九百七十二話 頼まれてはいないから
「あぁ~~~、呑んだ呑んだ~~~」
先輩冒険者たちに夕食を奢ってもらい、何人か酒場で転がっている中、三人は酔い潰れていなかった。
「そうだな……少し呑み過ぎたかもな」
アラッドが自ら頼んだのではなく、先輩たちがアラッドたちのグラスや目の前の皿が空になると、勝手に注文していた。
三人はそれをアルハラ、食ハラと思わないタイプなため、遠慮くなご馳走になった。
結果……ガルーレはまだ元気だが、アラッドとスティームは少々食い過ぎ呑み過ぎた感を感じていた。
「そういえば、今日は特に良い獲物はいなかったのか?」
アラッドの経験上、今回の様な大規模での呑みになると、ガルーレは獲物を見定めてベッドの上で食い散らかしていた。
「ん~~~……そうね~~~。ディーナが男だったら、速攻で連れ込んでたんだけどね~」
「……ディーナさんの場合、酔い潰れでもしない限り、ガルーレだと力づくで連れ込むのは難しいんじゃないかな」
「あぁ~~、それはそうかもね~~~」
同じテーブルで夕食を食べていたディーナ。
彼女もアラッドたち同じく、杯が空になる度にエールを、更が空になる度に料理を奢ってもらっていたが、普通に立ち上がり冒険者ギルドを出て泊っている宿へ帰って行った。
全く酔っていなかった訳ではないが、それでも千鳥足状態になっていないところから察するに、大酒豪であるのが窺える。
「そういえばさ、アラッド。ディーナに対して死なないようにって頼んだじゃん」
「そうだな」
「あれって、やっぱり起こるかもしれないあれに関して?」
「あぁ。今日戦って解ったが、ディーナさんは紛れもない強者、猛者だ……本当に起こってしまった場合、貴重な戦力になるだろう」
貴族として思考に近い考えである。
だが、それに関しては冒険者ギルドの上層部たちも同じ考えだった。
「……でも、ディーナさんがこれからの戦いでって場合もあるよね」
「そうだな。それは否定出来ない」
「…………アラッドが試合に勝ったけど、別にディーナはディーナで行動して良いなら、手伝ってあげても良かったんじゃないの?」
夕食の最中、ガルーレは何故アラッドがそれを提案しなかったのか、ずっと不思議だった。
「……ディーナさんが、元々人の力を借りてでもと思ってるなら、臨時でも信用出来る者たちとパーティーを組んでいたと思う」
「ん~~~……まぁ、それもそうか」
「本当に人によるとは思う。自分の力だけでは無理だと思って協力を求める。自分の復讐は自分の物だと、他者の直接的な協力を求めない……まだ体験したことはないから、どちらが正しいかなんて言えない」
アラッドの言葉に、二人は沈黙という同意で返す。
「臨時パーティーを組んでいなくても、ディーナさんが直接俺たちに手助けをしてほしいと頼んできたなら、また話は別だけど、今は特に何も頼んでないんだ……それに、即席パーティーを組んだとしても、ディーナさんが百パーセントの力を振るえるとは限らないからな」
「それはそうだね~~…………うん、確かにディーナレベルの強さを持ってる人だと、手助けが邪魔になる場合もあるもんね~~」
当時口には出さなかったものの、そういった経験があったガルーレ。
それを思い出し、ちょっと酔っているならと思い、深呼吸をして落ち着こうとする。
「そういう事だ」
「……基本的に優しそうな人だから、多分一人でなんとかしそうだね」
「しようとするだろうな」
「アラッドから見て、勝率はどれぐらいあると思う」
まだ情報が少ないのは解っているが、つい聞きたくなってしまったスティーム。
「…………総合的な実力は、この前戦った闇竜と同等か……少し上ってところだろうな」
長所が違うが、総合的な戦闘力は闇竜デネブと同等。
もうそれだけで大半の冒険者がソロでは敵わない超強敵。
だが、闇竜と虎竜の長所が違う……そこが、ディーナにとっては寧ろ良い違い。
「ただ、ディーナさんみたいなタイプは、あの闇竜みたいなタイプは戦り辛い筈だ」
「だろうね~~。アラッドだって、一杯食わされそうになったもんね」
「ふふ、そうだな。それで、それに対しておそらくだが、虎竜は接近戦をメインに戦うドラゴンの筈だ」
「……遠距離攻撃があるとしたら、ブレスと爪撃波と……毛を針にして飛ばしてくる。そんなところかな」
「そういう攻撃も持っていそうだな。ただ、本命は接近戦攻撃だろう。同じく接近戦攻撃……何かしらの武器を使うディーナさんにとって、決して相性は悪くない」
どんな武器を使うのかは聞いていないものの、アラッドは長物系の武器を使うと予想していた。
(確か、ダンジョン探索しながら修行してたんだよな。それなら、虎竜に通じるであろう武器を持ってるだろう)
やや直線的なタイプに見える。
だが、ディーナはアラッドの考える通り、ザ・猪突猛進的な冒険者ではない。
「それに、ディーナさんはまだ……発展途上に思える」
「あっ、それ超解る。ていうかさ、アラッドと戦ってるの見て、本当に鬼人族? って思ったんだよね」
本当にディーナという存在が気に入ったのか、三人は大浴場で汗を流し……宿に戻るまで延々とその話を繰り返した。




