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スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす  作者: Gai


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九百八十三話 信じるしかない

「…………」


二日目の探索を終え、結果……収穫はなし。


アラッドたちはそれらしい視線を感じることはなく、クロもそれらしい匂いはないかと探すも……欠片もなかった。

そんな中、アラッドは夕食を食べ終えた後、一人でバー訪れていた。


青年……そう呼べる男がバーに一人できた。


他にも客がおり、彼らは物珍しそうにアラッドに視線を向けていた。


「やぁ、アラッド」


「スティームか……どうしたんだ」


「それはこっちのセリフだよ。晩御飯を食べ終えた後、一人で散歩してくるって……顔に似合って入るけど、らしくないなと思ってね」


こっそり後を付けていた訳ではないが、なんとなく気になり、適当にアラッドを探し、バーに辿り着いた。


その為、アラッドは既に数杯ほどウィスキーをロックで呑んでいた。


「何か、悩み事でもあるの?」


「どうして、そう思う」


「急に一人で散歩し始めて、バーで呑むなんて悩みがあるって言ってるようなものだよ」


「……ふふ。それもそうか」


言われてみればその通りだと思い、小さく笑みを零すアラッド。


「それはそうと、ガルーレの奴はどうしたんだ?」


「久しぶり燃えてきたんだって」


「なるほど……相手が枯れない事を祈るだけだな」


アマゾネスであるガルーレは、定期的に男とハッスルし、性欲を発散している。

選ばれた野郎としては、顔良しスタイル良しのガルーレと出来るならと、喜んで付いて行く。


そして……途中まで同じくハッスルし続けるが、大抵の場合は最後搾り取られて終わる。


「それで、何を悩んでるの」


「……ガルーレの言葉から、伝えない方が良いんだろうなとは思った。けど、俺はあの人じゃない。だから、本当に伝えない方が良いのかどうか……解らなくてな」


あの人というのはディーナという女性冒険者であり、アラッドが悩んでいる内容は……彼女に虎竜が身籠っている、もしくは子供がいる可能性を伝えるか否かについて。


「そうだね。簡単に、答えは出ないよね」


スティームも……アルバース王国に来て活動を始めてから一年ほど経っており、もしかしたら……自国で活動していた時に出会った知人、友人が冒険の最中に亡くなっているかもしれない。


だが、今のところその知らせは耳に入っておらず、復讐心というものがどういう感情なのか、理解しているとは断言出来ない。


「アラッドは、自分だったら……どう思うの」


「俺だったら、か?」


「うん。まずは、自分だったらどう思うか考えるのも、良い事だと思うよ」


自分がディーナの立場だったら、どう思うか。


焼けるような熱さを持つウィスキーを喉に通し……ゆっくり、じっくり……数十秒ほど考え込む。


「…………言わないでほしい、だろうな」


「それは、やっぱり鈍ってしまうから?」


「あぁ。どれだけ決心を固めても、その情報を知ってしまったが故に、無意識にそれが過ぎるかもしれないだろ」


「……そうなると、それで戦況が大きく崩れてしまうね」


「だろ。それに……その壁を越えないと、進めたとは言えないだろう……多分」


体験したことがないからこそ、多分としか言えない。


しかし、ディーナは復讐を達成する為に……壁をぶち壊す為に、年単位の努力を積み重ねてきた。

両親が虎竜に殺された時には既に冒険者として活動しており、自立心が芽生え始めていた。


そこからの、明確な目標を持ち、その為に活動してきた数年という歳月は……決して軽くない。


これが虎竜との戦いに敗れ、殺されたのであれば……殺されはせずとも、命辛々逃げ出すことが出来たのであれば……また話は別である。

そこでディーナの心が折れなければ、まだ仇を討つ為の道が閉ざされてはいない。


だが……虎竜に子がいると知れば、形としてどうしても自分とその子を重ねてしまう可能性が高い。

ディーナはここ数年、復讐の為に強さを求めたが、それでも人の心を……感情を失ったわけではない。

だからこそ、自分には出来ないと……殺せないと、自分の手で復讐の道を閉ざしてしまってもおかしくない。


「だったら、もうその感覚を信じるしかないんじゃないかな。だって、僕たちには本当の意味で相手の心や感情を読むなんて能力やスキルはないでしょ」


「そうだな……そんな能力やスキルは、寧ろ欲しくないかもな」


話を盗み聞きしていた他の客たちは、そこそこ酔いが回っていたということもあり、何故? と首を傾げる。


まだ一杯目を呑んでいるスティームと比べて、既に三杯目を呑んでいるアラッドだが、まだ酔いは回っておらず、後になって訂正することはない。


(仮にそんな力があれば、逆に生き辛くてしょうがない人生になりそうだな)


また小さく笑みを零しながら、まだウィスキーが残っているグラスを眺める。


「そうだねぇ……僕も、欲しくはないかな。それで、自分の感覚を信じられそう?」


「…………あぁ。それなりにな」


アラッドにとって、ずっと心の奥底に燻ぶり続ける爆弾が残る感覚は……想像するだけでも生き地獄だと思った。


(逆に……ディーナさんも冒険者なら、覚悟は決まっているか)


己の感覚だけではなく、彼女の覚悟まで疑ってどうすると思い、悩みが消えたアラッドはグラスに残っているウィスキーを一気に呑み干した。

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