報告を受けていたからな。

 悩んでいた謎を解明したライムジーアもまた、真剣な顔で話に耳を傾けた。



 カベサコークの実家であるボカムント家はこの辺り一帯の名士だった。

 ラインベリオ帝国に攻め滅ぼされるのではなく恭順によって支配を受け入れた小国、シレンシュティで近衛隊の長官を代々務めた家柄だ。

 子爵の称号も持ってはいるが貴族ではなく武人。あくまで武をもって知られた家。

 それが、シレンシュティの無血開城を期に没落した。

 王国を守れなかったような者が、武を誇ったところでなにほどのことか。と世間の嘲笑を浴びてボカムント家の名声は地に落ちた。

 これがせめて実働部隊の長であったなら、名は落しても実力を買ってもらえたかもしれない。だが、近衛として王家を守るだけだったボカムントけは実力を評価するような活躍の場を与えられてこなかったのでそれも望めない。

 結果として、ボカムント家は権威を失い。早い段階で主家を見捨ててラインベリオ帝国に走ったベルグシャンデ騎士団が、ボカムント家の領地を牛耳るようになっている。

 正式に帝国から代官に任じられた、というわけではない。

 実戦経験に乏しいという点では五分五分だったこの騎士団は、帝国軍に見向きもされず、『帝国領内の治安維持に努めよ』、というあるんだかないんだかわからない職務を与えられて放置されているのだ。

 なので、この騎士団の長は旧シレンシュティ領に戻り、最も力を失っていたボカムント家の領地を半ば占領して私腹を肥やしている。ボカムント家の現当主は、そのことに文句も言えず、家にこもる日々を送っていた。

 カベサコークは、そんな父親に我慢ならず、15のときに家を出た。ホームレスの少年となり家から持ち出した財産で食いつなぐだけの人生を送り始める、そしていよいよ犯罪にも手を染めようかというとき、ブラソアルムと出会って立ち直った。

 商店から食い物を盗もうとしたところを見つかって殴られたのがきっかけだ。

 一発で気を失い。気が付いたらブラソアルムが友人たちと屯する小屋に寝かされていた。

 目を覚ました自分に、衒いなく差し出された野菜くずのスープ。薄味で、美味いとはお世辞にも言えないその味を、しかしカベサコークは生涯忘れない。

 その日から、彼もまたブラソアルムの取り巻きの一人になった。

 ブラソアルムとつるむようになって、カベサコークは自分の悩みや苦悩が、実は何の価値もないくだらないエゴに過ぎなかったことに気が付き。そういったものはすべて捨てた。

 腕力自慢の者たちが多い中、貴族となる教育を受けていた彼はブラソアルムの頭脳として彼の考えや思いを実現させ、加速させる手立てを考える役目を自分に課してきた。

 その結果が、この駐屯地の隊長職をブラソアルムのものにしたことであり、千人からの兵を集めることだった。

 ボカムント家に領地を取り戻す。

 ブラソアルムはそうカベサコークに言っていた。

 何度も不可能だとカベサコークは言ったにもかかわらず、やって見せるさ、そう請け合ってくれていたのだ。

 無理な話だった。

 どんなに兵を集めたところで、できるものではない。

 なにか、政治的な後ろ盾がなければ。

 でも、もしも、千を超える兵がいて、末席とは言え皇族が口を利いてくれるなら?

 もしかしたら、できるのだろうか。

 不可能だと自分に言い聞かせ続けていたが、実現するのかもしれない。カベサコークは自分の中で血がたぎるのを感じた。

 ・・・いや、無理だ。

 『産まれてきちゃった皇子』なんだぞ、あれは。


 「なぁ、ライムジーア。このバレンムートの街を牛耳ってる奴らを倒して、カベサコークの親父さんに領地を治めさせるのに手を貸してくんねぇか?」


 そりゃ無理だ。諦めろ。

 だろ?

