九百三十七話 情報提供
「では、こちらにどうぞ」
アラッドたちは伝えられた通り、解体倉庫に案内され、まだ解体していない黒色モンスターたちの死体を全て取り出した。
「っ…………こ、これほどの、モンスターが……それに、これが……闇竜」
解体倉庫に案内した受付嬢だけではなく、案内した屈強な解体士たちも驚きを隠せないでいた。
「こいつの正式名称は、闇竜デネブでした」
「……アラッドさん、フローレンス様。皆様方、解体が終わるまで色々と話をお聞きしても良いでしょうか」
これまで確認されていた闇竜とは異なる力を有していた存在。
冒険者ギルドとしては、少しでも情報を手に入れたかった。
「えぇ、勿論です」
アラッドたちとしても、解体が終わるまでの時間が暇ということもあり、全員受付嬢からの質問に答えていった。
「最後の最後に暗黒剣技を会得された瞬間は、非常にヒヤッとしましたね」
「あの三位一体……三種一体? のブレスはマジでヤバかったね~~。頼れる得物がなかったら、本気で危なかったって感じ」
「剣技、戦闘技術など、あらゆる技術面で多くのモンスターを上回っていると感じました」
「どいつもこいつも他の個体と比べて身体能力が高いのに、うちらが思ってた以上に頭を使う個体が多かったってイメージが強いかな」
ヴァジュラとファルがいないため、黒色ハードメタルゴーレムと黒色ハーピィの話は聞けないが、スティームたちが戦った黒色モンスターたちの話が聞けるだけでも、ギルドとしては大助かりである。
「闇竜デネブは、魔力量に関してはAランク並みだった」
「Aランク並み、ですか」
「えぇ。過去にAランクモンスターと戦った事があるので、間違いありません」
アラッドがAランクモンスター、Aランクモンスター並みの実力を有するモンスターと戦い、勝利したという記録を受付嬢も知っているため、驚きはするものの直ぐに新しい記録として書き記す。
「魔力操作の技術に関しても……そこら辺の魔法使いたちと比べて遥かに上でした」
どの程度上だったのかを、アラッドをザっと説明。
その中で聞いた内容の一部に、受付嬢は血の気が引きかけた。
「っ、待ってください。という事は……アラッドさんが、一度操られかけた、ということですか」
「そういった類のものだったのかは解りません。ただ、狂化のスキルを有する自分には非情に有効的な幻覚系? の闇の力を隠し、ダークランスとして放ちました」
「…………その際の、感覚を教えてもらっても良いでしょうか」
「勿論です。とはいえ、感覚的には特に特別なものはなく……あれは、初めて狂化を使用した時の状況と近かったです」
思考が消え、感情が赤黒く塗りつぶされ、暴れ回る……ただそれだけしか考えられなくなる。
「違うところがあるとすれば、自分が初めて狂化を発動した時は従魔であるクロを殺されかけた時なので、明確に狂気を向ける相手がいました。ただ、今回は手当たり次第に全てを潰し、暴れ回る……そんな狂気に支配されそうでした」
「な、なるほど」
Bランクモンスターを討伐することは珍しくなく、ソロでギリギリとはいえ、Aランクモンスターを討伐するだけの戦闘力を持つ冒険者が凶器に支配されて手当たり次第に周囲の生物に襲い掛かるなど……恐ろしいことこの上ない。
だが、実際にところそうはならなかった。
受付嬢はスティームたちやフローレンスたちの実力を疑っているわけではないが、アラッドが本当に手あたり次第に攻撃し、暴れ回れば確実に一人は殺られている。
しかし……誰一人として欠けた様子はなく、同士討ちから発生する険悪な空気も感じられない。
故に、アラッドがその内なる狂気を無理矢理刺激され、支配されそうになった状態からどの様に脱したのか非常に気になる。
「では、いったいどのような手段を取って、その状態から抜け出すことに正解したのですか」
「俺は自分が授かったスキルを使用しました。簡単に言うと、自傷行為をして狂気に飲まれないように対策した形ですね」
「授かったスキルを、ですか…………」
これまでと違い、あまり詳しくは語ってくれない。
その状況に対し、受付嬢はアラッドに対して特に不信感を募らせることはなかった。
誰だって知られたくない手札の一つや二つ存在する。
それが冒険者ギルドであっても、切り札を隠す者は珍しくない。
だが、今回担当した受付嬢は、冒険者たちの情報に関してそれなりに通であった。
「…………………………っ!」
受付嬢はフローレンスの顔を見て、王都で開かれた学生のトーナメントの決勝戦で、フローレンスが不可解な動きをしたという話を思い出した。
(相手を操れるスキル? いや、アラッドさんの話から察するにも、自分すらも操ることが出来るスキル……といった認識で良いのでしょうか?)
何はともあれ、一定以上のダメージを与えれば正気に戻るという情報を得られた。
「大丈夫ですか?」
「え、えぇ、大丈夫です。それで、話しの流れからして、闇竜は過程を考えた上で、アラッドさんをあと一歩で暴走させるところまで追い詰めた、ということでよろしいでしょうか」
「はい。そういった認識で間違いありませんね」
不覚。
アラッドは闇竜戦での過ちに関して、ハッキリとそう認識していた。




