九百三十話 竜は笑う
「よっ!!!!!!」
(何の、真似だッ!!!!!!!!!)
感覚的には、戦いも中盤に差し掛かる頃……闇竜デネブは、いきなり多数のダークランスを放った。
十や十数本といったレベルではなく、約五十本近いダークランスを同時に放った。
一部だけを切り裂けば良い……とはいかなかった。
「チッ!!!!!!!」
まず、自分が当たらない様に、己に当たるであろう闇槍を掻き消し、今度は出来る限り天井に当たらない様に……最低でも数十本の闇槍を掻き消さなければならない。
多数のダークランスが天井に突き刺されば……最悪の場合、洞窟内が崩壊してしまう。
アラッドは瞬時にそれを察し、宙で体を回転させながら多数の雷斬波を放ち続けた。
(ふふ……斬ったね、斬っちゃったね)
放ったダークランスの大半を掻き消された。
にもかかわらず……闇竜は笑っていた。
「っ!!!???」
次の瞬間、掻き消した筈のダークランスから、闇……とは別の何かを感じさせる靄が現れた。
アラッドの近くに二つ、少し離れた場所に三つ、かなり離れた場所に五つ。
計十個の靄が……アラッドに纏わり始めた。
「ぐっ!!!!」
アラッドはなんと地面に着地するも、直ぐに怒号を上げてデネブに斬りかかることが出来なかった。
「君が斬れる魔法は斬る……そういう判断をしてくれるタイプで良かったよ」
「っ!!!!! ガァアアアアア、アアアアアアアア゛ア゛ア゛アアアアーーーーーーーーッ!!!!!!!」
「「「「「「っ!!!!!?????」」」」」」
突然、洞窟内に響き渡る怒号。
その声に……丁度、戦闘を終えた面々の意識が引き寄せられた。
(あれ、は……アラッド? でも、あんな声……聞いたことがない)
共に闇竜デネブ、闇の力を授かったモンスターを討伐しようと行動したメンバーの中で、一番付き合いが長いのがクロ、その次にスティーム。
そんな二人が……全く聞いたことがない怒号を上げるアラッド。
(ふっふっふ、やっぱり持ってたみたいだね、狂化のスキルを)
付き合いが長いクロですら知らない怒号を上げるアラッドを前に、デネブは自分の作戦通りに事が運び、ご満悦な表情を浮かべていた。
デネブは鑑定のスキルを有していなかった。
だが……アラッドを見た時、過去に出会ったモンスターと人間の事を思い出した。
片方はいかにも狂化を有していそうで、もう片方は全く狂化といったスキルを有している様には見えなかった。
それでも、共通しているものがあった。
それは、両者が有する言葉では言い表せない雰囲気。
最初に出会ったのがいかにも狂化を有していそうな相手だったからこそ、その後に出会った見た目からして狂化を有している様には思えない相手との共通する雰囲気を感じ取ることが出来た。
だからこそ……アラッドという人間は狂化のスキルを有しており、しっかりと……内なる狂気を有していると解った。
故に、デネブは当初の倒す、殺すという判断から、僅かな時間ではあるが、操り人間にしようと決めた。
その為にはまず、アラッドが自身に向けられた攻撃魔法に対し、無理矢理にでも避けるのか、それとも攻撃して粉砕するのか、どちらの手段を取るのか見極めなければならなかった。
(狂気に堕ちれば、多くの人間を殺すだろうね。っていうか、皆負けちゃったのか…………まぁ、アラッド以外にも僕の命に刃を届かせそうな人間が何人かいたし、仕方ないといえば仕方ないか)
戦場を見渡せば、自分が闇の力を与えたモンスターたちが死体になっていた。
もしくは、血が零れているものの、既に死体はしまわれていた。
闇竜デネブには……悲しみはなかった。
ただ、惜しいという感情だけがあった。
闇の力を与えたモンスターの中でも、黒色リザードマンやオルトロス亜種などはそれなりに気に入っていた。
黒色リザードマンは元がCランクにも拘らず、確実にBランクモンスターと同等の戦闘力を手に入れ……尚且つ、更に化ける予感があった。
(狂気が解けたタイミングで闇の力を…………ん~~~~~。そういえば、人間には与えたことがなかったね。どうせなら、人間相手にも試しておくべきだったかな)
デネブには、人の意思を操る力などはない。
ただ、自分の闇にはそこまでの力はないと思っていただけで、やってみようと試したことはなかった。
(……いや、多分そんな事をしてたら、もっと早い段階で面倒な冒険者や騎士に発見されて、殺されたかもしれない。だから……とりあえず、アラッドが他の冒険者や騎士を殺したら、試してみようか)
結果、闇の力を得たアラッドに殺されるかもしれない。
そのリスクが解らないデネブではない。
だが……仲間を、友人を……相棒を殺せば、どうなるか。
脳が、心が壊れてもおかしくない。
それが闇竜の力によって起こってしまった事故であったとしても、アラッドという人間が壊れる。
そこまで壊れれば、生物を操り……支配下に置くことが出来るかもしれない。
(人の街とかを征服することに興味はなかったけど、ふっふっふ……ちょっと派手に暴れてみるのもありかな)
普段よりも、口端が吊り上がっている。
それを自覚しても尚、デネブはそれを隠そうとはしなかった。
「ォォォオオオオオオオオオ゛オ゛オ゛ァアアアアアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛っ!!!!!!!!」
「ん?」
誰かに向けるわけではない、アラッド自身が持つ狂気、恐気を叫ぶ中……男は、自身の脚に得物を突き刺した。