 そっとライムジーアに視線を向けるカベサコーク。

 それなのに、ライムジーアはちらりとカベサコークを見やって口を開いた。「そんなことなら、容易いことです」、と。

 「うそだ! できるわけない!」

 思わず、カベサコークは叫んでいた。




 情報力の差が、戦力の決定的な差になる。

 情報社会に生まれて育ち、そして死んだ僕にとって、それは自明のことだ。

 しかし、この世界ではいまだに腕力の強い奴が生き残る、そんな力の論理が物事の根底を支えている。

 カベサコークが「できるわけない!」と叫んだのも、その考えが常識として染みついていたからだ。

 力で押さえつけられていれば人はその力に従うもの、と。

 この世界では、まだ『フランス革命』は起きていないのだろう。

 押さえつければ押さえつけるほど、不満は根強く民衆の心に根を下ろし広がっていくものだ。そして、押し込められた圧力はやがてエネルギーを放出せずにはいられなくなる。

 押し込められた大陸プレートが弾かれて地震が起きるように。

 市民を追い詰め続けて爆発されたら、その数は軍を軽く凌駕する。ましてそれが、ミサイルなどの近代兵器があるのではなく。剣での支配であるならば、命を捨てて歯向かう民衆を止めるすべはない。

 ボカムント家の領地に限らず、地方都市の守備隊や駐留軍の多くはその領地を統べる領主から給料をもらっている。この給料とは、言うまでもなく街の市民から徴収された税金から支出されるものだ。

 したがって、兵はすべて領内の市民とは家族同然の関係を築いているのが理想だ。

 日本のお巡りさんのように。

 そうでなければ、ちょっとした失態でもあろうものなら、「給料泥棒」と罵声を浴びることになる。

 平和な日本でなら、それで済むが。こんな戦乱の世では、そんなことで収まるわけがないのだ。それなのに、ボカムント家の領地を占領した騎士団。それも幹部たちにとっての市民とは搾取し支配すべき奴隷でしかなかった。

 領地の実権を奪うまでは、『力なきボカムント家に、従っていていいのか』『ボカムント家の支配から逃れて、もっと自由な暮らしを手に入れるのだ』などと宣伝して市民の味方ぶりを強調した。

 だが、ひとたび実権を奪うや、税金を上げ、市民への支配をあからさまにした。

 それでも、占領したばかりのときには遠慮があった。

 多少は市民の声にも耳を傾けていた。

 しかし、支配から数年もたつと、そんなものはなくなった。

 心ある騎士団員は、自ら身を隠すか仲間に殺されるかしてベルグシャンデ騎士団から姿を消し、残った者たちは悪行に磨きをかけていく。

 そうして数年が過ぎた今、街中では無法者と化した騎士団員が若い娘を見つけると平然と酒の相手をさせ、簡単に押し倒すようになっていた。中には、夫や子供の前で組み敷かれたりとか、婚約者の前で犯された。そんな女性もいたという。

 むろん、領内の住民も唯々諾々と支配を受け入れたわけではなかった。

 税は値上げされ、騎士団員が飲食店で飲み食いしても支払いはなし、嫁入り前の娘も、子連れの母親も女はお構いなく慰み者にされた。あまりの暴虐ぶりに、怒った住民たちがボカムント家の邸宅に押しかけた。

 その中には、大きな商店の店主や、街のまとめ役のような長老、広大な土地を有する地主などの有力者もいた。

 そんな人たちが、武器を持っているはずがない。

 ただ陳情に行っただけだった。

 ボカムント家が収めていた間には、こうして領民が領地運営に意見や苦情を言う権利が認められていたので、その権利を行使しただけのことだった。

 それが・・・。

 邸宅への門が開いた時、そこにいたのは完全武装の騎士だった。

 槍を構えて整列している。

 「こ、これは!?」

 驚いて、一歩引いた。

 そのとき、「射よ!」。命令とともに数十の矢が、有力者たちの身体に突き刺さった。

 「なっ、なにを!?」

 「ひぃいいいぃぃぃぃぃ!???」

 「逃げろ、逃げろ! 殺されるぞ!」

 まさかいきなり殺されるとは思っていなかった彼らは混乱して逃げ惑った。

 そんな騒ぎがあったあと、一度だけボカムント家当主フェナシオン・ボカムントが街に出かけたことがある。

 「騎士団をお止めください。私ら、生活が立ちいかなくなります」

 ベルグシャンデ騎士団とは別の護衛を連れていた彼に、街の人が窮状を訴えた。

 必死の訴えだ、悲痛な声だった。

 それに応えたフェナシオンも悲痛な声を口から吐き出した。

 「私にはもう、何の力もない。あの騎士団に支配されることを望んだのはおまえたちだ。役立たずの私を捨て、彼等に尻尾を振ったのはおまえたちだ。いまさら、泣き言をいうものじゃない」

