九百三十九話 二つの財布から
「どうやら、間に合ったようだな」
そろそろ査定も終わりそうな頃、解体倉庫に一人の男性が訪れた。
(……元冒険者って感じの人だな)
アラッドはその人物が偉いか否かを考えるのではなく、まず身に纏う空気がやや自分たち冒険者に似ていると感じた。
「ギルドマスター、どうされましたか?」
「どうもこうも、報告を受けてな。脅威を始末してくれた英雄たちに直接感謝を伝えなければならないというものだろう」
ガッチリ体型の男性は、ゴルドスの冒険者ギルドのギルドマスター。
彼が言う事はもっともであるが……なにより、立場的にも彼は直接礼を伝えなければならない。
現在、アラッドは冒険者ギルドという組織に属する一冒険者ではあるが、今でも侯爵家の令息という立場は変わらない。
それはフローレンスも同じであり、現在は優秀な一騎士として活動しているが、公爵家の令嬢という事実は消えていない。
といった理由もあり、彼はわざわざ直接礼を伝えに来た。
「アラッド君、フローレンスさん。そして共に戦った方々……闇竜とその配下を討伐して頂き、本当に感謝している」
「……感謝の言葉、確かに受け取りました」
「私も同じく」
アラッドは侯爵家の令息云々は置いておき、自分よりも立場が上に当たるで人物に長い間頭を下げられるのは気分が悪く、とりあえず感謝の言葉は受け取ったから早く頭を上げてくれと思っていた。
「本当に、感謝しているよ」
頭を上げてからも、再度感謝の言葉を伝えるギルドマスター。
彼は……特にアラッドたちに感謝していた。
「アラッド君、スティーム君、ガルーレ君。よくこの時期に、フローレンスさんたちと同じタイミングでゴルドスに来てくれた」
情報源の元はアラッドたちではあるが、フローレンスさんたちが闇竜を討伐する為に派遣されることは、相性的にもほぼ確定であった。
だが、アラッドに関してはまだ雪竜グレイスに教えてもらった、ヤバい竜リストには他のドラゴンもいるため、今回ゴルドスを訪れたのは本当に偶々運が良かったという話。
アラッドはそんな感謝されても困るというのが正直なところではあるが、ギルドマスターからすれば本当に感謝しかない。
「ギルドマスターの言う通りですね。私たちにとっても、アラッドたちがこの時期に来てくれて本当に良かったです」
ギルドマスターが言えない事を、サラッと言ってくれたフローレンス。
闇竜やその他の黒色モンスターの数や強さを知った上で、ギルドマスターはフローレンスたちだけでは討伐が不可能……最悪、部下たちを逃がす為に一人で闇竜たちを相手にし……そのまま戦死という可能性もあった。
騎士が戦場で死ぬ。
それは何処でも、どの戦場で起こりうる可能性がある。
だが、公爵家の令嬢であり、騎士としてもその将来を期待されている人物が死んだとなれば……色々と面倒なことになっていた。
「偶々ですよ」
「だとしても、本当に助かった。これは、その気持ちだ。特別報酬として、是非受け取って欲しい」
「特別報酬、ですか……俺たちとしては嬉しいですけど、ギルドの財布……もしくはギルドマスターの財布的に大丈夫なんですか?」
「あぁ、勿論だ。それに、英雄たちがそんな事を気にするものではないよ。では」
クールに執務室へ戻って行ったギルドマスターだが、特別報酬にはギルドの財布からと、ギルドマスターのこういった時の為に貯めていた財布の両方から取り出していたため、実際のところ内心では汗をかいていた。
「…………本当に大丈夫なのか気になるけど、まぁ、もう貰ってしまったからな」
袋の中身を確認すると、中には多数の金貨だけではなく、白金貨まで入っていた。
「わぉ!! あのギルドマスター、随分太っ腹ね」
「場合によっては、最寄りの街であるゴルドスが最初の犠牲になっていたかもしれないからね。その危険性を考えると、妥当なんじゃないかな」
白金貨はたった数枚ではなく、十枚と少し入っていた。
Bランクモンスターを複数討伐したとはいえ、特別報酬としては中々破格の額である。
「だな……それじゃあ、何を売って何を残すか決めないとな」
アラッドたちがギルドマスターと話している間に、素材の査定は全て終了。
だが、アラッドたちは全ての素材を売却するとは決めていない。
「フローレンス、お前たちもお前たちで決めろよ。別に全部売りたかったらそれでも良いけどな」
「私は少し考えます。ソルたちも、自分たちで討伐したモンスターの素材に関してどうするか、各々の判断に任せます」
騎士たちも己の得物や防具を店で買うこともあるが、鍛冶師に直接オーダーメイドすることもある。
ソルたちがウィリアスを除いて六人で討伐したのに対し、相手をしたモンスターはオークジェネラル、ブラックウルフ、コボルトナイトにガーゴイル、スケルトンメイジやヒポグリフ、ホワイトスネークとオーガウォーリアーにリザードと種類が豊富。
闇の力を授かり、それなりに体に馴染んでいたこともあり、同じ種のモンスターよりも素材の価値が高い。
スティームたちも含め、その辺りをじっくり考え、何を売って何を残すか決めていった。




