九百三十五話 最後まで気は抜けない
「…………っ!!!! はぁ、はぁ」
狂化を解除すると、一気に疲れが襲いかかり、地面に膝を付くアラッド。
(少し……時間を、使い過ぎたか)
決して、アラッドは遊んでいた訳ではない。
遊べるような相手ではなく、四肢を切断して動けない様にしないと安心できない相手だからこそ、狂化を使用した状態でありながらも、冷静に戦いを進めることが出来た。
「アラッド、大丈夫かい」
「スティーム……あぁ、大丈夫だ。ちゃんと、手を借りず倒したぞ」
「ふふ、そうだね」
疲れを無視し、アラッドはスティームの手を借りず立ち上がった。
「それにしても、本当に……少しだけ焦ったよ」
デネブがアラッドの狂心を利用し、暴走させようとした瞬間、スティームは本気で身構えた。
そして思った……本気で、あのアラッドと戦わないといけないかもしれないと。
勿論、クロもいる。
闇竜という戦う選択肢もあるが、スティームとしてはクロだけに任せるわけにはいかないという思いもあった。
「悪いな。あれは、俺が油断してた。上手く、攻撃魔法は避けれないなら切断すれば良いって思考に誘導されてた」
「いやぁ~~~、ぶっちゃけあれは私も焦ったよ~~」
「でもさ、なんかそれがあったから? 今日のアラッドの狂化、また一段と凄かったよね」
「……かもしれないな」
アラッドは本日狂化を使用した自分の姿を見ていない。
故に、これまでの経験から、額の片側から角が生えているという自覚はあった。
ただ、片眼が金色になっていた事には気付かなかったものの……以前と比べて、またなにか変化が起こったという自覚はあった。
「でもさ、ぶっちゃけ今日のアラッドなら、もうちょい早く倒せたんじゃないの? 闇竜がマジックアイテムを身に付けてたせいで、身体能力の一部がAランクに踏み込んでたかもしれないけどさ」
Bランクドラゴンが集めていたマジックアイテムなだけあり、闇竜は最終的に魔力量や魔力操作技術以外にも、身体能力の一部もAランクの域に踏み込んでいた。
「あいつは単純に強いというよりも、何をするか解らない恐ろしさがあった。とはいえ、マジックアイテムを発動した状態の強さに闇竜が慣れていれば、正面からの戦いも苛烈さが増したとは思うがな」
ここ最近は自分で戦うことが少なくなっていた。
加えて、マジックアイテムを装備した状態で全力で戦うのは数回ほどしかない。
(俺が狂化の扱いに慣れていたから勝てた……そんな部分も、あるだろうな)
人間とモンスターなのだから、いくら思考力が高い闇竜であっても、そこまで思い付いて実行することはなかった。
(……いや、その姿がバレて多くの連中に狙われれば、それはそれであいつにとっては……本末転倒? になってしまうのか)
とにかく、自分はあの強敵に勝ったのだと思い、小さな笑みを浮かべながら闇竜の死体を亜空間にしまった。
「お疲れ様です、アラッド」
「おぅ……悪いな、美味しいところを持っていっちまってよ」
「ふふ。今更、あなたから奪おうとは思いませんでしたよ」
と言いながらも、アラッドから純粋で……恐ろしさだけを感じる狂気が溢れ出した際は、自分が闇竜と戦うべきかと考えていた。
「そうかよ。でも、ぶっちゃけ今更だが良かったのか? お前らはお前らで上から指令? を受けてたんだろ」
「そうですね。ですがアラッド、あなたはを自分の事を忘れてしまったのですか?」
「自分の事? …………あぁ~~、そういう事か」
現在冒険者として活動しているアラッドではあるが、騎士の爵位は持っている。
「向かった先で、騎士の爵位を持つアラッドとその仲間たちと共に戦い、討伐した。なにも問題らしい問題はありませんわ。それに……あれだけの戦力を考慮すれば、私たちだけでは色々と足りませんでしたから」
「お前なら、ウィリアスと精霊同化して、大技をぶっ放すっていうやり方もあったと思うが……それはそれで、洞窟が崩れる可能性があるか」
「そういう事です」
あれこれ話しながら、アラッドたちは地上へ向かう……のではなく、洞窟の奥へと向かった。
「なぁ、なんで地上に戻らず奥に向かうんだ?」
「移動するタイプじゃなく、拠点を持つタイプのドラゴンなら、討伐した後はお宝回収だろ」
ドラゴンはお宝好き、コレクター欲があるというのは、決して大袈裟な表現ではない。
「ほんの少ししか見てなかったけど、スティームが戦った黒色リザードマンや、フローレンスが戦った黒色グレータースケルトンが使ってた武器は、そこら辺に転がってた物を拾ったって感じの武器じゃなかっただろ」
「だったね」
「そうですね。質の高い武器、というだけではなく、きっちり砥石で研いで整備していたであろう美しさも感じました」
「あの闇竜のことだ。武器は研がなければ、そういう効果がない得物でなければ、ガラクタになるって知ってたんだろうな…………っと、やっぱりあったな」
クロに先導してもらい、そういった物の匂いがする場所を発見。
宝物庫と化している場所には、多量の武器やマジックアイテム……硬貨などが箱に敷き詰められていた。
「ッ、アラッドさん」
「……みたいだな。ったく、最後まで一杯食わせようとしてくれる奴だ」
ルーナとアラッドは周辺に設置されている魔法陣型トラップの存在に気付き、誰かが引っ掛かる前に解除を行った。