 冷然と突き放された領民は、言葉もなく立ち尽くした。

 ベルグシャンデ騎士団が領内に入ってきたとき、歓呼の声を上げで歓迎した群衆の中に、彼もいたのだ。

 ボカムント家の指揮下で街を守っていた兵たちに、ボカムント家に味方しないよう働きかけて、抵抗する力を奪ったのも彼等自身だった。

 望んだつもりはなかったが、目の前にいるボカムント家当主を見限って、ベルグシャンデ騎士団を受け入れたことは事実だった。

 「あー、そうだ。・・・一つ教えておこう。この街で、ベルグシャンデ騎士団が人を殺したのは、先日の騒ぎが初めてではない。お前たちが街の城門を開けたその日、私の家内が殺されている。招かれざる客の接待中にな・・・どんな死に方だったか、聞きたいかね?」

 「・・・!?」

 領民の男は息を呑んでうなだれた。

 アドミラーゼ・ボカムント。領内の人々に愛された、美しくも慈悲深き夫人。フェナシオンの寵愛ぶりはつとに有名で、領内の婦人たちは夫と喧嘩するたびに引き合いに出したものだ。

 その夫人が死んだ。

 どんな死に方だったかなど、聞きたくはなかった。

 「わかったかな? 私に苦情を言うのは筋違いだ。文句があるなら、ベルグシャンデ騎士団のほうが私よりマシだと判断した、自分たちを呪うがよい」

 このやり取りは、瞬く間に領内全体に伝え広まった。

 領内の市民たちは、自らの不明を顧みて「時間が戻るなら・・・」とつぶやくことが増えていった。ボカムント家は統治したが、支配などしなかったから。

 騎士団の兵に逆らって殺された者がいた。

 殺されそうになって、犯されそうになって、犯された後で、刺し違えた者もいる。

 組織的な抵抗や反抗を企図して同志を集めようとした者もいる。集まったところで十数人。その段階で潰されること数回。すぐに、組織的抵抗の芽は打ち消された。

 領外に助けを求めようとした者もいた。

 だが、周辺の領主たちは自分の領地のことで頭がいっぱいで、よその領民の声に耳を傾けるような余裕など持っていなかった。

 このときまで、バレンムートの領民たちは知らないことだったが、旧シレンシュティ王国の所領は、どこも似たようなものであったのだ。ボカムント家の私兵の働きや領主の巧みな誘導のおかげて、他の領地からすれば天国といえるほど平和ですらあった。

 それらの事情を知った領民たちは今や、全員がボカムント家の統治に戻ることを願っている。

 ライムジーアが「容易いこと」と言い切ったそれが所以だ。

 領内にいる圧倒的多数がボカムント家の治政を求めている。なら、それを邪魔する因子を除けばいい。

 とはいえ。なにも、領民を扇動して反乱を起こさせようというわけではない。

 ただ、見逃してもらう、というだけのこと。




 「ふ、ふっ・・・ふふーん」

 不思議な抑揚の鼻歌混じりに、少女が歩いていく。

 なにか楽しいことでもあったのか、弾むような足取りで。

 周囲の家々から、もの言いたげな視線が向けられているが、気付いているのかいないのか。無防備に歩いていく、と突然歩く方向を変えた。

 友人の家が近いのか、路地の中へと消えるように。

 だが、その先は袋小路だった。

 何軒かの家に囲まれ、どこに行くこともできない空き地があった。家を建てるのは無理でも、ささやかなガーデニングには十分すぎる広さがある。


 「あれ? 行き止まりだね―。困ったぞー」


 ちっとも困っていない口調で少女が呟く。

 「お困りかい? お嬢ちゃん」

 少女の背後に、数人の影が差した。

 鎧を着こんだ騎士らしい装備、なのに顔は盗賊以外のものには見えない風体の男たち。

 酒精と色欲に濁った眼が少女を捕らえ、ペロリ、やけに赤い舌が唇を舐める。

 「・・・っ」

 初めて、少女の顔に笑み以外の色が加わった。

 嫌悪感だ。

 ザンッ!

