九百三十四話 強くなっている
「それにしても、スティームさんたちは……随分と冷静ですね」
ポロっと、ソルの相方であるルーナがそんな言葉を零した。
「あの闇竜、魔力量はAランクモンスター並みかと思われます。それに……魔力操作の技術も、完全に私より上です」
ルーナは自身の実力、技術力を過剰評価している訳ではない。
ただ、魔法に長けたモンスター以外などには、魔力量で負けることはあっても、魔力操作技術で負けることはないと思っていた。
だが、闇竜デネブの魔力操作技術は、本人が口にした通り……魔法をメインで戦う彼女よりも上。
「そうだね。正直なところ、予想よりもずっと強い。闇の力を与え、増やし続けた総合的な戦力を考えれば、これまで出会ってきたモンスターの中でもトップクラスの強さだ」
アラッドと共に行動するようになってから、割とBランクモンスターという普通ならあまり遭遇する事のない強敵と遭遇するようになっていた。
そんな他のBランクモンスター……同じ竜種である風竜ストール、ルストと比べても強い。
「でも、アラッドは君たちが尊敬するフローレンスさんに勝ったんだよ」
「っ、それは……」
「確かに、その時はクロも一緒に戦ってたらしいけど、その後冒険者になってからAランクのドラゴンゾンビをソロでなんとか討伐。それ以降もAランククラスの実力を持つ雷獣と戦ったり、木竜と出会ったり……まだ冒険者歴は僕やガルーレよりは短いけど、それでも濃密な時間を過ごしてることに変わりはない」
スティームの語る通り、アラッドが冒険者になってからの人生……冒険者になる前からも色々とおかしかったが、なってからもちゃんとおかしかった。
冒険者になってから一か月以内にBランククラスの実力を持つオークシャーマンを討伐し、ユニコーンと遭遇したりスティームが語る通りAランクのドラゴンゾンビを討伐したりなど……二年以内に体験した経験があまりにも波乱万丈過ぎる。
「勿論、油断は大敵であるのは解ってる。それでも……アラッドは、間違いなく初めてフローレンスとっ出会い、戦った時から強くなっている。だから、僕は今回の戦いでアラッドが負けるとは一切思ってないよ……ほら」
スティームが指を指す方向では、羅刹によってデネブの片腕を斬り裂き、迅罰で再生に利用されないよう、弾き飛ばすアラッドの姿があった。
「まだだッ!!!!!!!!!」
片腕の切断。
人間であれ、モンスターであれ……四肢の一部が欠損すれば、大ダメージになるのは間違いない。
だが、闇竜デネブには傷を闇で癒す回復方法がある。
アラッドはデネブが身に纏っているマジックアイテムの性能を全て把握している訳ではないが、その力を更に向上させる力があると予想しており、その予想は見事にドンピシャだった。
(ぐっ!!! 少しでも、時間をッ!!!!!!)
片腕を切断されようとも、なんとかするだけの力はある。
ただ、一瞬で切断された腕を再生するほどの再生力はなく、切断された腕が弾き飛ばされてしまっては、更に時間が必要になる。
「ガアアアアアアッ!!!!」
デネブは被弾ダメージ覚悟で拡散型の遠距離ブレスと、複数のダークジャベリンを発動。
「そうくると思ったよッ!!!!」
スピード向上に関する性能が優れた渦雷は既に使用していない。
だが、狂化を発動し……以前も増して体に変化が訪れているアラッドのスピードは、完全にデネブを上回っていた。
本人もそれを理解しているからこそ、アラッドが自身の背後に回ることを予想し、翼に闇を纏って迎撃。
(ッ!!!!! それ、ならッ!!!!!)
アラッドは一瞬だけ迅罰を手放し、両手で羅刹を握り……全力で風斬波を放った。
結果、闇竜がギリギリで反応したことで、脚を完全に切断するには至らなかったが、それでも半分程切断することに成功。
「逃がす、かッ!!!!!!!」
再び左手に迅罰を持ち、切傷が完全に再生する前に接近し、思いっきりしばいた。
「ッ!!!!!!??????」
まず、打撃による鈍痛。
そこから直そうとしていた切傷からブチブチブチッ!!!! と、文字通り無理矢理脚を引き剥がされる激痛。
(後、二つ!!!!!!!)
何を持っているか解らない。
そのため、アラッドは狂化を使用した状態ではあるものの、一気に首か脳、心臓を狙うのではなく……まずは四肢を一つずつ潰し、芋虫状態にしようと冷静に実行し続けた。
「は、は……ははは。なんとも、まぁ……無様な、姿になっちゃったよ」
「…………」
途中から、デネブは無理に再生しようとするのではなく、闇を利用して止血し、失血死を抑えた状態で戦い始めた。
それでも尚、本気のアラッドを仕留めるには至らず、アラッドの予定通り……デネブは芋虫状態となった。
「もう、何もする気力も、体力もないよ」
「魔力はまだ残っているだろ」
「……もしかして、狂化をまだ解いてないのは、それが理由? 言った通り、確かにまだ魔力は残ってるけど、ここからどうこう出来る気力も体力もないよ」
今回の戦いでは、意外にもそこまでバーサーカーといった状態ではない様子で戦い続けていたアラッド。
それでも、ノーリスクで使えるようになったわけでもはなく、相変わらず時間制限のタイムリミットは存在する。
「それを決めるのは、俺だ…………お前が恐ろしい存在なのは、今も変わらない」
「ふっ、ふっふっふ。君に、そう言われるのは……悪くないかな」
「…………お前は、何がしたかった」
これから止めを刺す。
それは決定事項ではあるが、アラッドは最後にほんの少しだけ、気になっていたことを尋ねた。
「遊びたかった、かな。君たち、人間だって。生きる為に仕事? をする以外にも、何か楽しみが、あるでしょ。それと、同じだよ」
「……そうか」
納得のいく答えだったのか、それとも満足のいく答えだったのか……それを闇竜デネブに伝えることなく、アラッドは羅刹で首を刎ね……止めを刺した。




