変わらない姿
思わず視線を向け、相手に気取られない程度に警戒を滲ませる。
盗賊だったものを見れば、それはもはや物言わぬ死体となっていた。
僕は助けてもらった。しかし、それと同時に知っている。
_______どこの世界だって、倫理に反した行動を取るやつはロクでもない。
「だ、いじょうぶです...!」
安心したように、ホッと胸をなでおろす。
視線を相手に向けると、真っ先に目に入り込んできたのはその白銀色の長髪であった。
紅い瞳はガラス玉のようで、まるで鈴の音が鳴るかのような容姿だ。
その姿に一瞬、本当に安心してしまいそうになった。
「なら良かったです。襲われている声がしていたので、もしかしたらと!」
「まぁ、そんな感じです。依頼と聞こえましたが、こちらには討伐依頼が?」
死体に目を向け、命を奪うまでの理由があったのかと暗に調べる。
もし質問も通りならば、この世界にとって命というのは軽くなる...その場合、価値観を改めないといけない。
「はい?」
「うん?」
何をキョトンとした顔をしているのだろう。可愛いからやめてほしい。
それに.......
頭を過ぎる記憶を払う。今は、こっちに集中しなければ。
「あ、そうじゃなくて_______」
「______あなた、だよ?」
その刹那、後頭部に痛みが走った。
...........うそ、でしょ?
ほんの少し、注意が逸れていたからって
こんなに...あっさり?
薄れゆく意識、
暗転する視界。
1秒にも満たない空白で、
1秒もかからず敗北する。
僕はその事実を、認識することしかできなかった。
............................
............................
............................
_______知らない天井だ。
それは青空でもなく、本当に知らない天井だった。
目だけを動かして見てみれば、ベッドに寝かされている.........?
周囲に人もいなかったので、むくりと起き上がる。
自分の体を見る限りでは、何もされていない...のか?
混乱する頭を無理矢理にでも制御し、現状把握をしてみよう......
ガチャリ。
横にあった扉が開く。
入ってきた顔には、見覚えがあった。
いや、ありえない。見覚えがあるはずがない。
「お、お目覚めっすかー?」
元気の良い、それでいて人をからかっているかのような発音で。
こちらの顔を覗き込むようにして寄ってくる。
黒い髪がベッドに零れ、白いシーツに黒を重ねている。
紅い瞳は、僕の蒼い瞳を真っ直ぐに見ていて.........
「10年振りっすねぇ、夕架さん?」
「お前......咲茉、なのか?」
驚きのあまり、声が震える。
その姿は、まるであの頃と変わっていなくて。
黒いセーラー服がよく似合っている。
「覚えててくれたんすか!?いやぁ、やっぱ唯一のお友達は嬉しいことを言ってくれるもんっす!」
ニコニコと、嬉しそうに笑う。
10年前と変わらない、この感じ。
あぁ、間違いない。本人だ。
10年前に自殺した時と、何一つ変わっていない親友だ。