 ものも言わず、一歩踏み出した少女。

 「なんだぁ?」

 後ろの男たちが、奇妙な行動に頭を傾げ、先頭にいた男は茫然と立っている。その足元に、赤い液体が滴った。

 手首まで血に染めて、ナイフを突き刺している。

 「て、てめっ!?」

 後ろにいた者たちが事態にようやく気付いて、剣を抜こうとするが・・・。

「遅い」

 ボソッと吐き捨てた少女の手が左右に振られて、左右にいた男が、首から血を吐いた。

 「この!」

 剣を抜いて、残りの三人が斬りかかってくる。

 少女はその斬撃を最初の男を盾にして受け止め、転がるように右へ。起き上がりざま、近くにいた男の膝に蹴りを入れた。バランスを崩した隙に、ナイフの刃を股間に滑らせる。

 「ふぎょぁ!?」

 奇妙な悲鳴を上げて、男は仰け反った。

 そのときにはもう、少女は次の獲物にとびかかっていた。

 頭を掴むと、上体を軽くゆする。

 ゴキン!

 鈍い音がして、男はそのまま崩れ落ちた。

 最後の一人は・・・真っ赤に染まったナイフを首から生やして、すでに事切れている。

 「こんな感じかな?」

 首を折った男から飛びのいて、少女は何事もなかったような様子で頭を掻いた。

 「すごっ・・・すごいです。フファルさん!」

 少女はフファルだった。

「さすがというべきでしょうか、相手の練度が低すぎるから当然というべきでしょうか」

 リューリが目を輝かせている横で、ザフィーリが渋めの評価を口にする。

 「うん、当然ってことにしておいて。こんなの倒して褒められると、馬鹿にされてるとしか思えないし」

 「ですよね。・・・ライムジーア様。この程度の相手であれば、問題にもなりません。手分けして仕留めればよろしいかと」

 フファルと話したザフィーリがライムジーアに身体ごと向き直った。

 その背後で、ランドリークが騎士の装備を身包み剥いでいる。

 ほんとに追剥だなこりゃ。

 「ブラソアルムんとこの奴を二、三十人ずつ付けてやりゃ死体の処理も簡単だろうさ」

 けらけらとシャルディが笑う。

 たった今六人殺したという意識はないのか?

 ・・・ないんだろうなぁ。

 僕自身平然としてしまっているし。

 「わかった。ザフィーリ、ロロホル、シャハラル、フファル、リューリで手分けして掃除を始めてくれ。ブラソアルム、手伝いを頼むよ」

 「おお。手伝いっつったって、死体運びだろ。そんなのは簡単だ、任せろ」

 陰気になりがちか任務だが、ブラソアルムは陽気に胸を叩いている。精神に異常があるんじゃないかという気もするが、仕事さえこなしてくれれば文句はない。

 まぁ、笑いながら人を殺せる女の子がいっぱいいる現状で、陽気すぎるから精神異常と切って捨てるわけにはいかないというのもある。

 「よろしくね、プラム」

 フファルがブラソアルムに抱き付いた。

 ・・・惜しい。

 胸がないので、顔は埋まらな・・・と!?

 フファルの目に殺気が宿ったので、慌てて思考を切り替えた。

 ・・・ブラソアルムも、果物になってしまったようだ。

 ふぅ。

 これなら考えても殺されない。

 「ぷ、プラム? お、俺のことか?!」

 目を真丸くしてブラソアルム。

 なにか言おうと口を開くのを見て、僕は肩に手を置いて止めた。

 「・・・諦めろ」

 耳元に顔を近づけて言ってやる。

 それが友情というものだろう。

 「周辺の住民たちは、見ても見ぬふりですな」

 ランドリークが周囲に視線を走らせると、住民たちは何気ない風を装って視線を逸らした。気にはなるが、あえて騒ぎ立てて関わり合いになろうとはしない。

 この五年で身に染み付いた処世術といったところか。

 「手伝ってもらおうとはそもそも考えてない。騒ぎにしないでくれさえすれば、それでいいさ」

 「そうですな」

 不承不承、ランドリークも認めた。

 「では、はじめよう」

 「はいっ!」



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